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無一文かそれとも

村の中に入ったマコトは改めて驚いた。

想像していたより立派な作りになっていた。


「うわー。村って言うから小さい所かと思ったけど案外立派な所だな。」


辺りを見回すと大きな酒場があったり荷馬車が何台も留まっている建物がいくつもあった。


「そりゃそうだよ。ここはドス領の端の村だけど西に進むとそこからクワトロ領に入るんだ。そこから来る商人達がここに一旦集まってそして各地に取引に行くんだ。要はここは貿易の起点になるんだよ。この村は人も物も良く動くから大きくなったんだ。」

「へえー。なるほど。」


というイリスからの説明を受けたもののそういうことに疎いマコトは納得しているふりをしてそう言うもんだと自分に言い聞かせた。


「じゃあ、これからどうしようか?」


イリスが問いかけた。


「いや、もうここまで来たら一人でなんとかするよ。だからイリスは自分のことをしてくれ。」


だいぶ不安はあったがイリスに対して見栄をはった。がしかし……


「ここが何処かも分からないのに?文字も読めないのに?」


マコトは一瞬で一掃されてしまった。


「えっと…………その……」


更にはマコトがたじろぐと追い討ちをかけるようにイリスは攻め立てた。


「しかもマコトさ、お金持ってんの?」

「…………そういえば。」


マコトは自分の財布を探した。

入れる場所は決めている。

学ランの内ポケットだ。

そこなら間違って落とすこともなくスリに盗られることもない。

長年の経験で培った最高のポジションだ。


「……あった。」


内ポケットからはマコトの財布が出てきた。

最近友達に言われるまでずっと本物と信じてきたGUCCOと刻印された某ブランドのパチもんだ。

親から誕生日プレゼントで貰ったのだが事実を知ってから親に聞くと近所で2000円くらいで買ったものだと言われて愕然としたものだった。

中を確認すると一応、3,424円入っていた。


「あのー、一応お聞きしますけどここの通貨は…………」

「…………ヴェスタ公国の刻印が入った金、銀、銅貨。」


イリスが半目になりながら半ば諦めにも似た口調で答えた。


「…………円は?」

「なにそれ?」

「………………。」


コウノマコトは無一文になった。


「マジか……。無一文…………」


思わず膝をついて辺りにバラバラと小銭を地面に撒いてしまった。


「もー言わんこっちゃない。これが君の国の通貨?こんなの初めて見た。」


イリスが拾った小銭を拾いながら言った。

10円は銅貨だが1円はアルミ、100円は銅とニッケルの合金だ。

言葉は悪いがこの世界にそんな技術があるように思えなかった。


「そうか!この珍しい硬貨を金属として売れないか?それでお金を作れば。」

「うーん。それはありかもしれないけど。量が少なすぎるかな?……それは?」


イリスはマコトの財布を指差した。

そこには1000円札があった。


「硬貨社会なんだろ?こんな紙切れどうにかなるのか。」


マコトは財布から1000円札を1枚抜きイリスに手渡した。


「これ紙?すごーい!こんな綺麗な紙初めて見た。しかも複雑な模様がいっぱいあるじゃない。」

「もしかして紙が珍しいのか?」

「うーん。珍しいというより貴重。原料が少なくて作るのが大変なの。だから本当に重要な議会とかでしか使わないの。」

「他の時はどうすんの?」

「羊皮紙とか布とかを使うわ。あっちの方が手に入りやすいしね。マコトの国では違うの?」


日本おいて紙は当たり前のようにありほとんど使いたい放題だが展開が展開なのでここでは正直に言わないでおこうと思った。


「まあ、結構普及してるかな。でもやっぱり貴重だからお金のかわりになるんだよ。」

「なるほどね。それにしても凄い技術ね。君のニホンは。」

「まーね。ははは。…………はあ。」


しかし、お金としての価値はない。

やはり無一文なのか。そう思ったときだった。


「そうか!分かった。お金としての価値はないなら別の方向に持っていけばいいんだ。」

「別って?」


突然のマコトの一言にイリスが尋ねた。


「紙が珍しい。そして表面の模様も珍しいなら美術品としてはどうだ?東方の島国の美術品だ。どうだイリス?」


これでダメならそれまでだ。


「うんうん。いけるかも。そういうのを扱っている貿易商がいたら高値がつくかも。」

「よし、それならそこで……」


と、そこでマコトはイリスに言葉を遮られた。


「ねえ、それ私に任せてくれない?」

「何でだよ。俺の案だぞ。」

「貨幣相場分かるの?」

「ギクッ。」

「文字分かるの?」

「ギクッ。」

「貿易商の場所分かるの?」

「ギクッギクッ。」

「じゃあ、決まりね。」

「…………(コクり)」

「さあ、行くわよ。付いてきなさい!」


彼女の圧力にすっかり負けマコトは頷き後ろを付いていくしかなかった。

貿易商の所につくまでマコトは尻に敷かれるという言葉の意味を考えていた。



「中々立派だな。」

「そうでしょこの村一番の貿易商よ。」


イリスに連れていかれたそこは三階建ての立派な木造の建物だった。


「本当に大丈夫か?」

「大丈夫大丈夫。秘策があるわ。それまでマコトは黙っててね。」


