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4.オリヴィエ・アルウェイの危機? 3.



「あれからアルウェイ公爵と話はできましたか?」


 ジャレッドの問いかけに、オリヴィエは渋い顔をした。

 アルウェイ公爵がずっとハンネローネとオリヴィエのことを案じており、別宅へ移したのも危険から遠ざけるためだった。しかし、そのことを伝えてしまえばハンネローネを狙う側室にも話が伝わってしまう可能性があったため、公爵は家族に恨まれることを覚悟して距離を置いた。

 当然、事情を知らないオリヴィエは母をないがしろにしたと思いこんでしまい父を嫌っていたのだが、誤解が解けた今、ジャレッドとしては和解してほしかった。


「あなたの見舞いにきたときに少しだけ話はしたわ。でも、今までのことがあるから、わたくしもお父さまもなにを話していいのかわからなくて……」


 お互いにさぞかし気まずかっただろう。


「ハンネローネさまとご一緒なさらなかったのですか?」

「そうしたかったのだけど、お母さまはわたくしと父を仲直りさせたいからと気を使ってくださったわ。でも、その気づかいが辛かったのよね」


 よかれと思ったハンネローネの行動だったが、不器用な父と娘には不要な気づかいだったかもしれない。いっそ、ハンネローネが間を取り持つようにしていればなにかしらの展開もありえたのでは、と思わずにはいられない。


「だけど、また機会はありますよ。アルウェイ公爵だってオリヴィエさまともっとたくさん親子らしいことをしたいと思っているはずですから、どうか諦めないでください」

「言われなくても、諦めたりはしないわ。あなたのおかげで父がわたくしのことも、お母さまのことも愛してくださっているとわかったのですから、しっかり和解してみせるわ」

「その意気です」


 オリヴィエが歩み寄る意志を持っている以上、時間の問題だとジャレッドは思う。いつか二人がそろって笑顔でいられる日を思うと、自分のことのように嬉しくなる。

 ただし、側室の目があるため、目に見えた和解はハンネローネを狙う黒幕を暴いてからになるだろう。それでも、父親が味方であることを知ることができただけでも、きっと心強いはずだ。

 オリヴィエたち家族のためにも、力になろうと思っている。


「ところで、わたくしのことばかり気にしてくれるのはとても嬉しいのだけど、あなたの方はどうなの?」

「どう、とは?」

「あなただって父親と上手くいっていないのでしょう?」

「アルウェイ公爵家も、ダウム男爵家も家庭事情が大変ですね」


 オリヴィエが自分と父の不仲を知っていても今さら驚きはしない。だが、オリヴィエとアルウェイ公爵と違ってジャレッドと父親の関係は悪いのだ。和解もなにもない。


「誤魔化さないで」


 話を変えようと試みたが、オリヴィエには通じなかった。

 はぁ、とため息をつくと、ジャレッドは諦めたように口を開く。


「俺と父親の関係は現状から変わることはありませんよ。ある程度ご存知でしょう?」

「そうね、あなたのことは一通り調べたから知っているわ」

「なら、聞かなくても――」

「わたくしは、あなたの口から聞きたいの」


 興味本位ではなく、ジャレッドのことを案ずるような視線に負けて、ジャレッドは父親との関係を話し始める。


「簡単でよければ――俺の父親は、一言で言えば駄目男です。剣に関しては天賦の才能を持っていますが、祖父は家督を父ではなく弟である叔父に譲ろうとしました。でも、運だけはよかったようで、剣一本で戦場を潜り抜け、数年で男爵の位を得ました。そこだけを見れば優秀なんでしょうが、人としては駄目な男です」


 父親に対する辛辣な言葉に、オリヴィエが頬を引きつらせる。


「ずいぶんとはっきり言うのね?」

「それは言いたくもなりますよ。一応、母との愛情はあったようですが、それでも自分が爵位を得るために母と結婚したことも知っていますから。それに、母の生前から剣の才能がなく貴族の血を半分しか引いていない俺を疎ましく思っていましたよ。俺に少しでも剣士としての才能があれば、違ったかもしれませんが……そんな男を好意的に見るのは無理ですよ」

「それはそうかもしれないけど、意外だわ。あなたは、わたくしや父に対しては思いやりがあって優しいのに……」


 ジャレッドにとって父親に関して特に思うことはなにもない。父親らしいことをしてもらった記憶などなく、幼いころに数回剣を握るように命じられた程度だ。しかし、剣術も教わることもないまま母が亡くなり、放置されていた。見かねた祖父が引き取ったものの、そのあとも父によって思いだしたくもない目に遭わされたりもした。

 両親にまったく愛情なかったわけではない。だが、ジャレッドが知る限り、父は母の立場を利用したのだ。同じ男として女性を利用した父親をよく思えるはずがない。

 ほとんど会話らしい会話もしたことがなく、しばらく前に家督を継がせないと告げられたのが最後だ。

 祖父がジャレッドのためになにかすれば、ひがみ、嫉妬して嫌味を言い、邪魔をすることさえあった父親に対し、気付けば父親として思うこともできなくなっていた。


「剣の才能がないと言ったけど、あなたは先日剣を使って戦ったわ。わざわざ自分で才能がないと言う剣を使った理由はなにかしら?」

「俺には剣士としての心得や、騎士道なんてものはないんです。俺にとって剣は、魔術とは違った便利な武器でしかないんですよ。そういう考えも、剣しかとりえがない父は気に入らなかったんでしょうね」

「ねえ、ジャレッドはいったいどこで誰から剣を習ったの?」

「それは――話が長くなるのでまたの機会にしましょう」


 オリヴィエでさえ知らないジャレッドの過去なのだが、明かすつもりはなかった。あまり気持ちのいい話ではないし、若気の至りも多々あるのでできることなら話したくない。


「わたくしは、今聞きたいのだけど?」

「もうすぐ夕食ですので、また今度です」


 もちろん、オリヴィエは不満を隠そうとせず話せと要求してきたが、ジャレッドは父や剣についてそれ以上語ることはなかった。

 オリヴィエは不満に思う以上に、心配になる。父子の関係が悪く、ジャレッドが家督を継げない理由は父親の一存で決められたことも調べて知っている。だが、ジャレッドの父親の胸の内までは調査することはできない。

 ジャレッドのこともそうだ。オリヴィエが調べたことがジャレッドの人生すべてではない。実際、約一年以上の間、どうしてもなにをしていたかわからない空白の期間が彼には存在している。

 先日まではあまり気にもとめていなかったが、ジャレッドに心を許しつつある今は知りたいと思ってしまう。勝手だとは承知しているが、一度覚えた疑問を打ち消すことは難しい。

 ジャレッドがいつ、どこで魔術を学び、宮廷魔術師候補に選ばれるまでの実力を手に入れたのか。才能がないと判断され父からも祖父からも教わっていない剣術をどこで覚えたのか。知らないことが多すぎた。

 そのことに少しだけ寂しさを覚えながら、オリヴィエはいつかジャレッドは話してくれると信じて、追及をやめた。




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