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この度、公爵家の令嬢の婚約者となりました。しかし、噂では性格が悪く、十歳も年上です。  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
九章

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28.宮廷魔術師第一席の想い.




 デニス・ベックマンは、ジャレッドを前に、内心謝罪を繰り返す。

 まだ未成年である彼を、宮廷魔術師に任命される前であるにも関わらず、またしても巻き込んでしまったことへの罪悪感は大きい。


 公爵家だけではなく、国を救った少年は、本来なら英雄として讃えられるべきだ。しかし、事件の内容があまり公にできないものが多いため、彼はあくまでも事件を解決した優秀な魔術師くらいにしか認識されていない。

 もちろん、アルウェイ公爵家、ダウム男爵家、そしてオリヴィエ・アルウェイの評価が彼のおかげで今まで以上によいものになった。それがせめてもの救いだろう。


(しかし、まさか始祖が復活可能とは思いませんでした。ラスムス殿がなぜ代々の王と知己であるのかわかった気がします)


 カサンドラ・ハーゲンドルフの突然の凶行。

 いや、前々から行動を追っていたデニスたちにとっては、ようやく動いた、と見るが、今回の一件は厄介極まりないものだった。


 当初の予定では、巻き込まれることがわかっていたジャレッドを餌に、彼女の企みを暴こうとしていた。現状でも、公爵家当主の地位を剥奪することは可能だが、それだけでは甘いと考えていた。

 行動理由がわからない以上、爵位を奪っても、同じことを繰り返す可能性がある。それが始祖関連なら見過ごすことは絶対にできない。


(とはいえ、始祖の話などおいそれとできません)


 ウェザード王国においても、始祖は神聖なものだ。この国の貴族の多くに、今は亡き魔導大国の貴族の血が流れている。そのため、始祖を崇める者や、研究する者は少なくない。

 とくに、魔術師を輩出する家系の始祖への信仰は強い。


(そういう私自身、学生時代は始祖を調べていましたね)


 だが、まさか始祖が復活可能だとは想像もできなかった。そして、それを阻止する側に立つということも、夢にも思っていなかった。


(ですが、カサンドラ殿が始祖を復活させるつもりなら、当主の立場を剥奪するだけでは甘い)


 国に混乱を招く可能性があるのなら、結果はどうあれ、行動に移した時点で処罰は重くするべきだ。

 いくら公爵であろうと、国家反逆になるのであれば死罪は免れない。――のだが、始祖に関する情報を明かせない以上、処罰は甘いものになるだろう。

 デニス自身も、カサンドラ・ハーゲンドルフのことをよく知っているため、できることなら厳しい処分が下って欲しくないというのが本音だった。


(本音を言ってしまえば、公爵家当主でなくなったカサンドラ殿の身の安全も心配でしたが……事態はもっと深刻ですね)


 カサンドラの兄弟は、あまりよろしくない状況下にいる。詳細はっきりしていないが、妹にしてきた仕打ちを考えれば自業自得である。ただし、兄弟の母や、その周辺人物は納得していない。 

 お家争いに敗北した者の発言権など無いに等しいが、諦めの悪い人間はなんでもする。

 現時点で、過去に何度も命を狙われているカサンドラが当主の座を失えば、どうなるのかは考えるまでもない。


(国王にカサンドラ殿の身の安全の保証をお願いしましたが、難しくなってきましたね)


 一番の不安は、目の前にいる少年だ。

 彼と敵対して無事に済んだ人間はいない。

 立場を失い、命を失った者もいた。責めるつもりは毛頭ない。当たり前の結末だ。しかし、カサンドラが今までの人間と同じ末路を辿ると思うと、やりきれなくなる。


(……私自身、今回の一件で立場を失うかもしれませんが、それでもじっとしていられなかった)


 当初、彼女の暴走を、公爵家への復讐からくるものだと思っていた。

 不遇な扱いを受けた幼少期、母との死別。味方だった父親との別れ。

 貴族は爵位が高ければ高いほど、家族仲が悪いことが多い。公爵家内で、家族間の関係がうまくいっている一族は、リュディガー公爵家くらいだろう。他は、だいたいが揉めている。


 しかし、お家争いで勝者となったカサンドラは、排除した兄弟に復讐した。そう聞いていた。兄弟の母親たちも屋敷から追い出したとも。

 だが、彼女の戦いは終わらない。子供たちの仇を討とうと、母親たちが躍起になって暗殺者を派遣した。ボロを出して捕まった者、排除された者、現在でも執拗に付け狙う者がいる。


 そんな心を疲弊させる日常に嫌気がさし、公爵家そのものを危機的状況に陥らせようと企んでいるという情報が入ってきた。

 事前に止めることは困難で、動きも掴むこともできない。ようやく掴んだと思えば、無関係なアルウェイ公爵家への暴挙の数々。そして、国王のお気に入りであるジャレッド・マーフィーを独断で捕らえてしまった。


 内部事情を探るために、潜り込んだデニスを驚かさせたのは、カサンドラが始祖復活を目論んでいることだった。

 予想していたことの斜め上の事実に、驚愕したのは言うまでもない。


(……マーフィーさまには申し訳ありませんが、カサンドラを救うためにお力をお借りするしか……)


 成り行きとはいえ、彼を利用することへの罪悪感はある。巻き込まれることもあえて見逃していた罪は、支払わなければならない。

 だが、その前に、取り返しのつかなくなる前に、カサンドラを止める必要があった。


(始祖復活などさせません。そんなことをしたら、カサンドラの居場所がなくなってしまう)






 宮廷魔術師第一席デニス・ベックマンは、信頼する少年に頼ってでも、かつての婚約者を止めたかった。







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