イリスの異様な自身に圧倒されながら中に入っていった。

中はこれまた立派な西洋建築のような建物でたくさんの人が忙しそうに右往左往していた。

入るとすぐに係りの人だろうか一人の男が声をかけてきた。


「いかがなさいましたか?」


確りとした丁寧な口調だった。

流石は大きな貿易商だ。


「ちょっと美術品で取引の話がしたいんだけど相手出来る人いる?」


イリスが物怖じすることなく聞く。

男は少し考え『お待ち下さい』と奥へきえた。


「なあ、イリス大丈夫なのか?」

「大丈夫よ。任せなさい。」


彼女の自身は何なのだろうとマコトは心底不思議だった。

すると間もなくしてさっきの男がもう一人連れて戻ってきた。

見た目からするに偉い人なのか服装が違った。


「取引のお客様ですか?」

「そうよ。」

「何の取引でしょうか?」

「東方の島国ニホンというところの美術品よ。」


疑心暗鬼で問いかけてくる男にイリスはズバズバと答える。

堂々としていてマコトは惚れ惚れした。


「ニホン?」

「そ。ニホン。」


イリスは満面の笑みで答え続けた。


「…………お話を聞きましょう。こちらへ。」


そう言われ二人は奥の個室のような所に通された。

そしてそこで高そうなソファーを座らされると男が話始めた。


「まず、お話を聞きましょう。何故当貿易商に?」

「ここだけじゃないわ。扱ってくれそうな場所を今皆で交渉してる。その内の一つよ。」


え?なにその話?マコトはスタートから出たイリスの言葉に驚いた。

この1000円札を売ろうとしてるのは二人だけなのにさも大勢でやっているように言い始めたのだ。


「ほう。それは何故です?」

「そんなの簡単よ。高く買ってくれる所に売るためよ。」

「なるほど、分かりました。してその美術品は?見るとお二人共手ぶらに見えますが。」

「そうね。美術品は貴重だから隠しながら持ってきてるのよ。マコト、出して。」


そう言われマコトは内ポケットの財布を出しそこから1000円札を出した。


「これよ。ニホンの絵画よ。」

「ほう、これは珍しい。貴重な紙にこんな精巧な絵を書いているのですね。」

「絵だけじゃないわ。太陽に透かしてみて。」


男は言われるがままに太陽にお札を透かした。


「おお!絵が出たり消えたりしている。しかもところどころ細工も施されてあるようだ。」


そう日本紙幣の偽造防止用の透かしとホログラムという技術だ。

これはここに来る前にマコトが一通りお札の特徴をイリスに教えたためイリスが利用出来たのだった。


「これを今後このドス領に輸入するのに専属売買権を契約する貿易商を探してるの。」


な!イリスに私が何を言っても驚くなと言われたがまさかこんなことを言い出すとは大胆というかなんと言うか。


「売買権利額は私が管理してるわ。今日はこの絵画3枚を高く買ってくれる所に任せようかと思ってるの。」


イリスはマコトのなけなしの3000円をテーブルに並べた。


「では、これの買値した値段で判断すると?」


男が身をのりだし伺ってくる。


「そ。」


イリス簡単かつ自身に満ち溢れた様子で相手をしていた。

マコトはもうポーカーフェイスを保つので精一杯だった。

少し考えて男はじっとイリスを見直した。


「よし、では金貨3枚出しましょう。」

「1枚に付き?」

「くっ…………分っ……分かった。合計9枚だ。これでどうだ?」


男が目の前の9枚の金貨を出してきた。

イリスはそれを見てニッコリ笑い、


「じゃあ、切り良く金貨10枚ね。」

「………………くっ分かった。では10枚だ。」

「決まりね♪はい。これは貴方達の物よ。」


金貨を受けとるとお札を男に手渡した。


「残りはいつ来るんだ?」

「1週間後よ。その時また来るわ。」

「分かった。では、よろしく、頼む。」

「分かったわ。」


返答を聞くとイリスはマコトの手を引き颯爽と貿易商を出てた。


「すげーな。イリス。本当に成功したよ。」

「まあね。一応マコトのその珍しい服も役にたったのよ。」

「この学ランが?」

「そう。その服装が珍しいから東方の島国も信憑性が上がるしお札の出し方も懐から大事そうに出すしね。しかも財布だっけ?それもしっかりとした作りだし。」

「はは、なるほど。」


確かに学ランは珍しいだろう。

まさかパチもん財布が役立つとは思わなかったが。


「さあ、お金も工面出来たし、早くコンジュラーのとこ行って俺の職業視てもらわないと。」

「そうね。でも、その前にマコトの服装全部変えないと。」

「え?何で?」

「さっきの話聞いてたでしょ。売買権利あげるって言ったのに誰も来ないと探すでしょ。マコトの服装じゃ、目立つじゃない。」

「あっ、そっか…………って!それって大丈夫なの?」


お尋ね者になってしまったような感じだった。


「大丈夫よ。目立たなければ。それに金貨10枚分の対価は渡したあるし。騙される方が悪いのよ。」

「まあ、そうか。でも、しかしなあ…………」

「じゃあ、近くの服屋行くわよ。やることはまだまだあるわ。後私の用事にも付き合ってね。」

「それが真の目的か!」

「まあね。」


二人はコンジュラーに会う前に服装を一新するために服屋へ行ったのだった。

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