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出会いと目覚め

過去投稿した作品に大幅に修正を加えた物になります。


主人公がわりとゲスです。

がっつり下品です。

鬱表現、リョナ表現など多々入ります。

外見美少女が下ネタを連発します。


上記を御確認頂き、問題ない方だけお進み下さい。

 

 柔らかな光を滲ませる満月の下。優しい光が差し込む森の木々が夜風に吹かれ、青々と葉を茂らせた枝を揺らしている。

 草木も眠り、鳥たちが羽を休めるその足元を、一人の少女が駆け抜けていく。

 うら若く美しい、細身の少女だ。

 月光に照らされ、胸元の首飾りが煌めく。


「ああっ……!」


 額に汗を浮かばせていた少女が足元を這っていた木の根に足をとられ、小石や小枝が散らばる地面の上を転がった。

 土埃が舞い、少女が苦悶の表情を浮かべる。

 何度もそうしてここまでやってきたのだろう。本来であれば美しい輝きを放っていた筈の金色の長髪は土埃でくすみ、珠のようだった瑞々しい肌には細かな擦り傷や裂傷がいくつもの赤い線を刻んでいる。

 身に着けたドレスはもはや襤褸(ぼろ)のように頼りなく、万が一の為にと腰に提げていた護身用の細剣が、今にも折れてしまいそうな少女の心を寸でのところで支えていた。

 口の端をきつく結び、目端から零れそうになる涙を堪えながら少女が立ち上がる。

 ああ、どうしてこんなことに。

 激しく乱れる少女の心を映し出したかのように、森の木々が一斉に枝を鳴らす。

 走り出す。少しでも遠く、少しでもあの者たち(・・・・・)から遠くへと。

 ぎゃあぎゃあと、少女の頭上で鳥たちが叫び声をあげた。

 風を切る音。森の闇を切り裂きながら、何者かが少女の背後から襲い掛かる。

 少女は腰の細剣を抜き放ちながら振り向くと、飛来するそれを剣先で打ち払った。鞭のようにしなる、どこか優雅さを感じさせる一撃。

 胴を真っ二つにされ、少女の足元に落ちたのは一本の矢であった。その矢じりには、粘着質な液体が塗られている。間違いなく、毒。これによって少しでも肌を傷つけられれば、それだけで少女の華奢な身体は身動き一つ取れなくなってしまうだろう。

 毒矢が飛来したその奥から、複数の野太い叫び声が響いた。まるで獣の様に、とても言葉に出来ないような品性の無い罵声を飛ばしている。


「くっ、もう追いついてきたの……!?」


 苦し気な表情を浮かべ、少女はまた走り出す。

 背後から響く怒声に追い立てられるように、森の暗闇の奥へ、奥へ。

 それはまるで奈落の底に転がり落ちていくかのようで、少女の胸の奥にあった小さな恐ろしい感情が、じわりじわりとその心を穢していく。

 

――逃げなさい。あの場所へ(・・・・・)……! 私と約束を交わした、あの場所へ!


 脳裏に過ぎるのは、自分を逃がすために賊たちに立ち向かった最愛の父の姿。

 少女の父はここ、バルラキア王国にて辺境を任された領主であり、かつては戦場を駆け抜け、幾つもの武功をあげた武士(もののふ)でもあった。老いたとはいえ、その剣技の冴えはいまだ健在。そう易々と賊に後れをとるとは思えない。しかし――


