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48.Epilogue3.



 ウェザード王国、帝都近隣の小さな町にひとりの少年が太陽の下で日光浴をしていた。

 子供たちが広場を駆けまわる光景を微笑まし気に眺めながら、少年は部下の報告を読み上げていく。


「凄いな、ジャレッド・マーフィーもそうだけど、イェニー・ダウムもまさかローザ・ローエンを倒すだけの実力があるなんて。この時代をちょっと甘く見ていたかもしれないなぁ」


 亜麻色の髪を揺らしながら、少年は苦笑した。

 少年は読み終えた報告書を地面に放ると、椅子の上で背筋を伸ばす。


「いや、困ったなぁ。僕も僕でいろいろと準備はしたんだけど、やっぱり障害が多いなぁ。ジャレッド君を味方に引き込めればいいんだけど、きっと無理だろうねぇ。イェニー君も、普段はか弱い女性を装っているし、平気で誘拐されるような子が僕たちの仲間になれるとは思わないし。うぅん、彼らはさておき、まずワハシュ君から潰さないと駄目かな。想像以上にヴァールトイフェルが戦力を集めてるのはずるいしなぁ」

「ラスムス様」

「うん? ああ――ドリュー君!」


 ラスムスと呼ばれた少年は、声の主に視線を向けると破顔した。

 彼の名を呼んだのは、ドリュー・ジンメルであり、死んだはずの少年だった。しかし、ドリューは生きている。緑色の軍服に似通った衣服を纏い、敬うようにラスムスに深く礼をした。

 ドリューはエミーリアに追い詰められ、ジャレッドに打ち倒されたときとはまるで別人のように落ち着いている。

 言葉や雰囲気も穏やかとなり、まるで――生まれ変わったようだ。


「身体の調子はいいのかい? ごめんね、腕だけは再生できなくて、僕らの技術もまだ未熟であることを痛感したよ。不便はないかい?」

「いいえ、新しい生をくださっただけで、感謝してもしきれません。それに、腕の一本は戒めであると思っていますので、むしろなくてよかったとさえ思っています」

「そうかい? それでも僕はドリュー君の腕を取り戻してあげたかったよ」

「ラスムス様の優しさに、私は救われています。お気持ちだけで十分です」


 主の暖かい気遣いに、ドリューは涙さえ浮かべて膝を着いた。ラスムスの手を取り、額を当てると、感謝の言葉を伝える。


「大げさだよ、僕たちは家族なんだ。家族のために力を尽くすのは当たり前のことじゃないか」


 少年の言葉にドリューが歓喜で震えた。


「それよりも聞いたかい? 君を脅かしたエミーリア・アルウェイは父親の手によって軟禁されたそうだよ。馬鹿だとは思わないけど、行動が極端だよね。今までこそこそと小物じみたことをしていると思えば、心を入れ替えて急に善人になろうとするなんてね。僕から見れば滑稽さ、一度でも悪いことをしてしまえば、二度と善人には戻れないんだから」


 ラスムスはエミーリアを笑う。

 彼女にはもっと選択肢があったにも関わらず、もっとも正しく愚かな選択を選んだと笑い声がこぼれてしまう。

 小悪党が善人ぶろうとしても無駄だ。その手本がエミーリア・アルウェイだとラスムスは思う。

 心を入れ替えた、間違いだと気づいたと言えば聞こえがいいが、結局は破滅寸前の母親を見て「こうはなりたくない」と思ったからこそ、行いを改めたにすぎない。それを、改心したと思いこむのはいささか厚かましい。


「もうあの女のことは気にしていません」

「そうだね、その方がいいよ。君はもう、人間の道理に縛られることはないんだ。貴族、平民なんて分けなければ生活できないくだらない人間たちは、等しく滅んでしまえばいい。だけど、僕たちは違う。等しく家族であり、平等だよ」


 少年の幼さが残る手が、握りしめるドリューの手を暖かく握り返した。


「さあ、君が迎えにきたということは会議の時間かな?」

「はい。詳細は知りませんが、魔術師協会がなにやら慌てているようです」

「えっと、ああ、思いだした。ウェザード王国はしばらく騒がしくなるだろうね」

「と、言いますと?」

「これから王国で復讐劇がはじまるのさ。僕は、当事者に少しだけ力を貸してあげたけど、もし復讐を遂げることができたのなら、友達として迎えにいってあげてもいいと思っているんだ」


 椅子から立ち上がり、少年は歩き出す。


「まぁ、でも当面は僕たちには関係ないから放っておいていいよ」


 ドリューは地面に落ちていた書類を片手で拾い上げると、彼の後に続く。


「そうだ、今抱えている問題が解決したら、ちゃんとエミーリア・アルウェイに復讐をする機会を作るから、そのつもりでいてね」

「ラスムス様、ですが……私はもう気にしていません」

「君は気にしていないかもしれないけど、僕が気にするんだよ。僕の大切な家族を追い込んだ女を、決して許してはおけないよ。アルウェイ公爵は娘を厳しく処罰できるような男ではないから、僕がやらなければ――君の家族としてね」


 背後を歩くドリューに微笑むと、ラスムスは王都方面の空を見上げた。


「きっとそのとき、僕らと君は戦うのかもしれないね。でも、もし、君が僕の見込んだ人物であれば――是非とも家族に迎えたいよ、ジャレッド君」


 少年は笑みを深めて、足取りを軽くする。

 気を抜けば踊り出したくなる衝動さえ込み上がってくるほど、これからが楽しみだ。

 長年の暗躍、敵対する組織、欲しい人材、やるべきことは多くある。

 とてもじゃないがひとりでは無理なので、愛する家族の手を借りて目的を果たさなければならない。


「さあ、楽しい復讐の時間だよ」




二章最終話となります。

申し訳ございませんが、ご感想への返信が遅れてしまいますが、ご理解を頂ければ幸いです。

よろしくお願い致します。

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