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休息の前

「うーん。結構いい部屋じゃない。」


結局、イリスに押しきられマコトは全額自腹(・・・・)で宿屋を借りることになった。

やはり夜も遅くなったていたので普通の宿屋は全部満室。

しかも二人連れというのが更には追い討ちをかけた。

やっと空いていた所はそれなりの値段の場所でマコトはまた明日両替商の所に行く必要があるなと思っていた。

しかし、それなりの値段の代償はあったようで部屋は広く、とても綺麗に仕立てられていた。

そして何よりもイリスが上機嫌だった。


「なあ、イリスって元お姫様なんだろ。その……お金とかあるんじゃないのか?」


財布をパサパサさせながらマコトは言った。


「あるわけないでしょ。話を聞いてなかったの?私はもう関係ない立場なの。この旅も依頼料で生活してるんだから。」

「そうなのか?」

「そうよ。今日の生活費だって今日の依頼料を期待してたのに…………こんなに時間かかるなんて……」


マコトは思わずお疲れ様ですと言いたくなったが自分も加わったのでここはお互い様だなと言うのを止めた。


「なあ、俺は直ぐに寝てもいいか?今日1日がかりで動いたからそろそろ限界だよ。」


マコトは大あくびをしながら眠気を訴えた。


「村長の部屋で寝てたのに?」

「だ・か・ら寝てないって!」


まだそれを引っ張るのかと思いつつ最後までマコトは否定した。

ここまでくると意地にも近いものがある。

一方イリスの方はそれを聞いてか聞かずか部屋をキョロキョロと見回すと、


「で?それはいいけどどっちが何処でも寝る?」

「へ?」


部屋に来て初めて分かったことが一つあった。

それはこの部屋にはクイーンサイズ位のベッドが一つしかなかったことだ。


「…………ちょっと文句言ってくる。」


マコトは即座に部屋を出て受付に向かおうとした。

するとイリスがマコトを静止した。


「ちょ、ちょっと待ってよ。」

「何だよ。ベッドが一つしかないって文句言ってくるんだよ。」


すると、イリスが一つため息をついて呆れたように言った。


「…………ここしか空いてないらしいよ。聞いてなかったの?」

「マジ?」


マコトはゆっくり受付とな会話を思い出してみたが何も出てこなかった。

何故ならマコトは受付と話をしていなかったのである。

全ての主導権をイリスに取られ結局お金だけを払うという悪い女に引っかかる悲しい男のような状態だった。


「…………どうすんの?」


マコトは全権をもうイリスに委ねることにした。

一応この部屋で他に眠れるところはないかじっくり見てみた。

ベッド、ソファー、椅子、床がマコトの候補に上がった。

しかし仮にも女の子のイリスを粗末な所に寝かせる訳にはいかない。

となるとソファーか椅子だろうか?と悩んでいた。ところが


「じゃあ、私がソファーで寝るよ。」


イリスがまさかの男気溢れる一言を放ちベッドから毛布を一枚取るとソファーに毛布を置いた。


「ちょ、いいのか?イリス。」

「まあ、私が勝手に選んだんだし。昨日寝た部屋よりはこのソファーでも大分ましだよ。」


さらっと言ってのけるイリスに思わず『姉さんかっけー!』と言いかけたがここは男として負けていられない。

マコトはイリスの肩にポンと手を置くと


「いや、ここは俺がソファーで寝るよ。」


と自分では出来る限りのダンディーな声で言った。


「あっそ。じゃあ、遠慮なく!」


イリスはマコトの言葉に迷いなくベッドを選び思いっきりベッドに飛び込んだ。


「サイコー!こんなベッド久々。」


全開で格好つけた分肩透かしを食らったマコトだがやはりイリスを見ていたら虚しさは消えていた。

言葉の端からもいつもこういう所で暮らしているとは思えない。

恐らくは下級宿屋を転々と旅しているのだろう。

たまにはこういうのもさせてあげないと元お姫様には辛いだろうと。

片やイリスはそんな思いに知ってか知らずか久々のベッドを堪能したいた。

それを見てマコトはソファーに横になった。

