1−幕間:騒がしい1日
わりと関係ない人目線です。
読み飛ばしても、問題ありませんです。
ここは、200階層ある大型の迷宮。そこの、60階層目のセーフティエリアだ。20階層毎にセーフティエリアがあるらしい。迷宮が踏破されてからは、セーフティエリアが宿場街のように開拓されたようだ。もう何千年も前なので、お伽噺のような感覚なのだが…。
俺はビルト。生まれた時からこの階層に居る。両親が経営していた酒場兼宿屋を引き継ぎ、今ではマスターと呼ばれ親しまれている。
酒場内には冒険者ギルド支部もあり、冒険者が朝から忙しなく出入りしている。
さあ、今日も平和に過ごせるだろうか。
□□□
「マスター!何か腹の足しになるモノくれよ!朝飯食いっぱぐれたんだ!」
「ビルトさん!今日は上で狼でも獲ってくるからさ、帰ってきたら捌いてよ!」
「おう。このサンドを持っていけや。お、狼か。なら今日の夜はステーキだな!たくさん頼むぞ!!」
俺の言葉に盛り上がる冒険者達。朝から元気なこった…。言った張本人は、失敗した…という感じで苦い顔をしている。
まぁ、盛り上がるのも無理はない。野菜類は各セーフティエリアの農場で取れるし、各階を行き来している冒険者に頼めば、珍しい果物とかも手に入る。
しかし、肉類は別なのだ。危険な魔物や野生動物を討伐しなければならない。これも、親から聞いたお伽噺の類なのだが…。
開拓するにあたり、外部から家畜を連れて来ようとしていたそうなのだが、連れて来る段階で魔物被害が多く断念したそうなのだ。
肉が食べたくなったら自分達で狩るか、ギルドに依頼して冒険者に獲って来て貰うのが基本だ。
宿場街が賑わって居るのも、冒険者ありきの話なのだ。
冒険者達を送り出し、昼に向けての仕込みや仕入れをしようと準備にとりかかる。
その時…。
━━━━━━ドォォン!!
上層の階から、爆発したような音が響いてきた。
少し遅れて、僅かな揺れを感じる。店の照明が揺れて埃がたつ。まだ、今日の掃除をしてなかったのが悔やまれる…。
「おぉ…。何だ今の音…。」
「上の階で何か暴れてるのか?前に120階層で、エリアボスの蛇尾怪鳥討伐があった時も、ここまで揺れたよな?」
「今日エリアボス狩りに行ったパーティいるのか?」
「うちの階では居ないな?ちょっと上層のギルドに聞いてみるよ。」
ざわつく店内。見かねたギルド職員が、上層のギルド支部に連絡をとってくれるようだ。
外からも、大きなざわめきが聞こえてくる。
外を歩いていた数十人の街人が、慌てた様子で店内に入ってくる。
「マ…マスター!!今響いた音ってなんだ!?室内にいた方がいいのか!?」
「まぁ、落ち着けや。今ギルド支部同士で連絡取り合ってるみたいだぜ?」
たぶん、すぐに原因がわかるだろう。
取り乱して居る客を、落ち着かせるように諭す。
何か温かいモノでも提供しとくか?昨日届いた森山羊のミルクがあったはずだ。
鍋にミルクを入れ、火にかけようとしたあたりで、再度大きな音が響く。驚いて、ミルクを少し溢してしまった。勿体無い…。
「おいおい…暴れ過ぎじゃねぇの…。」
「きょ…今日は外出歩かない方が、良いかもしれないぜ?魔物達も気たってるかもしれないしよ…。」
「おい!まだ連絡つかないのか!?暴れてるのは、どこのパーティだよ!?」
「いや…連絡ついたんですけど…。今日は誰もエリアボス討伐には出かけてないって…。」
いやー…この地響きはエリアボスのそれだろう。1年に数回は聞こえてくる音じゃないか。
冒険者が相手をしてないって事は…エリアボスが狩り中なのかもしれない。
「とりあえず、上層階の冒険者達が調査してくるみたいなので!今日はできるだけ、外出は控えるように魔法拡声しますので!」
外出は控えるようにか…。これは、日中の売上は諦めておいたほうが良さそうだ。
しかし…朝出ていったあいつらは大丈夫だろうか…?巻き込まれたりしていない事を祈ろう。
再び揺れる店内照明を見ながら、ため息をつく。
今日は、夜もこの話題でもちきりになるだろう。
騒がしい店内を夢想しつつ、コップにミルクを注いでいく。今日も忙しくなりそうだな…。