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短編とか

作者: 南後りむ


 私は歌う。


  *


 私の名前は奏。羽を切られ、一人檻に入れられた、哀れな女の子だ。

 ――いや、この言い方は軽い比喩のようなもの。決して監獄に囚われているわけではない。私にはある程度の自由が保障されている。

 けれども、しかし、時に虚しくなってしまうのは、なぜなのだろうか。


  *


 生まれた時から、「きれいな声だね」とか「可愛いね」とか、さんざん言われて育ってきた。

 私は歌うことが好きだ。だけれども、それはたぶん物心ついたころから「歌うのが上手だね」などと言葉をかけられてきたからだろう。褒められると、誰しもいい気になっていくものだ。そして、いつしか褒められたその事を好きになっていく。その「好き」というのは、本能的な「好き」ではなくて、自尊心や注目されたいという欲求が引き起こす紛い物なのだろう。思えば、私は歌うということを心の底から好きだと思ったことなど一度もない。

 私は歌が好きだ。けれども、なんのために歌っているのかはわからない。口を開くと、自然と歌が出てくる。やっぱり、刷り込まれているのだろう。身に染みつく――ある種の洗脳のようなものは、恐ろしいと思う。


  *


 まわりの人たちは、私の歌を聞いていい歌声だとか才能があるとか言った。

 母親はその気になって、私に歌を強いるようになった。暇さえ見つければ私の前に来て、「歌って」と催促するようになった。幼い私は一生懸命に歌っていたけれど、なんだかそのことを思い返すと馬鹿馬鹿しく感じられてくる。

 母親は私を檻に閉じ込めた、私が逃げ出さないように。だって、私がいなくなると歌が聞けなくなるもの。

 それから、私は翼を奪われた。将来羽ばたいてゆくための翼を、切り落とされた。母親は、私を独占したいらしい。私の歌を、独占したいらしい。

 だけど、私は檻の中で歌った。歌えば、不自由ない暮らしが出来た。私は歌った。


  *


 私は歌うのは好きだが、話すのは苦手だ。

 たぶん、もとの性格によるものなのだろう。私みたいなのって、世の中探せばいくらでも出てきそうだ。

 私は時折、頑張って話そうとしてみる。けれども、やっぱり無理だ。

 周りの人たちは、私が話すたびに好奇心のこもった目を向けてくる。正直言ってもう耐えられない。

 この前だって、頑張って「スキ」と言ったのに、周りはみんなニヤニヤしていて、私をよってたかって笑い者にしているのだ。

 私は学んだ。話すのはやめだ。私は歌っていれば、まわりからちやほやしてもらえる。私は歌おう。


  *


 私は歌う。

 これからも、歌う。



  ◇



「ママー、今、好きって言ったよ!」

「あら、そうなの? 日頃から奏ちゃんに向かって好き好きずーっと言ってるもんね」

「うん! 今度お友達にお話しするんだ! うちのインコの奏ちゃんが私に『好き!』って言ってくれたって!」

おいまた似たようなの作ってんのか南後と思った方、すみません。

いちおう補足説明です。


作中の『母親』とは最後に出てきた女の子のお母さんのことです。独占云々は奏ちゃんの妄想……ということにしておいてください。


それから、翼を切られたとありますが、あれはインコが飛びすぎないように羽を間引く(?)のをインコ視点で書いたものです。

なおうちの子は羽を切られずにバタバタ飛び回っております。


あ、インコって、喋る喋らないが性格によって異なるらしいですよ~。

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― 新着の感想 ―
[一言] またまた、、、似たようなのをつくったのですね、、、。 いいと思います。 この路線を極めるのも1つの手かもしれませんね^_^
[良い点] 面白かったです。 「あー、アレ系の話ね、分かりますよ」 なんてタカをくくっておりましたら母親が出て来て、「んん!?」と混乱してしまいました。結局あとがきを読むまでどういうことか分からず………
2018/04/01 22:43 退会済み
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