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イリスと別れた後マコトは教えて貰った宿屋に真っ直ぐ来た。

外観から中堅クラスの宿屋だろう。

三階建てで部屋数もそれなりにありそうだ。

中はやはり貿易が盛んな村だけあり結構な人数の人がいた。


「部屋あるかなー?」


マコトは受付のところまで進むと男が話しかけてきた。


「いらっしゃいませ。お泊まりですか…………」


明らかに語尾が萎んでいくのが分かった。

ここまでは予想通りだ。

受付の男は間違いなく俺の姿を見て怪しんでいる。

なんてったって今の俺の姿はかなり怪しい姿である。

裏通りのあのヤバそうな店で服を買って着ている。

端から見ればかなり低階級の人間にしか見えないのは俺でも分かる。


「泊まりで……一部屋お願いしたいんですけど。」

「生憎本日はお部屋が満室でし…………」

「おっと。」


マコトはわざとらしく言うと懐からGUCCOの財布を落とした。

お札はもう入ってはいないが日本の小銭とヴェスタ金貨を入れて使っている。

それとわざとらしくボロ上着をはだけたように見せる。

中はワイシャツ。

異世界に来る前に着ていたものだ。

マコトは落とした財布を拾うと、


「で?部屋はどうです?」


わざとらしく聞き直した。すると、


「え、ええ。こちらが鍵です。お部屋は三階の奥です。」

「ありがとう。じゃあこれで。」


マコトはそう言うと受付にヴェスタ銀貨を1枚置き部屋へと向かった。

階段を登り三階まで着て奥の扉まで来た。

やはりそれなりの宿屋だけあってしっかりとした作りになっている。

裏通りの服屋とは大違いだ。

入り口のドアの鍵を開けて中に入るとは中は6~7畳位の部屋の広さでベッドと机と椅子がある程度の簡素なものだった。

が、今はこれで十分だ。

マコトは荷物を机に置くと買ったばかりのボロい上着の椅子にかけてベットに寝転んだ。

普段ベットに寝ているマコトにはちょっと硬い気がしたが寝れるだけ十分と勝手に納得した。


「あああ。疲れた…………しかし言われた通りだったな。」


マコトは両替商のところでイリスに言われたことを思い出していた。


『いい?金貨は君の財布に入れておいて。両替した銀貨と銅貨は袋のなかに。そして何か大きな買い物をする時とか公の場所に行くときは君の財布を見せて。服の内側の君のその服を見せるとより効果的よ。』

『何でそんな面倒臭いことを?』

『そうすれば高位の身分の人がわざとそんな格好をしてると思わせる。旅の基本よ。この国でそれくらい位は重要なの。』


しかもこの後いくつものアドバイスを飛ばしてきた。

マコトは最初は必死に覚えようとしたが途中で限界を感じて流して聞いていた。

何から何までお見通しというか、しっかりと考えて行動をしているのが改めて分かった。


「イリスか…………突然どうしたんだろ?」


今日、突然出会い俺を救いここまで導いてくれた謎の美少女。

頭も良く剣も使える文武両道。

そして性格もいい。

特徴を羅列すると正に非の打ち所のない完璧さ。

それなのに一切取っ付きにくいところがない。

しかし…………


「フォルトゥナの話が出てきてからだよな…………雰囲気が変わったのは。」


コンジュラーのところでマコトがフォルトゥナである事を告げられた時、しっかり顔を見ることは出来なかったが間違いなくイリスの様子が変わった。


「そうすると原因はフォルトゥナの力か?」


とは思ったもののマコトにはフォルトゥナに関する知識など一切ない。

かと言って調べようにもどこで調べればいいか分からないし分かったとしてもオレアノ文字が読めないのでどうしようもない。


「うーん。八方塞がりってやつか。」


ベットにごろごろと転がりながら頭を抱え込む。

目を瞑るとイリスの顔が浮かんでくる。

すると顔が暑くなるのを感じた。

はっと思い直し顔をバンバンと2回叩く。


「違う違う。俺はそんなんじゃない。今日偶々会っただけ。それだけ。」


自分に言い聞かせる。

そして改めて今日起こった事を思い返していた。


「大冒険過ぎるだろ。不運にも程があるって…………もう不運じゃないのか。」


突然謎のじいさんに説明なしに連れてこられた世界。

フォルトゥナの力。

全く実感のわかない幸運の力。

この力を使えばなんでも出来る。がしかしそれ故の『無適正』という肩書き。

確かに望んだのは運のある自分のいる世界だったがそれしかない。

その先は?

これからどうすればいいんだ?

