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この度、公爵家の令嬢の婚約者となりました。しかし、噂では性格が悪く、十歳も年上です。  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
十章

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28.エミーリアとドリューの再会2.




 エミーリアは自身の耳を疑った。


 ――今、彼はなんと言ったの?


 聞き間違いでなければ、ドリューは恨んでいないと言った。

 あれだけのことをさせた張本人を、だ。


「ど……どうして」


 震える声で尋ねるのが精一杯だった。


「当時は……と言っても半年ちょっと前でしかありませんが、私は愚かでした。あなたが私を利用したように、私もあなたを利用しようとしていた。命令もされましたし、脅迫も受けました。ですが、すべて自分で選んだことです」


 そう言うドリューの表情は穏やかで、エミーリアを恨んでいるとは微塵も伺えない。

 彼の言葉が本心だとわかった。

 しかし、エミーリアはそれでも納得ができない。


「ですが! わたくしは!」

「エミーリア様のことは人伝に聞いています。私が変わったように、あなたも変わりました。あれだけ敵視していたお姉様と和解して一緒に暮らしている」

「ええ、わたくしは変わりました。変われましたの。だから、あなたがもうわたくしを恨んでいないと言ったとしても、謝罪しなければなりません。ごめんなさい、ドリュー。本当にごめんなさい」

「いいんですよ。私たちは心が未熟でした。誰だって間違いは犯します」

「それでもごめんなさい」

「……許します。だから、もう気にしないでください」


 今にも崩れ落ちてしまいそうな勢いで謝るエミーリアを、ドリューはたやすく許すと言った。

 もう恨んでいないと言った彼が、あえて許すと言ってくれたのは、エミーリアを思いやってだろう。


「そろそろお屋敷にお戻りください。なぜ私がここにいるのか、ダウム男爵から伺っていますか?」

「……いいえ、わたくしはなにも知りません」

「オリヴィエ様のことは残念でした。始祖復活のせいで、控えめになっていた過激思想の人間たちが行動的になってしまったのです」

「ここにも来るのでしょうか?」

「そのための保険に私がいます。ダウム男爵がいればさほど問題にはならないのでしょうが、ラスムス様は私にあなたたちの身の安全を守るようご命令くださりました。私はそれに従うだけです」


 エミーリアは、イェニーからそれとなく、始祖を現代でも崇める人間がこの国にいることを聞いている。

 だが、まさか姉が乗っ取られたことで、彼らが活動的になるとは思いもしていなかった。


 始祖には思うことはたくさんある。

 自分から姉を奪った憎き相手でもある。

 それ以上に、姉とジャレッドの役に立つことのできない自分が不甲斐なく、嫌だ。

 戦うこともできず、ただじっとしているだけ。

 そんな自分が情けなく思う。


「エミーリアさま、そろそろ」


 ずっと見守るように後ろにいてくれたイェニーから控えめに声をかけられる。


「どうかお戻りください。万が一のことがあったら、私はジャレッドに顔向けできない」


 いつだって人のために戦ってくれた少年の名を出されてしまい、エミーリアは頷いた。

 イェニーに手を引かれながら、屋敷に向かう少女は、ドリューに声をかける。


「あのっ……気をつけてください」

「ありがとうございます。エミーリア様」


 彼は礼を言って小さく頭を下げると、背中を向けてしまう。

 そんなドリューの背中を何度も振り返りながら、エミーリアはそれ以上の言葉を発することなく、屋敷の中へと戻るのだった。



 ※



 ドリュー・ジンメルはどこかすっきりした思いだった。

 生まれ変わった自分は、過去のことをすべて捨て去ったつもりだった。

 もうエミーリアのことをどうも思わないはずだった。

 しかし、以外にも感情が残っていたことに気づく。

 それは恨みなどではなく、彼女を気遣うものだった。


 謝罪してくれた彼女のおかげで心が軽い気がする。

 心の何処かに突っかかっていたものが取れたような気分だった。

 そう思うと体まで軽くなった気がするのだから単純だと苦笑する。

 エミーリアたちが屋敷に戻ったのを確認すると、浮かべていた感情を殺した。


「そこにいるのはわかっている。出てこい」


 ドリューが威圧を込めて声を発すると、木々の陰から数人の男女が現れた。


「ラスムス様にあれだけの世話をしていただきながら裏切るのか?」


 彼らはすべて魔導大国の遠い子孫たちだった。

 ただし、王族や貴族の血を引いているのではなく、あくまでも民の子孫でしかない。

 さらに言えば、大半の人間が、魔導大国に理想を掲げるのではなく、崇高な主義主張を持つわけでもない。

 ただ現代のウェザード王国に不満を抱き、知りもしない過去に夢を抱くだけの愚か者たちでしかなかった。


「始祖様が復活したのだ! 我々も動かなければならない!」


 熱に浮かれたように唾を飛ばす男に、ドリューは失笑する。

 彼らは所詮、不満を声を大にして訴えたいだけだ。

 そのために始祖を都合よく利用したいに過ぎない。

 始祖と一緒にこの国に立ち向かうつもりも、なにかを変えようとする意思もない。


 それでありながら、今はまるで自分が大物になった錯覚を受け、始祖に敵対する形となったラスムスに離反し、協力者のジャレッドの関係者を敵視しただけ。

 ダウム男爵家に現れたのも、始祖と対面するために敵対するジャレッドの関係者を人質にとることで覚えをよいものにしようという浅はかなものだった。


「本当にラスムス様に敵対するというのなら、私は容赦しない。殺すな、と言われているため手加減はしてやるが、あくまでも死なないだけだと思え」


 ドリューの気迫に男たちが後ずさりする。


「私がいる限り、ダウム男爵家にいる人間に手出しはさせない」


 少年は弱腰になりながらも、それぞれ武器を構える人間たちに魔術を展開する。

 そして、宣言通り、エミーリアたちを守ることに成功するのだった。




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