集会所
集会所は昨日側を通っていたので場所は分かっていた。
酒場からだと2つの路地を抜け十字路を曲がった所のはずだ。
息を切らせながら真っ直ぐそこへ向かった。
「はあはあ…………あった。」
昨日イリスに教えて貰った集会所がそこにあった。
イリスがまだ居ることを願いつつ中に入った。
入ると正面に大きなボードが2枚立っておりそこにはボードを埋め尽くすように各々羊皮紙に書かれた依頼が張られていた。
「すげーな。こんな所でもこんなに依頼があるのか?」
とりあえずイリスを探すため集会所の中をうろつくことにした。集会所は1階は依頼の受付や報告をする場所になっていて2階は各々のパーティーだろうか、何人かのグループが腰掛け談笑をしたり地図とにらめっこをしたりしている大きなテーブルがいくつもあった。
「いないなあ…………」
一通り見てまわったがイリスの姿はなかった。
「となるとまだ来ていないか、もしくはもう行っちゃったかだけど…………」
そこでマコトはボードを確認することにした。
フードの男の話だと行方不明者の依頼が怪しいとイリスには教えてあると言っていた。
ということはボードにまだその依頼があればまだいるし、無ければいないとなる。
だがマコトはボードを確認しようとした時一つ気がついた。
「あ…………俺、文字読めないじゃん。」
マコトは自分がそんな事にも気付かない程に焦っていたことに一旦反省し冷静になることにした。
「…………ったく、最初から分かってた話じゃん。…………となると。」
思い付く選択肢は一つしかなかった。
「聞きに行くか。受付に。」
最初からそうすれば良かったと改めた思いながら受付に向かった。
受付には女性の人が数人いて忙しく仕事をしていた。
「すみません。ちょっとお伺いしたいんですけど……」
「はい。なんでしょうか?」
声をかけると一人の女性が爽やかな笑顔を振り撒きながらこちらに来た。
「あのー、ちょっと前にここに女の人が依頼を出しに来ませんでしたか?たぶん最近発生した行方不明者の依頼に関してなんですけど…………」
「えっと…………申し訳ございません。そう言った依頼書の内容と執行に関しては他者に出さないことにする規則なんです。」
受付の女性が申し訳なさそうに答えてきた。
「え?どうしてです?」
「依頼の奪い合いですとか執行後の強襲なんかも以前ありまして今は外部に情報を出さないようにしてるんです。」
「そんな…………」
マコトはまずいと思ったここで手がかりを失うとイリスを追うことが出来ない。
「なんとかなりませんか?同じ旅の仲間なんです。」
すると奥からもう一人女性が出てきた。
「すみませんがお名前は?」
「…………マコトです。」
「マコト…………」
何か疚しい事があったわけではないが、突然知らない人に名前を聞かれマコトはドギマギした。
すると後から来た女性は羊皮紙を1枚抱えてマコトの元に来た。
「すみません。今日イリス様と依頼を執行なさるコウノマコト様ですね?」
「…………はい、そうです。」
何故フルネームをこの女性は知っているのだろうと思ったがイリスと依頼を行うことになっているというのでマコトはとりあえず乗ることにした。
「そうですよね。この依頼を一人で行くのは無茶ですもんね?」
「…………ええ。そうなんですよ。」
「イリス様が名前を先に名前を書いて行かれたんですが、これでよろしいですか?」
彼女の話から推測すると目の前に有るのが依頼書か何かでそこにイリスがマコトの名前を書いたのだろう。
だとすると答えは一つだ。
「はい。そうです。」
しかし、これだけでは何のことやらなのでバレない程度の探りを入れる必要があった。
「あの…………これって依頼書ですよね?」
「いえ。これは承諾書です。」
マコトは依頼書のことはイリスに聞いていたが承諾書までは知らなかった。
「あれ?書くのは依頼書だけでは?」
「ああ。マコト様は承諾書を使う仕事は初めてなんですね?」
「ええそうですね。」
どうやら承諾書とは依頼書とは別物のようだった。
「承諾書は危険度の高い依頼を行う場合書くものなんです。単独で行わないためにも複数人数で参加用に連名にして貰ってます。」
「ああ、そうなんですか。じゃあ、後でイリスに書いといてくれたお礼言わないとな。で?この村は何処から出ると近いですか?」
「西門です。歩いていける距離ですよ。」
「そうですか。ありがとうございました。」
マコトは必要な情報を掴むと怪しまれないうちに集会所を後にしてそのまま西門に向かった。
「よし、バレてない。しかも受付のお姉さんが勝手に親切働かしてくれるしイリスは承諾書に俺の名前を勝手に使ってるし。……あやっぱりこれも全部フォルトゥナの力だよな?」
しかもマコトは適当に羊皮紙の文字に指を指し『この村』と聞いていたが実際にそこにはマコトが行こうとしているデリーブの名前が記されていたのである。
勿論マコトは読めていなかったが一か八かでの賭けをしていたのだ。
その結果運の良くデリーブを指していたのだ。
「しかし、一人で行くと危険な依頼って…………それに一人で行くのかよ……自殺行為じゃないか。」
しかし、マコトにも不安はあった。
かなり危ないと分かっているところに行こうとしている自分。
フォルトゥナの力があるとはいえ、戦える要素はまるでない。
下手したら死ぬ可能性も出てきた。
でも…………
「そんな怖い所に女の子一人はダメだよな?」
西門から一歩出ると昨日の狼の恐怖が甦り足が震えるのが分かった。
しかし、マコトは足を一発叩き震えを抑えると目的地であるデリーブへと急いだ。
自分を連名してくれた女騎士に加勢するために。