服屋
「これと取り替えて欲しいの。」
イリスは服屋の店主に対して開口一番言いはなった。
マコトとイリスは服を新調するために村の服屋に来たのだが…………
「なあなあ、イリス何でこんなボロい店に来たんだ?」
イリスの袖を引っ張りこそこそとマコトは話しかけた。
二人の来た服屋は村の奥正確にははずれのごろつきの溜まり場になっているようなところにあった。
従って外観はボロボロ。中にある商品もあまりいいものとは言えない物しかなかった。
その店でイリスは物々交換で服を手にいれようとしていた。
しかもこちらの差し出すものはマコトの学ランだった。
大通りに出ればもっとしっかりしたものがある店はいっぱいあった。
がしかしイリスは敢えてここを選んだ。
マコトにはその行動の意味が全く理解出来なかった。
「任せておきなさいって。」
「いや、そういうことじゃなくて。」
何故彼女はこんなに自信満々なのだろうか?
せめて理由の説明くらいして欲しい。
出会ってまだ時間が浅い女の子に振り回されてマコトは改めて思った。
不運だと。
「うちにこれと釣り合う服はないよ。」
服屋の店主が渡されたマコトの学ランを見て答えた。
まあ、どう考えてもそういう答えしかでないだろうとマコトは思った。
「そう。じゃあお願いを聞いて欲しいんだけど。そしたらあそこの服との交換でいいわ。」
イリスは近くにあった服を選び店主に渡した。
「これでいいのか?こんなで。」
「だからお願いを聞いてほしいの。」
「…………何だい?」
その筋はその筋ということか店主は何かを勘づいたようで用件を聞いた。
「物分かりが良くて助かるわ。用件は二つ。一つは両替商を紹介して欲しいのともう一つは情報屋について。」
「…………なるほど、お客さん旅の人か…………」
「まあね。」
二人で納得したようにどんどん話が進んでいく。
マコトは完全に蚊帳の外だった。
「うん。交渉成立ね。よし。マコト着替えて。」
「へ?」
やっとマコトが会話に参加した時にはもう話が全て纏まっており半ば強制的に着替えをさせられた。
「なあ、そろそろ教えてくれよ。」
着替えが終わり店を出て再び二人きりになるといてもたってもいられずにマコトは聞いた。
「?何?」
「何って、全部だよ。この服とさっきの会話!全然理解が出来ないよ!」
流石にここまで放置されると気分は良くない。
マコトは語気を強めた。
「まあ、そうだよね。よし説明してあげよう。」
「う……うん。」
それでもイリスは調子を一切変えずに受け答えるので何だか怒ってるこちらの方が変なようで思わず尻込みしてしまう。
口では一切太刀打ち出来ていなかった。
「まず、さっきの貿易商の件で服を変えることになったのは分かるよね?」
「うん。ほとんどイリスのせいだけど。」
「でもお金は手にいれた。」
「…………そうです。」
確かにマコト一人での交渉は上手くいかなかった可能性が高かった。
「それで服を変えるんだけどその時に今の服は処分しないといけない。それには大通りよりこっちの方が都合がいいのよ。」
「なんで?」
「あんな質のいい服手にいれたら普通目玉商品として見えるところに飾るでしょ?大通りでそんなことされたら直ぐに見つかっちゃう。だからこっちなの。まずこれが店を選んだ理由の一つ目。」
「ふむ。理解できた。」
「次に二つ目だけどそもそも私達が貿易商から取ってきたのは?」
「ヴェスタ金貨。」
マコトは財布から金貨を1枚出した。表にはヴェスタ公国の刻印があり裏には王様だろうか人の顔の彫刻が掘られている。
「そう。ヴェスタ金貨。君はこれで普通の人がどれだけの期間生活出来ると思う?」
「これ1枚で?うーん。」
裏表とひっくり返しながら見るが皆目検討がつかない。
円感覚ならこれは一万円位なのだろうか。
それなら半月くらいか?
「半年よ。」
「え!そんなに!」
想定外の答えに驚きを隠せなかった。
そんなに高価なのがこれ。
「普通の人はほとんど銅貨しか使わない。金貨なんて見ることもない人がほとんどよ。そんな高価なもので買い物したらお釣どころの話じゃないわ。金貨っていうのは商会同士の取引位でしか使わないの。とても使いにくい代物よ。」
「そうか。それを使うために両替が必要だ。」
「正解。でもそこで一つ問題。こういう貿易の盛んな村には両替商もたくさんいるのよ。手数料が取れるからね。」
「なるほど。」
「しかもそのたくさんの両替商の中にはぼったくりなのもいる。」
どこの世界にも悪いやつはいるもんだ。
「新参者は区別出来ないでしょ?だから店に紹介してもらう。何故だと思う?」
「…………○○に紹介されたと知り合いを出せばぼったくりしにくくなる。」
「おっ、正解。」
「よし。」
初めてイリスに誉められて最初は嬉しかったが使ったことのない頭のフル回転に疲労を覚えた。
しかしそれよりイリスの知慮深さに一層驚いた。
同じ位なのになんて頭の回るんだろうと。
「そして最後に情報屋は…………役立つ情報が得られるかもしれないからね。世の中情報を得たものと無いものではえらい違いよ。」
「なるほど。」
最初から最後まで感心しっぱなしだったマコトはもっと勉強しないとなと異世界に来て改めて思い知らされていた。
「じゃあ次は両替商?」
「うん。情報屋は話つけといてくれるらしいから明日ね。急ぎましょ。」
「あっ、待ってよ。」
「早くしないとコンジュラーに行く時間が無くなるわよ。」
イリスは細い路地を抜け両替商がおおく軒を連ねている場所を目指した。
マコトはやはり後ろをついていくしかなかった。
その姿は他人から見ると騎士と奉公人にも見えなくなかった。