洞窟で
「話には聞いてたけど多いな。」
マコトの見える範囲だけでも少なくとも四つの洞窟が見えた。
この中の何処かに敵のアジトがあってその奥にローブの男なる人物がいるはずだ。
そしてそいつこそがマコトとイリスの探す『緋色の観察者』であるはずである。
……のだがその前に目の前にある数多くの洞窟からその一つを見つけなければならなかった。
もう日没の時間だ暗くなれば更に探すのが困難になる。
マコトはどう探せばいいか途方に暮れた。
「この中から探すのは厳しいな。」
「何言ってんの?ここはマコトの出番でしょ?」
「俺?」
イリスからの指摘にマコトはきょとんとした。
しかしそれは当然の話だった。
「こういう運任せの時こそマコトの出番でしょ?何のためのフォルトナよ。」
「……あ、そうか。」
「フォルトナ?何それ?」
イリスの指摘でマコトはようやく思い出した。
自分の最高の特技を。
一方でリブレは何のことやらで不思議そうな顔をしていた。
「まあ、マコトは特殊でね。勘が普通の人よりずば抜けて鋭いの。だからこういうのは大得意なのよ。」
「へー。そうなの。」
イリスは何故か自分のことのように説明したが確かにフォルトナの力があれば適当に選んだときこそ正しい未知へとみちびいてくれるはずだ。
「よし。じゃあ…………」
マコトは斜面をじーっと見て一つの洞窟に狙いを定めた。
「あそこ!の気がする。」
「よし。行くわよ。」
マコトの指差した洞窟目指して三人は斜面を登った。
マコトの選んだ洞窟は高さがある洞窟ではあったが幅が狭く、一人ずつ通るのがやっとの場所だった。
「灯り点ける?」
「ダメ!匂いでバレる!」
中は暗くリブレが松明のに灯りを点けようとするとイリスが強く止めた。
どうやら松明の火の匂いを警戒したようだった。
「火の焦げた匂いがするからダメ。後、中からだと明るさでバレる。なるべく目を暗闇に慣らして。光るものは使わないで。」
「……う、うん。分かった。」
「じゃあ少しずつ目を慣らしながら進むしかないな。」
イリスに注意されてリブレは持っていた木の棒に火を点けるのをやめた。
そして、三人少しずつ洞窟の奥へと進んだ。
「お。広くなった?」
ようやく暗闇に目が慣れたころだった。
三人はだだっ広い場所に出た。
しかし、そこには何もなく先の道が二つに別れていた。
「まだ、先があるな……しかも二手に別れてる。」
「深い洞窟みたいだね。」
イリスが両方の道を覗いてみるが奥はまだ深いようで先まで見ることは出来なかった。
「どうする?また俺の勘で道を選んで行くか?」
マコトはイリスに訪ねた。
イリスは少し考えた様子を見せた。
「うーん。それもありだけど、危険かも……」
「危険?どうして?」
「うん。フォルトナの力は運任せの力だから相手が何処かで私達を察知してた場合通用しない可能性があるわ。」
確かにフォルトナの力は運の力でしかない。
これが運に頼れない、先が決まっている場合は効力が発揮しづらい所がある。
それを理解してイリスはこれまで運に頼らないように知識をつけてきた。
これはイリスならではの解釈ではあったが今は信じるに値する解釈だ。
「じゃあ、どうするの?」
横で聞いていたリブレが訪ねた。
リブレも不安なのかマコトの側を離れようとはしなかった。
「…………危険だけど別れて進みましょう。」
「……マジで!?大丈夫なのか?」
イリスの案に思わずマコトは聞き返した。
「分からない。だからお互いに無理はしないこと。ヤバいと思ったら直ぐに逃げること。…………進むしかないわ。」
「リブレは?」
「あたしもお姉さんに賛成。一つの方へ行って失敗するより分散した方がいいと思う。」
リブレもイリスに賛成していた。
マコトは悩んだが結局二人の意見を尊重することにした。
「分かった。でも無理はしないぞ。ヤバくなったら逃げること。」
「うん。」
「分かった。お兄さん。」
こうして右の道をマコトとリブレが左の道をイリスが行くことにした。
「イリス。気を付けろよ。この二つの道の選択が運を分ける可能性もある。そしたらイリスは…………」
「分かってる。」
マコトが言いかけたところでイリスに止められた。
そして彼女は言い切った。
「マコトが私の不運を越えてフォルトナの力で救ってくれるんでしょ?だから……私は大丈夫。1勝っていれば十分よ。」
「イリス……」
「だからそっちこそ、リブレを守りなさいよ。また後でね。」
そう言うとイリスは颯爽と洞窟の中へと入っていった。
マコトはその背中を一切見なかった。
「…………よし。リブレ行こう。」
「うん。」
