決意
マコトはその後は何にも手かつかずイリスとの待ち合わせの時間を迎えてしまった。
自分の為にヴェスタ公国がこうなってしまったという罪悪感。
しかも目の前には当事者とも言うべきイリスがいる。
どんな顔で会えばいいのかマコトには分からなかった。
このままひっそり別れてしまおうかとも思ったがマコトにそれをやる勇気は無かった。
結局は待ち合わせの時間に集会所に行くしか無かったのだ。
「ふーっ。」
集会所までの道のりはため息しか出なかった。
しかしこのままではイリスは自分の異変を察知してしまう。
そんな事になってしまってはきっとイリスとは一緒に居ることが出来なくなる。
マコトはそれだけは絶対嫌だと思った。
マコトはイリスと旅をこれからもしたかった。
その為にはイリスが気付かれずに呪いを解くしか無かった。
マコトは老紳士からヒントを貰っていた。
「緋色の観察者か…………」
その言葉からするに恐らくは異名のようなものだと思われた。
マコトには勿論聞き覚えはなかった。
「…………見つけないと。」
「何を?」
「うわっ!」
後ろからの不意の一言に思わずマコトは尻餅を着いた。
「??イリス?あ…………あの……」
後ろから声をかけてきたのはイリスだった。
マコトは準備をする暇もなくイリスに会ってしまってしどろもどろになっていた。
「??どうしたの?そんなに驚いて。ねえ、さっきの見つけるって何を?」
イリスは目をパチクリしながらマコトを覗きこんだ。
覗きこまれたマコトは思わず目を逸らしてしまった。
「あ…………いや、何でもないよ。こっちの話。」
「?そう?」
マコトは服の土埃をほろうと平然を取り繕った。
イリスは不思議そうな顔をしながらも何となく納得したようだった。
「で?どうだった?情報収集。」
「…………うん。ごめん。何も得られなかった。」
マコトはとっさに嘘をついた。
少しもイリスには気付いて欲しくなかったからだ。
「そっかー。そうだよね。いくらフォルトゥナの力があるとはいえそう簡単には見つからないよね。実は私もだったんだけどね。やっぱり運がないと中々厳しいよね。」
「…………そうなんだ。残念だったね。」
マコトは一言喋る度にいたたまれない気持ちになった。
喋れば喋るほどイリスを騙しているようなそんな気持ちになった。
「んー。まあ、こういう日もあるよ。」
「はは…………。」
一方のイリスはいつも通りといった調子だった。
マコトはそれに合わせるしか出来なかった。
「じゃあ今日はどうしようか?もう少し情報収集する?二人でやったら何か見つかるかもしれないし。それとも依頼の一つでもする?マコトが一緒なら今日は簡単そうなのにするよ。お金も必要だし。ああ、それよりお昼にする?」
「…………ごめん。今日はちょっと体調が悪くてさ…………宿屋で休んでていいかな?」
イリスはとても楽しそうに話した。
それを見てマコトは限界だった。
今にも胸に穴が空くんじゃないかと思った。
「え?そうなの?大丈夫?お医者さんに行く?私知ってるよ。お医者さんの場所。」
「…………いや、大丈夫。少し疲れただけだと思うから休めば治るよ。」
「本当に?じゃあ宿屋まで送るよ。」
「……いや、本当に大丈夫だから。一人で行けるよ。ありがとうイリス。」
「そう?分かった。じゃあ私は今日は一人でやるね。マコトは無理しちゃ駄目だよ。」
「…………ごめん。」
マコトはイリスの心配を他所にその場を後にした。
その後もイリスはマコトに何か言っていたがマコトの耳には届いていなかった。
マコトはそれよりも早く逃げたかったのだ。
イリスからも今の自分からも。
「…………最低だ。俺。」
マコトが宿屋に戻り部屋に入った瞬間に口にした言葉だった。
そのままマコトはソファーに倒れこんだ。
「俺だけが共に戦うなんてカッコいいこと啖呵きって結果がこれかよ…………超笑える。」
自分なら自分の力さえあればイリスを救える。
それがこの国を救うことになると思った。
でもそれは違った。
本当は自分がイリスを追い込んでいた。
この国を追い込んでいた。
自分さえいなければイリスはあんな辛い思いもしなかったし今でもお城でお姫様としてなに不自由なく暮らす事が出来た。
この国ももっと皆が裕福に暮らす事が出来た。
自分はどれだけの人を不運にしたんだと。
自分を攻めざる負えなかった。
「…………もう、イリスには迷惑はかけられないな。」
マコトは天井を見上げ目を閉じた。
するとそこにはこの数日の思い出が浮かんできた。
その思い出のほとんどがイリスと一緒だった。
そして思ったもう悲しい思いはさせたくないと。
「…………となるとやる事は一つだな。」
マコトは決心した。
一人であの緋色の観察者を探すことを。
イリスをそんな危ない所に連れて行くわけにはいかない。
これは自分がやったことに対する贖罪であると。
「ヒント他にもあった。敵である緋色の観察者なる人物は権力を得るために呪術を使ったとあのじいさんは言った。権力の中心にそいつはいるはずだ。」
マコトには一つだけ心当たりがあった。
「権力の中心。要はこの国の中心。ヴェスタ公国の王城にきっとそいつはいるはずだ。」
確信のある答えでは無かった。
だかそれしか考えられなかった。
「あとはフォルトゥナの力頼りだ。俺の今一番叶えたい事はこの国を救うことだ。運の神様が見逃すはずがないだろ。」
マコトは立ち上がるとテーブルの上にGUCCOの財布を置いた。
中からはヴェスタ金貨を一枚だけ取りだし自分のポケットに入れた。
残りは財布ごと全部イリスにあげることにした。
「こんなんでお詫びにすらならないけど…………ごめん。イリス。イリスが後で知ったらきっと怒るだろうけど俺には他に方法が思い付かないんだ。俺、バカだから。」
そして、マコトは部屋を後にした。
イリスの香りが少しだけ残る部屋を。
「さよなら。イリス。」




