1−3:ダンジョンだよ中谷さん
前門の熊、後門の虎とはよく言ったものだ。
え?そんな言葉はない?おかしいな…そんなはずないんだが…。だって、現にそんな状態になってるしな。
こんな事言ってる場合でもないんだが、少し現実逃避をしてみたくなっただけだ。
俺は諦めない!決して!!
てかさ、これ…熊盾にして逃げれるんじゃないか?
だって、固まったように動かないし?虎の方は熊をガン見してるから、俺の事は気付いてないかもしれないし?ここは一度動いてみるべきかな?
□□□
そっと足を横に進めてみる…2匹に動きはない。
ただ、虎の口から尋常じゃない量の涎が出ている。目は捕食者のソレだ。
熊の方は生きた心地がしていないようだ。蛇に睨まれた蛙の如く固まっている。
南無〜って感じだ。いや、他人事ではないんだけどね?絶賛ピンチ中なんだけれどね?
心の中で言い訳しながら、ジワジワと距離を取っていく。
「グルゥ……。」
熊がチラリとこちらを見た。何か文句を言っているが、知った事ではない。
(お前だってさっき、俺の事襲ってたじゃねぇか!!格上に狙われる気持ちがわかったか!熊野郎め!)
伝わるとは思えないが、とりあえず罵倒しとこう。それ位の仕返しは許されるハズ…。
え?みみっちい?ほっとけ!
と、一人で納得している間に、事態は動いた。
「グルォォォォッ!!!」
騎士虎とやらが、熊に向かい大きく跳躍したのだ。
角大熊は、動けないままだ。
え?てか、ちょっと待てよ?そんな巨体でそこまで跳べるのもどうかと思うが、この際どうだっていい。
問題は、俺が熊からそこまで離れた位置に居ないって事だ。
(これは…巻き込まれる位置ですよ!!?)
慌てて、熊と虎がいる位置から離れようと走り出す。虎に気づかれないように、徐々に動いてたけども、今となってはどうでもいいのだ。
だって、もう飛び上がってしまったし!
熊の方も、弾かれたように走りだし…ちょっ!同じ方向に走って来るんじゃねぇよぉっ!!
「ばっ…!お前!こっち来んじゃねぇ!!あっち行け!!」
「ガウッ!?グルルォウ!!」
隣を走り、文句を言っている熊。
何故か、言っている事がわかるような気がする。凄く情けない顔をしている…さっきまでの恐怖は何だったのだろうか…。
コイツ、そんなに走るのは早くなかったみたいだ。これならば、さっき逃げれたかもしれないな…と後悔するがもう遅いのだ。
━━━ドォォン!!バキバキバキバキバキ━━━
後ろから、物凄い音が響いてきた。
木々からは、鳥達が大量に飛び去っていく。
チラッと後ろを振り返ると、さっきまで熊が居た場所にクレーターができているようだ。
隣を走っている熊も、それを見たのだろう。若干走るスピードが上がった。
俺も走るスピードを上げる。
俺だって、小さい頃から毎日欠かさず体を動かしていたのだ。もちろん走り込みだってしていた。スタミナには自信がある!!
「ゴァァァァァァァ!!!!」
後ろから聞こえる咆哮に、体が竦みそうになるが耐える。今立ち止まったらアウトだ。
なんせ、もう認識されているのだから…。
後ろを振り返った時に、バッチリ目があってしまったのだ。もうこれは逃げ切るしかない。
地面にクレーターを作った騎士虎は、軽やかにステップして、こちらを向き…走り出す。
立ち塞がる木や、棘のついた草もなんのその!な勢いで、徐々に距離をつめてくる。
その度に、地面は揺れ、木は倒れていく。
一種の災害じゃないか?これは…。
そして、ネコ科なだけあってかなり足が早い。
熊と比べたら雲泥の差だ。
そんな事を言っている内に追い付かれそうだ…。思わず項垂れてしまう。
ああ…親父、お袋、先立つ息子を許してくれよ…!ここは一つ、辞世の句でも詠んでおくべき…。
「グルォ!!ガウガウゥッ!!」
うるさいな!!!
しんみりしてる所なんだから、ちょっと静かにしてくれませんかね!?せっかく腹を括ろうと思った所だったのに!
隣で、熊が何事か叫んでいる。
何故か『諦めるな』って言われてるようで、腹が立った。お前だって、さっき俺の事食おうとしてたじゃないか。
そして走るスピードを落とす熊。
(お前…まさか囮に…!!?)
はっとして、熊に目線を送る。
が、その前に…。
いつの間にか森を抜けたようで、目の前に青空が見えた。
そう。青空だ。
あと、数百mも進んだら崖だったのだ。
万事休す!!
てか、ただ崖だったからスピード落としただけかよ!少しジーンとしてしまっただろうが!俺の感動を返せや!!
ここまでお読みいただきありがとうございます。
次話で一段落つけれたらと、淡い期待を持っております。
読みにくい点等あれば、指摘していただけるとたすかります。
今後もよろしくお願いします。