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マコトは確かあの時、リブレにはナチューロで仕事が済んだら全速力で逃げろと言ったはずだった。

この後どうなるか分からない中でリブレを危険な場所に置きたくなかったからだ。

しかし結果としてはリブレのお陰もあり盗賊団を鎮圧することに成功した。

そのあとナチューロに戻っても一切彼女の話を聞かなかった。

心配ではあったがきっと大丈夫だと思っていた。

それがまさかここで再び出会うことになるとは想像もしていなかったことだった。


「や、雇われたってどういうこと?」

「どういうこと?って…………言葉の通りさ。このおじさんに雇われたんだよ。ちょっと知り合いを運んで欲しいって。結構いいお金貰えるんだよ。だから、引き受けたんだけとまさかお兄さんだとはね…………これってもしかして運命かな?」

「運命って…………相変わらずだな。」


リブレは相変わらず軽い口調でマコトに話した。

イリスから詰所の前での経緯を聞いていたちょっと気まずい感じがした。


「あら、あなた大丈夫だったのね?良かったわ。」

「げっ!あの時のお姉さん。…………お兄さんと知り合いだったの?」


リブレはイリスに気付くとさすがに気まずかったようで、声が尻すぼみになっていた。

リブレはそのままイリスの元へ駆け寄るとマコトには聞こえないような小さい声で話しかけた。


「なあ、お姉さん。あの時のこと話してないよな…………」

「話したよ。」

「マジかよ…………うわあああ!」


気を使うという事は一切なくあの時が一気にフラッシュバックしたのか真っ赤になった顔を手で覆い叫んでいた。


「リブレ、あの…………俺のために頑張ってくれてありがとう。」

「うわあああ!やめろおお!」


マコトは事態を把握して感謝を伝えて落ち着かせようとしたが完全に火に油を注ぐ結果となった。

今度はその場でぴょんぴょん跳ね回っていた。


「…………あなたがやめなさい。」


それを見かねてかイリスがリブレの頭を押さえた。

それでリブレはようやく静かになった。

イリスは女の子としては背が高くマコトと同じくらいの身長なのでリブレと並ぶとまるで姉妹のように見えた。

ところがイリスが気になったのは別のところのようだった。


「女の子がそんな風に暴れないの。…………変なやつに変な目で見られるわよ。」


そう言うとイリスはマコトの方をじろりと見た。

それは盗賊と戦う時も見たことないような鋭い目だった。


「?何?何も見てない。何も見てない。」


マコトには全くその場で目の心当たりは無かった。

だが今までの危機察知の経験で何か触れてはいけないことがあると瞬時に分かった。

とりあえずマコトは両手を上げて何も見てないとポーズをとった。


「…………まあいいわ。とりあえず気を付けなさい。」

「…………ほっ。」


とりあえずイリスは治めてくれたようでマコトはほっと胸を撫で下ろした。


「痛ってーな。分かったからそろそろ放せよ!」


リブレはよほどの力で頭を押さえ込まれていたのかイリスの手を無理やり離して頭を擦っていた。

そして即座にイリスから距離をとった。

なんて忙しいやつなんだろうとマコトは思った。


「貴女が暴れるからでしょ。」

「うっせーよ。元々はあんたが喋るのが悪いんだろ。この絶壁女!」

「絶壁?何のこと?」

「…………絶壁?」


マコトはリブレの言葉の意味が理解出来ずに首をかしげた。

しかし、それは言ってはいけない言葉だったことをこの直後に理解した。


「なあ、イリス。何のこ…………イリス?」

「……………………」


イリスは無言で腰の剣に手をかけようとしていた。

どうやら、さっきの一言が気に触ったようだと判断したマコトはすぐに止めに入った。

一方のリブレはマコトが気がついた時には馬車の影に隠れていた。


「な、なあ、イリス?俺、イリスが何に怒ってるか今一分からないんだけどさ。な、リブレは悪意あって言った訳じゃないと思うんだよ。だからさ、とりあえず落ち着かないか…………な?」

「……………………ない。」

「へ?」


マコトの静止にイリスは何かを言ったがイリスは剣に手をかけたまま小さな声で何かを言った。

しかしマコトには聞き取れなかった。


「………………なわけない。」

「だから何だって?」

「あいつが…………あんなふざけた物を持ってる奴が私に対して悪意がない訳がない!!あいつは間違いなく私を見下しているに違いない!だから、だから…………」

「イリス!?」


マコトは今にも飛び出しそうなイリスを必死に押さえた。

リブレはリブレで馬車の影から全然出てこなかった。


「ちょっとリブレも出て来て謝れよ。」

「むーりー。絶壁怖ーい。」

「ほう。良く言った。殺してやる!」

「バカー!煽るな!」


マコトは意味の分からない絶壁の二文字を恨めしく思いながら必死にイリスを押さえた。

このままでは本当にリブレを殺しかねない勢いだったからだ。


「ゴホン!あの~いいですか?」


それは助け船の他なかった。


「お三方は知り合いだと言うのは重々分かりましたが次に進んでも良いですか?」

「はっ!…………はい……」

「…………はは、助かった。」


コルツさんが見ている限界とばかりに入ってきた。

イリスは自分の行いを客観的に恥ずかしく思ったのか顔を真っ赤にしてシュンと急に静かになった。

マコトは助かったと安心しつつも敵の可能性のあるクルス商会のど真ん中だった事をすっかり忘れていた事実に苦笑いがでた。

リブレはイリスが静かになったのを確認すると静かに馬車の裏から出て来てマコト影に隠れてイリスの目の届きにくい場所にいた。


「では、改めてイリスさん。マコトさんお願いします。」

「はい。分かりました。」

「…………はい。」

「リブレも頼みますよ。」

「おう。任せておきな。」


イリスとマコトには丁寧に、リブレには優しく言葉をかけられると馬車乗った。

イリスはまだ恥ずかしさが抜けていないのか返事が一際小さかった。

リブレが御者の席に座り、イリスとマコトは後ろの荷台に座った。

基本的には表向きはリブレがクルス商会の行商人として村を歩いているという形で二人は荷台で荷物として隠れながら移動するということにした。

クルス商会の名前と手形があればほとんどの村で荷物を調べられることがないので隠密で行動が出来るというのが理由だった。


「では、行ってきます。」

「おし、行くか!」


マコトがコルツに別れを告げるとリブレが威勢のいい声と共に手綱を打った。

そして三人を乗せた馬車は目的地であるヴィヴィ山へ向けスタートしたのだった。

なんと30話まできました。

30話こんなんで大丈夫だったですか?


初の3人旅です。

どうなることやら。

お楽しみに!

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