「いいえ、お父様なら、きっと大丈夫だわ!」


 頭を振り、長い髪が闇夜に揺れる。

 追手に気付かれる事さえいとわず声に出したのは、そうすることで己の心に広がる不安を拭い去ろうとしたからか。

 もうすぐ、もうすぐだ。

 細剣で枝を払い、何度も小石に足をとられそうになりながら、少女は必死の思いで駆ける。

 駆けて、駆けて、駆けて。そうしてついに辿り着く。

 木々が生い茂る、これまでの光景とは全く異なる開けた空間。

 まるでそこだけ木々が避けているように、森を丸く切り抜いたようなその場所を、頭上から巨大な満月が照らし出している。

 そこは、小さな丘であった。

 弓なりに盛り上がった大地の表面には、四角い石碑らしきものが乱立している。

 墓標のようにも見えるその石碑たちの合間を縫って、少女は丘の反対側へと回り込む。そこにあったのは、ぼんやりとした光を漏らす祠の入り口であった。

 松明の光ではない。大小様々な石で固められた祠の壁や天井。そこに生えた苔や菌類が、どういう訳かぼんやりと光を放ち内部を照らしている。

 少女は小さく息を呑み、胸元に下がる首飾りをぎゅっと握りしめながら祠の中へと歩を進めた。


――ここにはね、リリィ。天使様が眠っているんだよ。


 祠の内部。半円形をした小部屋の奥には、地上にあったものとよく似た、しかし地上のものと比べて一回り程大きい石碑が一つ。

 表面には何やら複雑な文様――古代帝国文字が刻まれ、中央にある窪みの左右から、羽ばたくように大きな翼が三対広がっている。

 

――いいかい、リリィ。よく覚えておきなさい。もしお前が理不尽な悪意、暴力に晒されて助けが必要になった時、ここに来るんだ。きっと天使様が、お前を救ってくださるだろうから。


 父の言葉を思い出しながら、少女――リリィは握りしめていた首飾りを、そこに嵌め込まれている赤い宝石を見た。血のような色をした石が、祠の光を受けて妖しく煌めいている。

 

「お父様……。天使様、どうか私をお救い下さい……っ!」


 彼女は石碑の前に跪くと、首飾りを外し祈りを捧げる。両手は胸元で固く握られ、その目尻から涙が一筋流れ落ちた。

 祠の外で、男たちががなり立てている。ここが見つかるのも、時間の問題だろう。

 リリィは祈りを終えると、ネックレスを石碑の中央にある窪みにそっと差し出した。

 するとその直後、ネックレスがふわりと彼女の胸の高さまで浮かび上がったかと思えば、その装飾部分が音を立てて砕け散ってしまう。後に残ったのは、中央に嵌め込まれていた赤い宝石のみである。

 突然の自体に言葉を失う彼女を前に、剥き出しになった赤い宝石が石碑の窪みへと吸い寄せられ、まるで拵えたかのようにぴったりとその窪みへと収まる。

 そして宝石が一瞬妖しく光ったかと思えば、突如、彼女の足元が眩い光を放った。

 

「な、なに!?」


 突然の事に彼女は目を丸くする。

 そして、光と共にその足元に現れたのは、見たこともない複雑な文様であった。

 丸い枠をなぞるように古代帝国文字――いや、これは恐らくもっと古いものだ――が刻まれ、その内側には星や月、夜空を象ったような文様が煌めいている。

 ともすれば一種の芸術品のようにも見える、美しい方陣である。

 そして、これと似たような物を彼女は知ってた。

 かつて、まだこの大地が一つだった頃。魔科学という不思議な技術が発展し、それを用いて世界統一を成し遂げんとした超大国、ヴァンセリアン大帝国。

 数多の国々を征服し、伝説によれば聖魔大戦と呼ばれる、人と悪魔による百年続いた戦争にすら勝利してみせたこの超帝国は、ある時を境に忽然と姿を消す。

 学者たちは疫病や大飢饉が原因で滅びた、などと言っているが、真偽のほどは定かではない。

 少女は、この超大国が世界中に残した遺跡、そのうちの一つを調査した学者が書き記したという研究書を、父にせがんで読ませてもらった事がある。

 たしか、その研究書の中にこれと似た物があったはずだ。

 その時、足元の紋様が一際激しく輝き、少女の視界を白く染める。彼女はたまらず目を瞑り、やがて光が収まったあと恐る恐る目を開けば、そこには信じられない光景が広がっていた。