この世界で。


「そうか。そうだよな。」


その時マコトに浮かんだのは一つの言葉だった。


『それは君の決めることだよ。』


「そうだよな。何てったって俺の思い通りに運命が転ぶ世界なんだろ。じゃあ、俺が望むのは一つだ。」


マコトは決めた自分で決めて動くことを…………



目が覚めると日は上っていた。


「うわー!何時か分かんないけど寝過ごした!」


スマホの時計はあってるか分からない。

更にはこの世界の時間の概念も分からないけど太陽は高く照っている。

恐らく昼近くだ。


「とりあえず、イリスを探さないと。」


宿屋の場所は聞いてないしもう外に出ているだろう。

しかし、目星はついていた。

まずは、情報屋だ。

昨日のイリスの話によると情報屋は酒場にいるという話だ。

しかし一つ問題があった。


「どこの酒場だ?」


場所までは聞いていなかった。

というか言っていた気もするのだがどうせ土地勘がないから聞いても仕方がないと聞いていなかった。


「迷ってても時間の無駄だ。こうなったら。」


マコトは最近一つ学習したことがあった。

それは最近自分は運が向いてきてるということだ。

要は目についた酒場にひたすら入るというなんとも簡単な作戦だった。


「ヨシッ!じゃあ最初はここと。」


看板に酒瓶の絵が描いてあるので酒場と判断し入った。


「はい!正解!」


中は昼間だというのに人でいっぱいだった。


「入ったのはいいが誰だ?」


その情報すら覚えていなかった。なので…………


「すみません。ちょっと前に緋色の髪のめっちゃ美人の女騎士来ませんでした?」


結局運任せになっていた。しかし…………


「ん?見たような見てないような……」

「本当?」


最初に話しかけたおじさんにヒットした。

たが相手もプロのようで……


「えーっと、どうだったかな?」


はぐらかしているのは目に見えていた。

マコトはこういう時の対処法も学んでいた。

そう。イリスから。


「えー、ちゃんと思い出してよ。」


そう言うと同時に相手の手を握った。

何も変な気を興した訳じゃない。

これはちゃんとした作法だ。

その手には銅貨が1枚握られており手を握った際に相手の手にちゃんと渡されていた。

イリスいはく『情報に金は惜しむな』とのことだ。


「あー思い出したよ。ほら、あそこにいるだろあのフードの奴。」

「どれどれ?」


見るとカウンターの奥にフードを目深にかぶり一人で酒を飲んでいる男がいた。


「あいつと話をしてたよ。えらい美人だったからたぶんそうだろ。」

「OK!サンキューおっさん。」


マコトはおじさんに礼を言うとそのフードの男のところまで行った。

近寄って行くとフードの男は早い段階でマコトに気づいたようで横目でちらりとだけマコトの方を見た。

そしてわざと無視をするように酒を一口飲んだ。


「用件がある。」


フードの男の横に立ちマコトは端的に言った。


「ちょっと前に来た女騎士に教えた情報を教えて欲しい。」


フードの男は反応しなかった。


「勿論タダでとは言わない。」


そう言うとマコトはフードの男のグラスの横に袋に入った銅貨(・・)を置いた。

中身は全て表面が少し削れているような古い銅貨だった。


「中身は全て古い銅貨だ。確認してくれてもいい。」


これもイリスの教えだ。

金、銀、銅貨全てに当てはまることなのだがヴェスタ公国は近年財政が悪化していて昔の豊かな頃より苦しい。

なので硬貨を作る際に鉄などの不純物を少しずつ混ぜているらしく同じ硬貨でも少しずつ価値が違うのだ。

一般の人は気にしないが場所によっては気にするというのを覚えていてのだ。

実は今日寝坊したのは朝までかかって古い銅貨と新しい銅貨を仕訳していたためだった。

フードの男は少し中に手を入れ確認すると真っ直ぐに正面を見たままで。



「…………シャーマンについてだ。」

「シャーマン?呪術士のことか?」

「…………運を司る呪術士のことだ。」

「運?まさか?」


やはり昨日のイリスの様子が変なのは運命がらみのことで間違いはないようだった。


「近年の出没な噂なんかを聞いてきた。」

「で?何て答えたんだ?」

「…………集会所にある行方不明者の依頼がそうらしいと答えた。それだけだ。」

「それ、信憑性はあるのか?」

「さあな。元々この手の情報は少ない。俺は仕入れた情報を売るだけだ。正しいかどうかまでは責任が持てん。」


フードの男は顔を一切動かさず同じ姿勢のまま答えた。


「ってことは外れの可能席もあるのか?くそっ!」


そう思った瞬間にマコトはいてもたってもいられずに酒場を出て集会所の方へ向かって走った。

なんとなくマコトは運命がざわつくのを感じていた。

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