寝ようかと思ったその時イリスの方からガチャガチャと鉄のぶつかるような音がした。


「イリス何だよ。ちょっとう…………」


ソファーから身を上げてイリスに文句言ってやろうとしたマコトはそこで固まってしまった。

視線の先ではイリスが上半身に纏っていた銀色の鎧を脱ごうとしていたのだ。

勿論鎧の下は裸などではなく下のスカートと同じ白を基調とした服だったのだが鎧がないとピタッとしているので体のシルエットが分かってしまうタイプの服だった。


「…………細身なんだな。」


マコトは思わずしまったと口を閉じた。

小さい声であるが心の声がだだ漏れだった。

イリスはあの長い剣を振るう割にはそれににつかわしくない細い手足で胴体もシルエットの感じでは筋肉という感じはしなかった。

真っ白なシルエットに緋色の長い髪は見ている者の視線を完全に釘付けにした。

だから…………


「…………何かご用で?」


直ぐに見てるのがバレるのだった。

マコトは思わずソファーの影に隠れた。


「ご、ごめん。つ、つい。」

「……つい…………何?」

「見る気はなかったんだ。でもガチャガチャと音がして何かなーと思って。」

「そこじゃなくて!見て何を思ったの?」

「見て何をって。その…………あの…………細くて綺麗だなと。」


マコトは顔から火が出るくらい恥ずかしかったがイリスの勢いに押されて答えざる負えなかった。

もしかして覗いたと思われ怒られるかと思ったがイリスの反応は違っていた。


「…………細くて綺麗か………細い、ね。ま、まあいいわ。許す。」


呆気なくイリスは許してくれた。

しかもその後は一人で何やら『無くてもいけるのね。』とか『案外こちらの方が』とかぶつぶつと独り言を言っていた。

何はともあれ命が助かったマコトは改めて寝直すことにした。

絶対にイリスの方を見ないようにして。

疲れていたので直ぐに寝付けるかと思いきや色々あったせいか逆にマコトは寝付けなかった。


「ねえ。起きてる?」


しかし、それはイリスも同じだったようであちらから声をかけてきた。


「ああ、起きてるよ。」

「そっか。…………今日はありがとね。」


その瞬間、マコトは心臓がトクンとなるのを感じた。


「…………何だよ。突然。」

「だって、私の事探してあそこまで来たんでしょ?」

「……まあ。」

「そして一緒に戦ってくれた。」

「……うん。」

「初めて。誰かと共闘したの。今までは他人を遠ざけてきたから。」


マコトはあの時のイリスの話を思い出した。

一緒にいればその人も不運になる。

だから他人とは関わりは持たないようにしていると言っていた。

今までずっとそうやって一人で戦ってきたのだろう。


「…………フォルトゥナの力って偉大だろ?」

「そうだね。でも、もし、フォルトゥナの力が私の不運に負けたらマコトはどうするの?」


マコトは思った。

もしそんなことがあってもと。

でも敢えて。


「フォルトゥナが負ける訳ないだろ。神様対呪いなんて勝負する前に結果は見えてるよ。」

「ふふっ。そうだね。」


マコトは思った。

恐らく自分がこの世界に来たのは彼女を救ってこのヴェスタ公国を救うためなんだと。

だから……


「だからさ、イリス。俺はイリスの不運をこのフォルトゥナの力でなんとかするよ。」

「え?」

「イリスの不運がマイナス100の力ならフォルトゥナの力はプラス101の力だ。フォルトゥナが1勝ってる。その1でイリスを救ってみせるよ。俺が…………俺だけはイリスと共に戦うよ。」

「………………」


そこからイリスは一言も喋らなかった。

マコトも気づいたら寝ていた。

マコトはイリスがどんな反応をしていたか確認出来なかったが、元不運の経験から予想は出来た。

何故なら不運ではなく幸運を他人と分かち合えるなんてこんな幸せな事はないのはマコトが一番知っているのだから。


二人の距離は縮まりましたかね?

どうでしょうか?


あと意外とイリスさんは…………止めましょう。

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