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ヴィヴィの森

マコトの見張りの当番は最後だった。

日が登ってきて周りが明るくなると見張りも終了だ。

特に何も起こることもなく朝を迎える事が出来た。

久々に気持ちのいい朝を迎えたような気持ち良さでマコトは馬車の所に戻ってきた。

戻ってくるとやはりイリスは既に起きていて日課の朝の稽古をしていた。


「おはよう。イリス。」

「ああ、マコト戻ったの?おはよう!」


マコトに気付くとイリスは手を止めて返事をした。

汗が朝日に輝きとてもイリスが輝いて見えた。


「リブレはまだ寝てる?」

「ううん。あっちで朝ごはん作ってるよ。」


イリスは馬車の裏手を指差して言った。

確かにそちらの方からマコトの鼻をくすぐるいい匂いがした。


「すんすん。確かにいい匂いがする。」

「そうなの。聞いてよ!マコト。あの娘料理が上手いのよ。さっきちょっと味見させてもらったら美味しいスープだったの。」

「…………そうなのか?さすがに行商人だけあって色んな所で食べるからな。色んなことをしってるんだろ。」

「あーそうかもね。」


マコトはイリスと話ながら若干の違和感を覚えた。

確か昨日イリスとリブレは仲が悪かったはず。

それが味見を?

もしかしらイリスが無理やり行ったのかなと思った。


「じゃあ、俺先に行ってるけど…………」

「うん。私ももう少ししたら行くね。」

「分かった。」


イリスはもう少しやるというのでマコトは先にリブレの所に行くことにした。

リブレの所に行くとイリスの言った通りリブレがスープをかき混ぜていた。

火の側では木の枝にパンが刺さっていてちょうどいい具合に焼けていた。


「おはよう。リブレ。美味しそうな匂いだね。」

「おう。おはようお兄さん。へへーん。あたしはお姉さんとは違うからね。いざって時の為に料理ぐらい出来るよ!」

「……はは、そりゃ頼もしい。」

「ほら、お兄さん食べな。」

「ああ。」


マコトはリブレから温かいスープを受け取りながら先ほどのイリスに続きこちらでも違和感を感じた。

お姉さん?

昨日の時点ではリブレはあいつとか言ってなかったっけ?