 先程まで彼女がいた、祠の中ではない。

 廊下のような細長い空間である。

 天井も、壁も、床板も、その全てがつるつるとした光沢のある一枚の白い板で覆われており、それは磨かれた大理石でもなく、鉄でもない。彼女がこれまで見たことのない物質であった。

 さらに驚くべきことに、どうやら部屋を照らしている光はこの板から発せられているようである。

 これまで目にしたことのない物質。そしてそれを作りだす技術。魔科学。

 彼女は束の間、追手の恐ろしさも忘れ、まるで恋する乙女のように高鳴る自身の胸にそっと手を当てた。

 その足元で、先程の魔法陣が解けるようにして消えていく事にすら気付かずに。


「凄い、大帝国の遺跡……よね? 信じられない、ここまで完璧な状態で残っているなんて」


 傷一つ無い床を、小さな靴底が叩く。

 古代帝国が栄えたのは、今より千年以上前の太古の時代だと言われている。

 だというのに、壁や床には汚れ一つ無く、埃すら積もっていない。いったいどんな手段を用いれば、これほど完璧な建造物を遺せるというのだろうか。

 想像すら出来ない高度な技術力の前に言葉を失いながら、少女は鏡のような壁に手を着き、長く伸びる廊下を進んでいく。

 そうしてしばらく歩いていると、やがて大きな広場のような場所にたどり着いた。天井は見上げる程高く、壁から壁まで歩けば息が切れてしまいそうなほどの広さである。

 その圧倒的な光景にしばし言葉を失い、立ち尽くすリリィであったが、やがて視線を部屋の中央へと戻すと、そこに佇むある物に気が付いた。

 目を細めてそれが何かを確認すると、彼女ははっとして走り出す。

――それは、天井より伸ばされた幾つもの細く透明な糸に吊るされていた。

 すらりとしなやかな手足。触れれば弾けそうな瑞々しい褐色の肌。顎から首筋、僅かに実った二つの果実を通って腰、臀部へと流れる線はまるで彫刻のよう。

 一糸纏わぬその美しい裸体は全身に鉤爪のような赤い文様が刻まれ、月が溶け出したような美しい銀色の長髪が流れ落ち、宙に揺蕩っている。

――それは、一人の少女だった。

 まるで操り人形のように無造作に吊り上げられたその姿を見上げ、少女は束の間言葉を失う。

 天使。

 その単語が脳裏を過ぎると同時に、リリィは自身の胸が高鳴るのをたしかに感じた。

 それは、昔々の物語。

 栄華を誇ったかの古代帝国をもって存亡の危機に瀕するほどの、大きな戦があった。 

 異界より現れたとされる異形の侵略者、悪魔との戦い――聖魔大戦。

 百年続いたとされるこの大戦において、天上におわす女神リアディアは人々を救うために四人の天使たちを遣わした。

 流星のハティ、双星のフィーエルとディーエル、そして明星のレイリアである。

 誰もが心奪われるほどの美しい姿をした天使たちは、その銀の髪を煌めかせながら人々の元へと降臨し、女神より授かったとされる神器を手に悪魔たちを打ち払い、果てには一人の勇者と共に彼らを統べる者、魔王を討ち果たしこの世に平和をもたらしたという。

 彼女は幼い頃から、この天使たちの物語が大好きだった。

 戦場を駆ける戦乙女たちの雄姿に思いを馳せては、彼女たちのように立派な騎士になるのだと鍛錬を重ねた。

 

「そんな、まさか……」

 

