1−2:ダンジョンだよ中谷さん
記念すべき熊との邂逅から数秒。
いや、何も記念はない。
しいて言えば、初めて生で見たな〜位だわ!
しかもこれ、極一般的な熊じゃないしね!?まだ熊の方が可愛いレベルだしね!?
だって角あんじゃん!?
俺の記憶が正しければ、一般的な熊には角なんぞ無かったはずだ!
いや!はずじゃない!絶対ない!
□□□
幸い、目の前の熊は動こうとしない。
木だと思ってくれているのであれば、とても嬉しいのだが…そうとも思えない。
どう料理してやろうか…みたいな目で見るの止めてもらえませんかね?
なぶり殺しとか勘弁してほしい所だ。
ふと、熊の頭上に何か書かれている事に気がつく。
(な…なんだあれ…?)
熊の動きに注意しつつ、目を凝らす。
どれだけ目を凝らしても、ぼんやりとしか見えない。
しっかり見えないって事は、あんまり重要な事じゃないんだろうか…?
そのまま目を凝らしていると、見覚えのある文字の羅列が見える…漢字と数字のようだ。
漢字と数字があるって事は、言葉も通じるって事ではないだろうか!?
良い発見をしたな!
しかし、そんな発見をした所で現状が良い方向に転がる訳もなく…。
だからなんだよ!って感じだ。
そんなくだらない事を考えていたおかげで、少し心に余裕が出てきたようだ。
今なら、体も動く気がするし、いい勝負もできるんじゃないかな!?
再度、注意しつつ熊の方を伺う。
『角大熊 Lv:45』
━━あほかと。
生死に関わるめちゃくちゃ重要な情報じゃねぇか!!
何で訳のわからない場所来てすぐに、45レベルの熊と対峙してんだよ!
前言撤回だよ!!
こっちはただの人間、相手は強化されてる熊。曰く、角大熊。
わかる?勝てないよね?
しかもレベルって…。
「ゲームかよ!!!」
思わずそう叫んでしまい失敗した。
その声に反応するように、目の前の角大熊がゆらりと動き出したのだ。
動きは緩慢で普通に目で追えるのだが、なんせでかい。
俺の身長も2m近くはあり、普通の人に比べたらデカい方なのだ。その俺でも、見上げる位デカい。
3m程の巨体が、大きく腕を振り上げる。
鋭い爪が光る手で一閃…が、後ろに飛び退きなんとか躱す。
「ちょ…っ!ステイ!まっ…!!まてって!」
「グルルァァァ!!」
どうも、初撃を躱した事で角大熊がイラついたらしく、恐ろしい咆哮を放ってきた。
1回攻撃が当たらなかった位でキレないでいただきたい…。
こちとら、1回でも当たったら人生終了しそうなのだ。
冷静に攻撃を見極めたいが、それどころではない。
走って逃げるべきか迷う。走った所で、追いつかれるだけな気がするからだ。まぁ…逃がす気もないだろうが。
あとは…死んだふり?
いや、死んだふりしたところで、どうぞ召し上がれ☆って言っているようなものだし…。
もう楽になりたいが、詳しい状況も掴めてない段階で諦められない。なんとかして撃退、或いは逃げ延びたい。
とりあえず、目を逸らさないままで、徐々に後ずさっていく。
このまま逃げる事ができればいいが…無理だろうな。
だってさ…何か、後からも聞こえちゃ駄目な音が聞こえてくるんだよね!こう…木々を薙ぎ倒すようなメキメキって音がさ。
誰だよ!こんな、サファリパークみたいな場所に飛ばしやがったのは!もう処理し切れねぇよ!
(てか……あれ?)
ふと、角大熊が動かないのを不思議に思い、表情を盗み見る。
……何か…心なしか青褪めてるような気がするけど、気のせいだよね?ね?
え?何?後から来てるやつはお前よりヤバいやつなのか!?そうなのか!?
バキバキバキッ━━━
物凄い近くで、木の倒れる音がした。
正面を警戒しつつ、ゆっくりと体ごと振り向く。
そこに居たのは、赤黒い毛並みをした虎だった。金色に光る、ネコ科特有の目。口から伸びる、バカでかい牙。そして、目の前にいた角大熊より大きい体躯。
「…嘘だろオイ…。」
思わず、小さく呟く。見た事もない大きさの虎に、額から汗が流れる。心臓が破裂な程高鳴っているのがわかる。
これは熊もビビるわ。俺だってチビりそうだからな。
しかも、そいつの頭上にも見覚えのある字が見える。
ゆっくりと呼吸をしつつ、目を凝らす。
『AB:騎士虎 Lv:84』
はい。
詰みましたよこれは。
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