表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この度、公爵家の令嬢の婚約者となりました。しかし、噂では性格が悪く、十歳も年上です。  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
九章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

454/499

40.ハーゲンドルフ公爵家の事情4.




 刺客と思われた人間五人は、あっという間にジャレッドによって無力化された。

 屋敷から降ってきた少年にあっけにとられた刺客たちは、間抜けに口を開いている間に昏倒させられたのだ。


「魔術を使うまでもなかった……こんな間抜けな刺客見たことないぞ」


 記憶に新しいのはヴァールトイフェルの面々だ。プファイルをはじめとする彼ら暗殺組織はもっと洗練された動きをしていた。比べて、地面に突っ伏す五人はお粗末もいいところだった。


「この程度しか雇えないのか、それともこの程度で十分と思っているのか」


 リカルドの母親が雇ったかどうかまでジャレッドに判断することはできない。彼らの懐を探り、なにか証拠になるものを所持していないか期待するも、残念な結果に終わってしまう。


「……あれ、こいつらって冒険者か」


 ひとりの男が持っていた冒険者の証明書を見つけ、少年は舌打ちをした。

 相変わらず冒険者という輩は金になるのならどんな仕事でも受ける。かつてオリヴィエを苦しめていた襲撃者も冒険者だったし、幼い竜種を金目的のために襲いひとつの村を壊滅寸前にしたのも冒険者だ。


 彼ら全員が悪人というわけではないのだろうが、金で殺人を請け負うような人間がいるためジャレッドはどうしても冒険者を好きにはなれなかった。

 もっとも、依頼する人間がいるからこそ、冒険者も受けるのだろうが。そういう意味では、冒険者だけが悪だとは言い切ることができない。


「ジャレッド様、よろしければこちらをお使いください」

「あ、どうも。すみません。先走っちゃいました」

「いいえ、音もなく五人を倒した技量はお見事です。わたくしではああはいかないでしょう」

「そんなことないでしょう」


 静かに後を追ってきたクラウェンスから差し出されたロープを受け取り、冒険者たちを縛っていく。


「残念ながら、わたくしにはかつての戦闘力はございません。魔力も体力も、年齢とともにすっかり衰えてしまいました」


 彼女から感じ取ることのできる魔力は強く、身のこなしも歳をとった人間とは思えない。だが、他ならぬクラウェンス自身が、衰えを感じているというのならそうなのだろう。

 現在でも、元宮廷魔術師にふさわしい力を秘めている彼女の全盛期がどれだけのものだったのか気になった。


「ところでクラウェンス様、こいつらはどうしましょうか?」

「できることならリカルド様を狙うように依頼した人物がわかると好ましい、と思ってしまうのは希望的でしょうか」

「じゃあ尋問しますか。少々手荒いことになっても文句は言えないでしょう。仮にも公爵家の屋敷に忍び込んで、命まで狙ったんですから」

「ならばデニスに任せましょう。あの子は、戦いだけではなく、その類もできる子です。専門職の方には負けますが、質の低い冒険者の口を割らせるくらい簡単でしょう」


 尋問の専門職という言葉に、オリヴィエの元婚約者候補の変態が脳裏に浮かぶが、首を振ってかき消す。


「じゃあ、デニスさんにお任せしましょう」




 ※




「実に簡単に口を割ってくれました。依頼人は、リカルド様のお母上にあたるカタリナ・ハーゲンドルフ様です」

「……やはり母だったか。命をこうして狙われるたびに、悲しくなる。母の期待に添えなかったことは申し訳なく思っているが、実の息子を殺そうとする母が恐ろしいよ」


 手についた血を布で拭いながら、尋問を終えたデニス。やはりリカルドの母が依頼主だったとわかり、息子が肩を落とした。


「リカルド様、朗報と言っていいものか迷いますが、タイミングがよかったと思います」

「デニス君?」

「おそらく、カサンドラ殿はリカルド様暗殺を内々に処理するつもりだったのでしょう。そのため、相手も平然と次から次に刺客を差し向けてくる。ですが、ここには私とジャレッド殿がいます」

「えっと、俺、ですか?」

「はい。現役宮廷魔術師の前で、公爵家の人間を殺害しようと試みた冒険者を捕らえ、依頼主の名前も明らかにしました。カタリナ・ハーゲンドルフ様の罪を問うには十分です」


 なるほど、とジャレッドは手を叩く。

 カサンドラ・ハーゲンドルフ公爵がなぜ内々に処理しようとしていたのかはわからないが、ジャレッドもデニスも同じようにする必要はない。仮に、この件でハーゲンドルフ公爵家に傷がついたとしても、その責任は首謀者にある。


 公爵家のイメージダウンはあるかもしれないが、今回のことをなあなあにしてしまえば、同じことの繰り返しだ。

 リカルドが名前を変え、新しい人生を送ろうとしていたことは知っているが、元凶さえ封じてしまえばそんなことをする必要もなくなる。


「……しかし、それでは母が」


 だが、やはり、リカルドは難色を示した。

 命を狙われようと、母は母だ。息子を殺そうとした罪で裁くことには抵抗があるようだ。


「すまない、甘いとわかっている。だが、一晩だけ考えさせて欲しい」


 当の本人にそう言われ、頭まで下げられてしまった以上、反対することは三人にはできなかった。

 ジャレッドは、翌日までの時間をクラウェンスとともに、カサンドラの私室を調べることに費やすのだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