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47.Epilogue2.


 エミーリア・アルウェイが母コルネリアの悪行をすべて父に明かしてから、三日が経った。

 無事に保護されたイェニーは家族を安堵させ、同じく無事であったジャレッドも周囲を安心させた。

 エミーリアは父の命によって監視付きで軟禁となり、外部との接触は禁じられている。父親自らが取り調べを行ったのはせめてもの情けなのかもしれない。

 彼女の証言により、コルネリアの味方だった者たちの悪行も明らかになり、厳しく罰せられることとなった。公爵は、コルネリアほどではなくても後継者争いのせいで不仲となっている側室たちに、一線を越えればどうなるのか見せしめるように徹底した。

 騎士団によって投獄された者も少なくないとジャレッドは聞いている。

 そして、ジャレッドとイェニーの証言から、ヴァールトイフェルがハンネローネとオリヴィエから手を引いたことが公爵に伝わる。公爵は心底安堵すると同時に、巻き込んでしまったジャレッドたちに深々と頭を下げ謝罪をした。

 とりあえず危険は去ったと思いたい。

 しかし、コルネリアは娘の裏切りを予期していたのか、それともローザが失敗すると予想していたのか行方をくらませていた。

 おそらく実家を頼ったらしい。コルネリアの父は娘を溺愛しているらしいので、例え公爵が相手でも限界まで抗うだろうとオリヴィエは予想していた。その結果、コルネリアの父が窮地に立たされても知ったことではない、とも思っている。

 ジャレッドやプファイルが案じたように、コルネリアは守りが薄くなった屋敷に冒険者を十人以上雇い襲わせた。しかし、ジャレッドがいないことは知っていても、まさかプファイルがいるとは想像もしていなかったのだろう。

 雇われた冒険者はひとりを残して、すべてプファイルによって始末された。唯一捕縛された冒険者からの証言により、コルネリアがハンネローネとオリヴィエ、そしてトレーネを亡き者にせよと命じたことが改めて明らかとなる。

 公爵の怒りはすさまじいもので、近々コルネリアの実家に兵を送ることも考えているらしい。

 オリヴィエはそんな父に、エミーリアにあまり重い罰を与えないようにと手紙を送った。

 ジャレッドとプファイルから、過ちを認めた彼女が間違いを正すために行動したことを知ったからこそ、オリヴィエもするべきことをしただけだ。

 エミーリアは直接関与こそしていなかったが、見て見ぬふりをし、オリヴィエに対しては長年嫌がらせを続けていたのも事実。今後、どうなるのかはわからない。ただ、一度ゆっくり話をしたいとオリヴィエが呟いたことをジャレッドは聞いている。姉妹が再び、顔を合わせる日がくることをジャレッドは願った。

 他の側室も、後継者争いに忙しいため、ハンネローネを狙うことはないだろう。つまり、長年オリヴィエたちを苦しめていた脅威は完全ではないとはいえ去ったと言える。あとは、コルネリアが捕まり、公爵によって裁かれるのを待つだけだ。


「なのに、どうしてお前がまだ屋敷にいるんだろうな?」

「……まだコルネリア・アルウェイが捕まってない以上、なんらかの形で報復を企む可能性もある」

「そんなことはわかってるよ。はいはい、何度も聞きました。だけどな、魔術師協会も、冒険者ギルドにもコルネリア・アルウェイに関わる人間の依頼は受けるなってお達しも出たから誰かが追ってくることはそうそうないんじゃないか? でも、お前はこう言うんだろ、我らヴァールトイフェル以外にも裏の仕事を行う組織が存在している――って、違うか?」

「……わかっているならいちいち聞くな。私はこれから、ハンネさまと花の手入れをするのだから、邪魔をしないでもらおう」

「だから、オリヴィエさまの母親を愛称で呼ぶんじゃねえよ!」


 ジャレッドは、先日から屋敷で暮らしだしたプファイルに怒鳴る。

 冒険者を倒し、屋敷の留守を預かってくれた彼を呪術から解放し、感謝の言葉を伝えた。ヴァールトイフェルが手を引いたこと、ローザが去ったことを伝え、握手を交わしたのだが、プファイルは屋敷に残った。

 聞けば、ハンネローネから屋敷に居てもいいと言われたらしい。まさかと思いオリヴィエに事情を聞くと、冒険者から守ってくれたプファイルに感謝したハンネローネが、滞在を許したらしい。

 プファイルもジャレッドと戦った傷が完治したわけではなかったので、二つ返事で滞在することにしたらしいのだが、


「ハンネローネさまもハンネローネさまだし、プファイルもプファイルだ! 普通、命を狙った暗殺者を滞在させようと思わないし、命を狙った相手の屋敷に滞在しようとは思わないだろっ!」

「何度も言うが、私は仕事と私事をはっきりとわけるのだ。だから、お前がローザと戦うときも、この屋敷を守っただろう?」

「それはそうなんだけどさぁ!」


 すでにオリヴィエは諦めている。マイペースでおっとりしているハンネローネだが、一度決めたら頑固なところがあるので意見が変わることがないことを娘であるオリヴィエが一番よくしっていた。

彼女は、滞在中はこき使ってやると地味な復讐を考えているようだが、どうなることやらと思う。

 トレーネはハンネローネとオリヴィエが文句を言わないなら、自分も文句はないと言い、プファイルに簡単な仕事を手伝わせている。

 つまり、現在屋敷でプファイルに文句を言っているのはジャレッドだけだった。


「お前さ、まさかとは思うけど、ハンネローネさまは人妻なんだから変な気を起こすなよ」

「…………」

「なんとか言えよ!」

「……お前と話をしているのも楽しいが、ハンネさまとの約束の時間だ。失礼する」

「おい、ちょっとまった、お前、質問に答えてないぞ。いや、ちょっと、嘘だろ?」


 視線をそらし、そそくさと部屋から出ていくプファイルの背中に声をかけるも、返事はない。


「まさかプファイルがハンネローネさまを……勘弁してくれよ」


 ヴァールトイフェルが引き取りに来てくれないだろうか、と本気で考えるジャレッドだった。





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