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17.コンラート・アルウェイという少年6.



「ようやく合点がいきました。きっと公爵もさぞ頭を悩ませたでしょう。公爵家に魔力保有者が現れたことは喜ばしいことのはずです。たとえ、魔術師として素質が足りなくても、魔力を持つだけでも珍しい。ですが、簡単に外部に明かすこともできないはずです」

「おっしゃる通りです。すでにコンラートの話は漏れており、婚姻の話がきています。旦那様のお力で断っていただいていますが、魔術師として育つことができなければ他家との結びつきを深める道具となってしまうでしょう。ですから、その前にはっきりしたことを知りたかったのです」


 そして、コンラートには魔術師としての素質と才能があった。

 あの収束の才能を見逃してしまうのはありえない。とくに公爵家のお抱え魔術師がそのような低レベルなはずがない。

となると、やはり他の側室から才能がないと言うように命じられたのだと考えるのが自然だった。


「マーフィー殿がコンラートの才能を見い出してくださってよかったです。私は、なにか息子に残してあげたかったのです。それが剣術でも魔術でも。そして、マーフィー殿のおかげでこれから魔術師として息子を育ててあげることができます。厚かましいとは思いますが、コンラートの未来を救ってくださったマーフィー殿に、息子をお願いしたいのです。なによりも、旦那様が信頼し、オリヴィエ様の婚約者であるマーフィー殿でしたら、私も安心できます」

「それは、その、過大評価です」

「いいえ、マーフィー殿こそご自身を過小評価しています。失礼ながらあなたのことは旦那様からお聞きしています。十六歳という若さで、魔術師協会から直接依頼された魔獣討伐などを積極的に行い、宮廷魔術師候補に選ばれているのですから、過大評価などということはありません」


 才能あるコンラートに魔術を教えることは確かに興味がないとは言わない。しかし、リスクだってある。コンラートを魔術師として導くことができるかという不安だってあるのだ。

 なによりもジャレッドの魔術は決して手本にしていいものではない。教科書通りの魔術など習ったことはなく、実戦のため無駄を排除した戦闘用ばかりだ。

 戦うことを前提にした魔術をコンラートに教えることは、躊躇われた。


「ジャレッド、私からも頼めないだろうか?」

「旦那様……」

「アルウェイ公爵」


 そこへ席を外していた公爵が戻ってきて、テレーゼと同じように頼んできた。


「コンラートに関して、テレーゼから色々と聞いただろう。私は父親として不甲斐ない。だからこそ、コンラートに自分の身を守る手段と、大切な人を守る手段を与えたい。どうか、頼めないだろうか?」

「私からもどうかお願いします」


 公爵とその妻に揃って頭を下げさせてしまったジャレッドは、断れない状況であることを理解していた。

 本音を言えば、コンラートの助けになってあげたいと思っている。

 同情ではない。同じように、家族と上手くいっていないコンラートに共感していた。だが、大きく違うこともある。それは、ジャレッドは実の父親から疎まれており、愛してくれたのは亡き母と育ててくれた祖父母たちだ。しかし、コンラートは実の両親からしっかり愛されている。

 そのことを特別羨ましいとは思わないが、子を思う親の気もちを目の当たりにして、断りたくないと思う。

 同時に、自分でコンラートを導けるかという不安もある。これだけ両親から愛されているコンラートに間違ったことはできないのだ。なによりも、自分と関わることで危険に巻き込まれることだってありえてしまう。


「とりあえず頭を上げてください。それでは話もできません」


 ジャレッドの言葉に、公爵たちが頭を上げた。

 目上の人物に頭を下げさせていた緊張から解かれて、安堵の息を吐きだし肩の力を抜く。


「公爵はご存知かもしれませんが、私に関わると厄介事に巻き込まれることだってありえます」

「それはわかっている。だが、コンラートも立場的には厄介だ。むしろ、君をこちらの事情に巻き込んでしまってすまないとさえ思っている」

「それでもお願いしたいということがあまりにも身勝手でわがままであることも承知しています。ですが、マーフィー殿以外に頼ることができないのです」

「無論、コンラートに才能がないと嘘をついた魔術師たちは捕縛し、聴取をとる。場合によっては罰も与える。だが、それだけでは解決できない。どうか――」

「ひとつだけ確認させてください」


 公爵たちがある程度の覚悟をしている以上、ジャレッドも覚悟を決めた。

 ただし、聞いておかなければならないことだってある。


「私のやり方は荒いです。この屋敷にいる魔術師のような綺麗な教え方はできません。実戦魔術――つまり戦い、敵を殺すための魔術が私の魔術です。それを教えるためには、怪我ではすみません。それでも構わないのですか?」

「し、死んでしまうのですか?」

「さすがにそこまではしません。ですが、魔術を学ぶ以上危険はつきものです。特に、戦う手段として学ぶならなおのことです」

「構わない。それで息子が魔術師としての道を歩み、守れる力を手に入れられるのならば」

「テレーゼさまはいかがでしょうか?」


 息子を案ずる母親にも確認をとる。テレーゼは、真っ直ぐジャレッドの瞳と視線を合わせると、深く頷いた。


「どうかよろしくお願いします。息子を強くしてください。きっと息子もそれを望むでしょう」

「わかりました。オリヴィエさまからも、コンラートさまのことをよろしくと言われていましたので、私の魔術をコンラートさまに教えたいと思います。――ですが、弟子ではありませんので、そこはご了承ください」




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