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11.ジャレッド対始祖1.




 デニスはジャレッドの手をそっと離す。もう彼に戦う気力はないと判断したのだ。事実、その通りになる。少年は、力なく地面に膝をつき俯いてしまった。


「えっと、君はデニスだったよね。ねえ、デニス。君は復活した私をどう思う?」


 そんなジャレッドを庇うように立ち構え、宮廷魔術師第一席は始祖と向かい合う。


「正直に申しまして、他人の身体を使ってまで復活を望んだあなたは哀れに思います」

「おおっ、言ってくれるねー。うん、でもそうだね、私は自分でも自分のことがしょうもないって思うもの」


 何がそんなに楽しいのか、満面の笑みを浮かべたまま始祖はデニスに近寄っていき、


「所詮、私は屍人さ」


 目にも留まらぬ速さで殴り飛ばした。


「デニスさん!」


 想わぬ展開にジャレッドが叫ぶ。


「ふうむ。君はジャレッドよりも強いと豪語していたけど、そうでもなさそうだ。ううん、実際に戦えば経験と応用で君が勝つんだろうけど、単純な戦闘能力なら負けているね。ま、いいか。さてと、話を戻すとね、聞いて欲しいんだ、ジャレッド。私はとてもかわいそうなんだ」

「――デニス!」


 意識を失っているのかぴくりとも動かないデニスに、離れていた場所にいたカサンドラが弾かれたように走り、駆け寄っていく。


「無理やり異世界に召喚され、戦いばかりの日々。元の世界を懐かしむことも許されず、望んでもいない結婚もした。挙げ句の果てに、子供たちのことも信用できず、ああ、きっとこいつらは大陸を駄目にするんだなーって思っちゃったんだ」


 はぁ、と過去でも思い出したのか、盛大に始祖はため息をつく。


「あー、言うほど夫のことは嫌いじゃなかったし、子供たちのこともまあまあ好きだったよ。ちゃんといいお母さんやった記憶だってあるしね。でもさ、私とは別の生き物じゃん」

「……お前、なにを」

「まあまあ、聞いて聞いて。私がどれだけ故郷を懐かしんでも、家族を恋しがっても、あいつらは必ずこう言うんだ。自分たちがいるじゃないか、心から愛しているよって。――だからなに?」


 過去に家族に言われた言葉を声真似して語りながらも、最後には理解できないと吐き捨てる。


「それってそっちの自己満足じゃん。私って被害者だよ。ただの女子高生にどれだけ多くのことを強いたと思ってるんだよ。愛するとかいうなら、もっと早い段階で守って欲しかった。私が、こんな世界を見捨てる前に、なんとかしてほしかった」

「……あんた、言ってることの意味がわからない。結局、なにが言いたいんだ?」

「ごめんごめん。つまり、私はね、自分のために復活したんだ。国のため、子孫のため、そんなこと微塵も思っていないさ。だって、どうせ異世界人だろ?」

「異世界、人?」

「そりゃそうさ。だって、私とは違う世界のまるで違う住人なんだから。正直ね、子供ができたとき驚いた。ああ、同じ人間なんだって。本当にびっくりしたんだよ! その驚きも必死で隠し続けた。つまり、私は我慢の連続だったのさ」


 ジャレッドは始祖が結局、なにを言いたのか理解はできない。だが、少なくとも、彼女が望んでもいないことを強いられていたのはなんとなくわかった。事実はどうあれ、始祖自身はそう思っていたのだと。


「私が復活した最大の理由はね、みんなが望んだから。どいつもこいつも自分のことを自分で解決できないどうしようもない人間たちが死ぬことさえ許さなかったんだ! でもね、それでもいいかなって思った。本当だよ。死ぬときにね、かわいそうなみんなを助けてあげたいとも思ったんだ」


 だけど、と始祖は続けた。


「本当に、思っていたんだよ。死ぬ間際までね。死に迎えられた瞬間、私はこう思った。――私は死ぬことさえ自由にできないのか、って。困っていた人を助け、理不尽な目に遭っている人たちを助けてきた。戦いたくないのに戦って、殺したくないのに殺して、親しくなった人たちだって失ってきた。そのご褒美が、死ぬことさえできないなんて――恨みたくなるじゃないか。憎みたくなるじゃないか!」

「……あんたはもう」


 どれだけの時間を憎悪していたのかわからない。ただ、言えるのは、始祖はもう壊れている。そう確信した。


「私は決めた。復活したら、自分のために行動しようって。だけど、厄介なことがあるんだよ。それがカサンドラ・ハーゲンドルフの存在さ」

「あの女がどうした」

「私はどうしてもあの女が邪魔だ。あの女がいると本当の自由になれない。だけど、私では復活させた彼女を傷つけることができないという制約がある。だから、君に殺して欲しい」

「あんたはハーゲンドルフを殺して自由になったら何をする?」

「なにもしないさ。目的なんてないよ。だから、オリヴィエのためにこの体を返してあげてもい。でも、そうだね。この溜まりに溜まった鬱憤くらいは晴らしたい。この国をめちゃくちゃにするくらいで手を打ってあげるよ」


 その言葉を聞いた瞬間、ジャレッドの魔力が込められた拳が始祖の顔面に直撃した。




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