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この度、公爵家の令嬢の婚約者となりました。しかし、噂では性格が悪く、十歳も年上です。  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
九章

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19.後手1.



「突然押しかけることになってしまってすまなかったね」

「気にしなくていいさ。突然の来訪は二人目だからな」

「あら、それって私のことかしら」


 ジャレッドは自室に、ラスムスと晴嵐を招き、プファイルとローザを加えた五人で今後の話し合いをすることにした。

 オリヴィエも参加すると言ったが、戦うことのできないオリヴィエには遠慮してもらうこととなった。不満を露わにした彼女だが、正直なところ極力巻き込みたくなかったからという意味合いが強い。


 始祖の器になれる可能性があるため、完全に無関係とは言わない。だが、これから公爵を相手にする以上、同じ公爵家のオリヴィエが、しかも相手は姉と慕っていた人物なのだ。できることなら関わってほしくないというのが本音だった。

 大切な婚約者の誕生日まであと一週間。憂いは全て片付けておきたい。


「それで、どうするんだ?」

「竜としては残念ながら手を貸せないわよ」


 ジャレッドの問いに、いち早く返答したのは竜王国第一王子晴嵐。


「私個人としてはジャレッドたちに力を貸してあげたいけど、今は国王代理としてこの国にきているの。おいそれと勝手なことはできないのよ。ごめんね」

「僕としては、竜の手など借りるつもりはないけどね」

「まったく。魔導大国の人間は昔から竜嫌いだと思っていたけど、根は深いようね。国が滅びてから五百年たっても変わらないなんて」

「始祖の復活は反対だが、始祖が君たちを危険視していたことには賛成だ。僕はジャレッドくんたちに力を貸してほしいが、竜の力は必要ない。たまたま、君が先客としていたから同席していても、なにも言わなかっただけだ」

「自分の先祖の問題を無関係な現代の人たちに押し付けてるくせに、よく言うわ」

「それは君たち竜も同じだろう。そもそも、手を貸せないじゃなく、手を貸しても意味をなさないと、きちんと言うべきじゃないかな」


 なぜか睨み合う亡魔導大国の最期の王子ラスムスと晴嵐に、ジャレッドはため息交じりで間に割って入る。


「喧嘩するなよ……お前ら、長く生きてるんだからもっと大人になれよな」

「失礼」

「おほほほ、レディらしくなかったわね。ごめんなさいね」


 と、謝罪しながらも、二人は互いの顔を見て舌打ちをした。


「とにかく! ハーゲンドルフ公爵の元へ行き、始祖の復活を止めるんだけど、説得はもう無理なのか?」

「彼女の意思は固い。なぜそうまでして始祖復活を望むのか、僕には見当つかないけど、止めることができるならとうに止めているよ」

「そうなると力づくか……でも、向こうにはクリスタがいる。だろ?」


 いまだに親しい友人が向こう側についていることも、ワハシュを倒すだけの実力を有していることも飲み込むことは難しい。それでも、今は悩んでいる暇も、迷っている時間も惜しかった。


「我が父を倒したのであれば無論、強いのだろうが、クリスタ・オーケンはどのような戦い方をするのだ?」


 疑問を口にしたのはローザだ。彼女は父親であるワハシュを敗北させた相手の情報を求めた。


「妹は、あの子はなんでもできる。始祖の血を引いているからではなく、あの子自身が魔術師として、いいや、戦闘者として優れているんだ」


 具体的な詳細こそ口にしなかったラスムスだが、もし彼の言葉通りクリスタが「なんでもできる」人間ならば、かつてない強敵として立ちふさがるだろう。


「ハーゲンドルフ公爵を止めるのなら、クリスタ・オーケンを倒さねばならないということだな」

「できれば、僕と妹に会話をする時間を与えてほしい。先日は、突然過ぎたので話す間も無く撤退してしまったけど、可能なら説得したい。できなくても、理由を知りたい」

「悠長なことを言う。その間に、我が父を倒すだけの力を向けられるとは考えないのか?」

「あの子は優しい子だ。そんなことはしないと信じている。もちろん、始祖復活が目前であるから時間は取れないかもしれないが、最悪、あの子を相手に時間稼ぎをするくらいはできと思う」

「……ならば構わないが。どうするジャレッド?」

「え? なに、俺が決定するの?」

「いつだって貴様が先頭に立ち戦ってきたではないか。どうせ今回もそうなる」

「あのさ、ローザ。それって、今回も一番面倒な奴と俺が戦うって聞こえるんだけど」


 思い返せば彼女の言葉通りだが、表立って戦ってきたのには理由がある。オリヴィエを救うためが最大の行動理由だったが、ときには友人のためにも戦った。結局のところ、すべて自分のためだったかもしれない。


「ラスムス・ローウッド」

「なんだい、プファイルくん?」

「貴様は戦えないのか? カサンドラ・ハーゲンドルフ公爵を相手に戦いたくないことは聞いて納得したが、貴様はそもそも戦闘能力があるのか?」

「まったくないわけじゃないよ。でも、君たちほど戦えるわけでもないんだ。もちろん、足手まといになるつもりはないよ」


 ラスムスの返答に、ジャレッドは疑問を覚えた。

 いくら滅びたとはいえ、魔導大国は魔術が最も栄えた国だった。現在のウェザード王国宮廷魔術師レベルが当たり前のようにいたと聞いたこともある。その国の王子であり、今まで数百年も生きてきたラスムスが、自分たちに及ばないということはなかなか考えにくい。


 ――が、深く追求することはしなかった。


 戦力は欲しい。だが、戦う気のない人間を戦わせてもいいことなどない。なによりも、カサンドラはもちろん、クリスタもまたラスムスの関係者だ。甘い考えかもしれないが、彼には戦って欲しくなかった。




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