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この度、公爵家の令嬢の婚約者となりました。しかし、噂では性格が悪く、十歳も年上です。  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
十章

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5.始祖復活2.




 ラスムスは、始祖を前に敬意を払い膝を着き頭を垂れた。


「僕はあなたの子孫ではありますが、復活させたわけではございません」

「あら、違うんだ。でも、君に会えたのは嬉しいよ。感覚からしてざっと五百年くらいかな。私の血筋が健在……おっと違うね。君は延命しているんだね。私は諸々の事情でできなかったんだけど、そうか。つまり、私の血は途絶えつつあると言うことだね」


 教えられていないにも関わらず、勝手に情報を仕入れ把握していく始祖ユナ・ミハラサキ。


「さてさて、私を復活させてくれた人間と会いたいんだけど……おっと来たみたいだね」


 ユナの言葉通り、アルウェイ公爵家に向かって歩いてくる人影があった。カサンドラ・ハーゲンドルフだ。どうやらクリスタ・オーケンはいないらしく、ひとりだ。


「……カサンドラ」


 小さく呟いたラスムスに笑みを向け、続いてカサンドラは始祖の前に立つと、優雅にドレスの裾をつまみ一礼した。


「わたくしはカサンドラ・ハーゲンドルフと申します。わたくしが、あなたを復活させました」

「うん、ありがとう。素晴らしい依り代を用意してくれたみたいだね。でも、無理やり力を封じられて、無理やり解放されたようだね。体に歪みが生まれている……よいっしょっと……ん、これでよし」

「あの、始祖様……今、なにを?」

「なにをって、魔力の流れとか色々、体中が歪んでいたから直したんだよ。このくらいできなきゃ、戦争を生き残ることはできないよ」


 カサンドラは絶句した。体内に流れる魔力の歪みを直すなど現代魔術では不可能だ。いや、それ以前の話だ。始祖はオリヴィエという他人の身体に宿っていて、本来の持ち主ではないというのにそんなことができてしまう異常性に、驚くほかない。


「実にいい身体をしているね。魔力も、潜在能力も、体力はないし生前のわたしほどではないけど、それに準ずる肉体だ。カサンドラといったね、改めて感謝するよ」

「勿体無いお言葉です」

「……おや、君は私の子孫と巫女の血が流れているんだね。なによりも、私の生前の力もある程度受け継いでいるね。回収できないのは残念だ」

「回収できないのですか?」

「そりゃできないさ。回収できるならしたいけど、今の私のものじゃないからね。さて、と。じゃあカサンドラ、聞こうか」

「な、なにをでしょうか?」


 始祖ユナは公爵と顔を合わせ尋ねた。


「私を復活させた理由があるだろう。今の時代、亜人どもの気配はない。戦争もしていなさそうだ。なのに、君は私を復活させた。それなりの理由があると思ったんだけど、違うかい?」

「おっしゃる通りです。わたくしは、始祖様にお仕えした巫女ユウギリの子孫です。わたくしたちは先祖代々の悲願がございました」

「ユウギリ……あの子か、よく覚えているよ。そうか、君はあの子の子孫なんだね。懐かしい。じゃあ、その悲願がなにか聞かせてもらおうか」


 佇まいを直し、始祖をまっすぐ見つめ胸を張ったカサンドラは告げた。


「ひとつは、始祖ユナ・ミハラサキ様の復活。これは、今、叶えました。もうひとつは、始祖様を元の世界に戻すことです」

「……へぇ。私を地球に帰してくれるって?」


 興味深そうな表情をして、始祖は手を伸ばしカサンドラの顎に触れた。


「方法は?」

「すでに準備してあります。始祖様さえいれば、すぐにでもご故郷に帰してさしあげますわ」

「素晴らしい申し出だ。ユウギリの子孫が、こうして私のことを考えてくれていることはとても嬉しい。だけどね、それは無理だ」

「なぜですか!?」


 納得いかないとばかりに声を張り上げた公爵に始祖は首を横に振るう。


「私が生前になにも試さなかったと思うかい? この世界中、古今東西すべての召喚、転移魔術を試したよ。それこそ、帰るためならなんでも利用してね。でもね、無理だった。なのに、魔術が退化している現代で叶うとは思えない。なによりもね、この体じゃ帰れない」

「それはどういう意味でしょうか?」

「……ああ、そうか……この姿をしているから誤解させてしまったみたいだね」


 そう言って始祖は指を鳴らした。すると、姿が体の持ち主であるオリヴィエと変化する。


「オリヴィエ……なぜ」

「君は確かに私を復活させてくれた。でもね、肉体に魂が宿っただけで、私本来のものになったわけじゃないんだ。今まで見せていたのは、幻術だよ。生前の私を、ただ投影していただけさ」


 みしり、と始祖が触れていたカサンドラの顎に力が入る。ただ触れられていたところから一変、掴まれ力を込められたのだ。痛みこそ、ないが、なぜか怖い。


「それにね、私がこっちの世界にきて何百年経ってると思っているんだい? 知っている人が誰もいない世界に戻ったとして、私は虚無感を味わうだけじゃないか!」

「し、しかし」

「仮に、仮にだよ。もし時間の概念さえ超えて地球に帰れるとしても、他人の姿をしていたら――ママが気づいてくれるわけがないじゃないの!」




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