マコトは腰に下げていた短剣を構えると右の道を進んだ。
マコトは前をリブレは後ろを警戒しながら進んでいった。
「ねえ、お兄さん。」
「ん?どうした?」
二人で進み初めてすぐにリブレが話しかけてきた。
何か見つけなければような焦りの声ではなかった。
「お姉さんは凄いね。」
「…………ああ。そうだな。」
「こんな怖いところを一人で行けるなんて…………あたしは今もびびってる。」
「…………俺もだ。」
リブレがマコトの服の裾を掴んだ。
その手は震えていた。
それに気付いたマコトはリブレの手を優しく握った。
そして、リブレの顔を覗き込んで言った。
「あいつだって怖いはずさ。でも、信じてくれる奴がいるから進むんだ。俺達もイリスを信じて進もう。」
「うん。分かった。」
それを聞いたリブレの震えが止まった。
マコトが手を離すとリブレは少し離れて後ろを向いた。
「…………あたしには今マコトがいるし。」
「?ん?何?」
マコトにはリブレの言った言葉が小声で聞き取れなかった。
マコトがもう一度リブレに聞き返そうとしたその時だった。
「お兄さん!危ない!」
「え?」
突然辺りからゴゴゴと音が鳴り天井が崩れてきた。
「うわっ!リブレ!」
「お兄さん!」
落石が激しくマコトはリブレに近寄れなかった。
そしてあっという間にさっきまで二人のいた場所は岩に埋まった。
「おい。リブレ!大丈夫か!?」
マコトは岩の積み重なった方に向かって叫んだ。
岩は天井まで高く積み重なり反対側を見ることは出来ない状態だった。
しかも一つ一つの岩はとても重くマコトの力ではびくともしなかった。
「リブレ!リブレ!」
マコトが必死に岩に向かって呼び掛けると一部から小さいながら声がした。
「お兄さん!お兄さん!」
「リブレ!?」
マコトは声のする方の岩をどけようとした。
しかしやはり岩は重く全く動かなかった。
「おい!リブレ!大丈夫か!?」
マコトが出来る限りの大声で叫ぶとあちらからも声が聞こえた。
「なんとか大丈夫。でもこの先は進めないや。岩が動かないもん。」
「ふーっ、良かった。」
心臓が縮むような思いだったマコトはリブレの大丈夫そうな声を聞いて一安心した。
「じゃあ、リブレはさっきの所で待っていてくれ。もしかしたらイリスが戻ってくるかもしれないし。」
「お兄さんは?」
「…………俺は進むよ。今選択肢はそれしかないし。」
マコトは一人で行くことを決意した。
それを聞いたリブレは心配そうな声を上げた。
「お兄さん無理だよ。戦えないじゃん。どうすんだよ。」
「大丈夫。ヤバくなったら戻るよ。」
マコトは出る元気を全部出してリブレを安心させようとした。
「それにこの先にイリスもいるかもしれないしな。」
「本当に無茶しないでよ。」
「分かった!お前も気を付けろよ。」
そう言うとマコトは奥へとまた歩みを進めた。
するとマコトの行く先に灯りの光が見えた。
「あれは…………」
マコトは極力気配を消し、そろりそろりと壁沿いを進みながらその光の手前まで来た。
その光がイリスの物で無いことはもはや分かっている。
とすると…………
「…………やっぱり」
着いた場所は明らかに人の手で作られた部屋で何本もの松明に火が点けられて部屋の中は明るかった。
その部屋のおくには一人の人が座っているのが見えた。
そいつは灰色のローブで全身をすっぽり覆っていた。
体はあまり大きくないようだが顔はローブのせいで見ることは出来なかった。
「やあやあ、やっと来たね。二人で話がしたかったんだ。出ておいてよ。」
「…………気が付いてたのか。」
マコトが部屋に入るより先にローブを被ったそいつはマコトに声をかけてきた。
マコトは声をはっきり聞いたが何故か性別すら判断できなかった。
「勿論。どうしても二人で話したくてね。小さいお嬢さんには離れて貰ったよ。大丈夫危険な目には会わせないから、そんな怖い顔しないで。」
「やっぱりあれは罠だったか。俺もお前に聞きたいことが山ほどあるよ。」
マコトは持っていた短剣を腰に戻した。
そして相手の前に丸腰で出た。
「へー。丸腰かい?信用あるねえ。」
「先ずは話がしたいんだろ?じゃあ、これは邪魔だ。」
マコトは腰の短剣をぽんぽん叩きながら言った。
するとローブの中から笑い声が響いた。
「あははは、そうだね。確かに、それは邪魔かもね。じゃあ話をしよう。先を譲るよ。何が聞きたい?」
マコトはそれに対して相手を真っ直ぐ見据えて聞いた。。
「じゃあ、ありがたく。お前は…………『緋色の観察者』か?」
それに対する答えはこうだった。
「そうだね。『緋色の観察者』だ。」