 わかっている。リリィはそう自身に言い聞かせる。

 彼女達は、戦場を舞い悪を滅した天使たちの物語は、あくまで伝説だ。実在するはずがない。

 しかし、ならばこの目の前にいる少女は何者なのか。

 古代帝国が栄えたのは、千年以上前。であるならば、現代において誰も立ち入った筈のないこの遺跡の深部で眠る、この少女は――


「あっ……っ!」


 リリィが声をあげた。

 突如として銀髪の少女を吊るしていた糸が緩み、その華奢な身体が倒れ込むようにして彼女の方へと投げ出されたのだ。

 慌てて両手を広げると、彼女は崩れ落ちた少女の身体を受け止める。背に手を回せば、吸い付くような肌の感触と、温かい少女の体温が伝わってきた。

 そう、温かいのだ。驚く事に、少女は生きていた。

 その小さな膨らみは規則正しく上下し、可愛らしい唇からは微かに吐息が漏れている。

 遺跡に遺された少女。よもや古代帝国人か、はたまた本当に伝説の天使なのか。

 羽のように軽いその身体を胸に抱きながら、彼女の心中は正しく混沌の極みにあった。

 

「ど、どうしよう。とりあえず、何か着せる物を……!」


 その正体がなんであれ、いつまでも年頃の少女を裸のままにしておくのは忍びない。

 様々な感情がない交ぜになる中で辛うじてそう考えた彼女は視線を右往左往させるも、部屋の中に少女に着せられるような物は見つからない。

 平時ならば、屋敷の者に手配させるなり、自分で取りに戻る事も出来たのだが。

 と、その時である。腕の中で眠る少女に、僅かな動きがあった。捩るように身を震わせ、覚醒する素振りを見せたのだ。

 長い睫毛が僅かに震え、閉じられていたその双眸がゆっくりと開かれる。

 その瞼の奥から現れたのは、赤い、まるで血のように赤い硝子玉のような大きな瞳であった。

 露わになった二つの瞳がゆっくりと、辺りを伺うように左右に揺れる。


Se siuq ut(お前は誰だ), Sutcer(どう)repxe(して) mus(俺を) diuq(目覚めさせた)?」


 鈴を転がす様な澄み切った声で紡がれたのは、リリィが知り得る中で最も古い言語、古代帝国語であった。

 今では一部の学者のみが収めている言語。幼い頃より父が集めた古代帝国に関する文献に目を通し、古代帝国語にもある程度の学があった彼女ではあるが、まさか今はもう廃れ切ったその言語を耳にする機会がやってくるとは思ってもいなかった。

 しかし、覚えがあるとはいえ所詮は座学で少しばかり話を聞いた程度、少女が口にしたのが古代帝国語であるとはわかっていても、その意味までは汲み取る事が出来ない。

 そうして彼女が右往左往していると、少女はやがて自身を抱えるリリィの瞳をじっと見つめ、小さな掌をそっとその頬へと添えた。 

 何事かと呆気にとられる彼女の脳内は、次の瞬間閃光に焼かれる事となる。

 不意に近づく、少女の顔。一呼吸の間に互いの間にあった距離が――。


「ん――!?」


 唇に伝わる柔らかな感触。

 突然の事態に目を丸くし、リリィは少女を引き剥がそうと肩に手を駆けるも、少女の両腕は彼女の首に回され、その細腕からは想像も出来ないほどの力で抱き寄せられており微動だにしない。

 そして数秒程経った後、二人の唇はようやく離される。

 訳も分からず顔を赤くするリリィの瞳を少女は真っ直ぐに見つめると、いまだ彼女の香りを残した唇で再び言葉を紡いだ。


「ご馳走様。寝起きの一杯としては、随分と上等だったよ」


 驚く事に、少女が口にしたのはこの大陸において最も一般的な言語、バルラキア語であった。 

 突然流暢に母国語を話し出した少女に、リリィは目を見張る。


「さて、それじゃあ聞かせてもらおうか。俺を叩き起こす必要があるほどの、あんたが抱えた厄介事ってやつをな」

 

 立ち上がり、長い銀髪を揺らしながら少女は不敵に笑う。


 千年前に止められていた運命の歯車が、今動き出す――

 

大筋は同じですが、登場人物の名前や展開、性格等に大きな変更を加えております。

読者の皆様にはご迷惑をお掛けしてしまい、誠に申し訳ございません。

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