するとちょうどイリスが稽古から戻ってきた。


「あー。お腹すいた。うーん。美味しそう!リブレ!私にもちょうだい。」

「うん。ちょっと待って。はい。」

「ありがとう。」

「…………二人とも何かあった?」


明らかに昨日とは違うその様子に思わずマコトは二人に聞いてみてしまった。

しかし、二人はお互いを顔を見て笑いあった。


「マコト何よ急に?別に普通じゃない?」

「そうだよ。お兄さん普通だよ。普通。」

「…………そう……だね。ごめん。ご飯食べようか。」


マコトは怖くなってもう追求することを諦めた。

そして、改めて女の子って分からないなと心の底から思った。

その間も二人は普通にご飯を食べていた。



その日の日も暮れかけた頃三人はとうとうヴィヴィ山の麓の森に着いた。

ヴィヴィ山はヴェスタ公国の中ではあまり大きくない山だった。

しかし山肌が岩石質で崩れやすくそこかしらに穴が空いていて洞窟になっていた。


「…………とうとう着いたわね。」

「うん。ここだね。」

「…………」


イリスとマコトは目の前に広がる森の暗闇に息を飲んだ。

日も落ちてきて暗いというのもあるが辺りに漂う不気味さのせいだろうか、その森の中は更に暗くなっているように見えた。


「よし。じゃあ、行くか。日暮れ前には敵のいる場所を見つけないと。リブレ。ここまで送ってくれてありがとう。」

「………………」


マコトはその不気味さを振り払うように気合いを入れ直した。

同時にここまで送ってくれたリブレを労った。

しかし、それに対してのリブレの反応はなかった。


「そうよ。ここまで助かったわ。ありがとう。」

「………………」

「リブレ?」


イリスが声をかけても一緒だった。

リブレは無言のままだった。

やがて、彼女は意を決したようにこう切り出した。


「あたしも…………あたしも連れてってくれないか?」

「え?リブレを?」


リブレの提案に当然マコトは驚いた。

リブレがこんなことを言い出すのを想像していなかったのは勿論だがそもそも彼女の依頼はここまで二人を送り届けるとこだ。

もはや依頼を完了したリブレがこれ以上何かをする必要はない。

それなのに今少しの利益にもならないことをしようとしている。

今までの彼女からしたら考えられない行動だった。


「あたしも…………あたしも役に立ちたいんだ。だからお願い!」

「そんな事言っても危険過ぎるよ。何が起こるかも分からないんだよ。なあ、イリスも何か言ってくれよ。」

「……………………」


食い下がるリブレに対してマコトはイリスに説得してくれるように頼んだ。

しかし、イリスは無言のままリブレを見つめていた。


「イリス?」

「本気?今なら間に合うよ。」

「イリス。おい。まさか…………」


マコトの声は聞こえていないといった感じでイリスはリブレに強く問いかけた。

リブレは歯を食い縛り、イリスの目を見つめ返して答えた。


「超本気に決まってんじゃん。商人の言葉に二言はないよ。」


そう言ってニカっと笑った。

それを見てイリスは一つため息を吐いた。


「うん。分かったわ。でも邪魔したら置いてくよ。」

「おい!イリス!」

「勿論さ。」


イリスは何かを感じ取ったようにリブレをOKを出した。

マコトは思わず声をあげたがリブレはやったとばかりに得意気にしていた。


「まあ、戦えるのはわたしだけだし。守るなら一人も二人も一緒よ。」

「そうは言っても…………」


イリスはこう言ったがマコトはリブレな何かあったらという心配だけが募っていた。


「マコト。大丈夫。マコトもリブレも私が守るから。マコトは私とリブレを守って。」


イリスは力強くそして優しくマコトに言った。

マコトはうーん唸り言葉を捻り出した。


「…………はあ、分かった。でも無理はダメだぞ。」

「流石お兄さん!そういうとこ大好き!」


マコトが観念するとリブレは喜びのあまりマコトの腕に抱きついた。

マコトの腕にはリブレの物凄い肉感が伝わってくるのが感じられた。


「おい、離せよ。頼むから。」

「離して欲しい?本当は嬉しいくせに。」


マコトは目の前にイリスがいるので離すように言ったがリブレはそれを知っていてわざとらしくニヤニヤしながら言った。

マコトはイリスに怒鳴られるのを覚悟した。

案の定…………


「もう離れなさい!やっぱりそれは武器なのね。マコトも何よ締まりのない顔をして!」


さっきのまでの優しい雰囲気は一転して耳まで真っ赤にして怒っていた。

イリスによって即刻リブレは剥がされマコトは解放されたが余韻は少し残っていた。

しかしそれはマコトの心のなかに深く閉まられた。


「こんな所でぐずぐずしてる暇はない。早くしないと辺りが完全に暗くなる。行くぞ。」

「「おーう。」」


仕切り直したイリスの掛け声にマコトとリブレが合わせてようやく森の中へと三人は入っていった。

森の中はまだある程度は見渡せる視界が保たれていた。

しかし森の中は何処に敵がいるかも分からず雰囲気もとても不気味さを醸し出していた。

慎重に進む必要があった。


「なあ、イリス。ここってナチューロの狼みたいなのは出ないよな。」


野生生物が出ないとも限らないので確認も含めてマコトは聞いた。


「まあ、野生生物ならまだいいかな?」

「まだいい…………とは?」


とても不吉な言葉にマコトはその先を聞きたくなかった。

しかし、後々を考えると聞かないといけなかった。


「野生生物なら本能で生きてるから倒しやすいの。でも違うやつらもいる。」

「…………それは?」

「魔獣。やつらは術者の魔力で生成されるから術者に忠実に従う。とても厄介なの。こんなとこで出会ったら…………」

「…………ねえ?何か音がしない?」

「何?」


イリスの言葉とともにリブレが非常に不吉なことを言い出した。

それに合わせて三人は息を殺して辺りに耳を澄ました。

するとどこからか、ブブブブ、ブブブという羽音のような音が聞こえた。


「これは…………羽音か?」

「羽音?マズイ!走るよ!」

「マジか何が来たんだよ!」


三人はイリスが叫ぶと山の方向へ向けて全力で走った。

すると後ろから黒い何かが飛んでくるのが見えた。


「何だあれ?」

「キラービー。魔力で出来た蜂よ。」


後ろから来たのは拳くらいの大きさだろうか。

とても多きな蜂が飛んできたのだ。


「一匹くらい何とかならないのかよ?」

「一匹なら全然平気だけどあれは一匹でいるはずがない。刺されたら一撃よ。」


イリスがそう言った瞬間だった。

一匹だけだったはずのキラービーの所に何百といるだろうかキラービーが集まってきた。

そしてその全部が三人を追ってきた。


「おい!イリスが余計なこと言うから皆来たんじゃないよな!」

「知らないわよ!そんな事!兎に角走って!」


足場の悪い森の中を疾走するのはかなり厳しいが止まれば一瞬で餌食だ。

三人は必死に走った。

するとリブレが不意に声を上げた。


「見て。あれ!」


リブレの指差した先には大きな木の幹にぽっかりと穴が開いていた。


「あそこに入ろう!」


先頭のリブレが急に方向を変えて木の幹に向かった。

それに着いていくようにマコトとイリスも方向を替えた。


「ここ!ここ!」

「よし。ここなら。」


先に着いていたリブレが二人を呼んだ。

木の幹の中は以外と広く三人でも入れた。


「しっ。伏せて!」


三人がなるべく低くして木の幹から見えないように伏せるとその上をかなりの数のキラービーがブブブブと激しく羽音をたてて通過していった。


「…………行ったのか?」

「…………みたい。」


イリスが慎重に辺りを見回しながら外へ出た。


「うん。行ったようね。大丈夫よ。」

「ふうー助かった。」

「はあ、間一髪だったね。」


イリスが安全にかくにんするとマコトとリブレにも安堵の表情がでた。


「しかし、助かったよ。リブレ。よくこれを見つけたな。」

「へへーん。連れてきて良かったでしょ、」


マコトがぺしぺしと木のを叩きながら言うとリブレは気を良くしたのか嬉しそうに言った。


「ねえ。あれ!」

「ん?今度は何だ?」

「あっ!」


イリスが二人に声をかけた。

イリスが指し示した方向には…………


「洞窟か?」

「まさかあれが?あんなに?」


幾つもの洞窟の穴があった。

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