18.復活を企む者4.
「えっと、つまり、始祖を殺すためには、一度始祖を復活させないといけないってことなのか?」
「残念ながらね。一度、復活することで始祖に施されている復活関連の魔術がリセットされる。そこで二度目の死を与えれば――」
「もう復活することはないってことか……ああ、そうか、なるほど。それであんたにはできないんだな? ハーゲンドルフ公爵は自分を器にするつもりか?」
「その通りだよ。だから僕にはできない。あの子はおそらく、自分を器にして始祖を復活させるつもりだ。復活を阻む事ならできる、しかし、それでは始祖は殺せない。だからと言って! 始祖を殺すためにカサンドラを、あの子を殺すことは僕にはできないんだ!」
ラスムスは、カサンドラ・ハーゲンドルフが今になって始祖を復活させようとしたから殺してくれと頼んだのではない。始祖を殺すために必要とはいえ、カサンドラの命まで奪うことができないから、ジャレッドに彼女を殺してくれと助けを求めたのだ。
「そういうことか。だから貴様は父を使ったのだな?」
会話に割って入ったのはローザだ。
「父を使い、おそらく、貴様は始祖を殺すことよりも復活を阻むことを優先したな?」
「うん。僕にはカサンドラは殺せない。殺したくない。ならば、力づくになっても始祖の血を封印するしかない。あの子の命を奪わないですむのなら、始祖は後回しにしても構わなかった」
「待て、でもワハシュは……負けたんだよな?」
はじめからラスムスもカサンドラの命を奪おうとしたわけではないのだろう。一番の問題は、まだ始祖を復活させていないにも関わらずあのワハシュが敗北したことだ。
竜とハーフエルフを除けば、この場にいる人間が束になっても敵わない実力者のワハシュが敗北したことは、あまりにも大きい。
「誤算があったんだ。まさかカサンドラをあの子が守っているなんて思わなかったんだ。そのせいで僕はいっそう手を出せなくなった。だから、君に助けを求めに来たんだ」
「ワハシュが勝てない誰かに俺をぶつけようとしても無駄だろ。そもそも俺には信じられない。あの男よりも強い人間っているのか?
「たったひとりだけいるよ。クリスタ・ローウッド……いや、君にはこういうべきかな、クリスタ・オーケンと」
「悪い、今、なんて言った?」
「僕の妹、クリスタ・オーケンがカサンドラ側についてしまったんだ。単純な戦力だけなら、そこにいる竜と同等レベルだよ」
ジャレッドは、己の耳がおかしくなったのかと思った。
クリスタ・オーケン。少年にとって数少ない友達であり、大切な仲間だ。
「嘘だ」
「嘘じゃないんだ。あの子には僕とは違って幸せになって欲しかった。だから、様々な理由をくっつけて王立魔術学園に入学させた」
「やめろ」
「君と友人になってしまったのは誤算だったけど、君たちのおかげであの子は年相応の楽しい日々を送れたようだ。そのことには感謝しているよ」
「だからやめろって言ってるだろ! なんだよ、それ。なんだよ、クリスタがお前の妹だって? ありえねぇだろっ!」
まさか大事な友達が、ラスムスの妹だったとは予想できるはずもない。
騙されていた――とは思わない。彼女と過ごした日々は本物だ。なにかされたどころか、常に自分や仲間のことを案じてくれるいい子だった。
だからこそ、ラスムスの言葉を信じたくなかった。
出会いは偶然だったとしても、クリスタは自分たちのそばでなにを思っていたのだろうか。
亡き魔導大国の生き残り、始祖の末裔、そんな運命など微塵も感じさせずにいつも笑顔だった。
気づけなかった。気づこうともしなかった。
――いや、そもそもクリスタのことを気にかけたことはあっただろうか?
思い返せば、大切なクラスメイトでありながら、彼女のことはあまりしらない。家族の話もしたことはないし、学園で出会う前になにをしていたのかも聞いたことがない。違う、聞くこともしなかったのだ。
「俺は、友達失格だな」
「しゃんとしなさいっ、ジャレッド・マーフィー!」
力なく項垂れる少年に、婚約者の檄が飛んだ。
公爵令嬢はジャレッドの顔を両手で挟むように掴むと、自分の目と合わせた。
「わたくしもクリスタのことは知っているわ。よく笑う、気さくないい子よね。だからわたくしもショックよ。でも、いくらこの胡散臭い男の妹であっても、あなたとクリスタの関係は変わらない。そうでしょう?」
「……はい。そうです、よね。俺はなにがあっても、クリスタの友達です」
年上の婚約者のおかげで、ざわついていた胸に落ち着きが宿る。なんとか冷静さを取り戻した少年は、深呼吸を繰り返し、震える体を鎮めようとする。
「あのさ、本人の目の前で胡散臭い男って……別にいいけどね」
「悪かった。まさか、クリスタがあんたの妹だったなんて。だけど、信じられないことがある。クリスタがワハシュを本当に倒したのか?」
驚きの連続ばかりだが、ジャレッドにはどうしても小柄で華奢なクリスタが、暗殺組織にトップに君臨していた男を倒せたとは思えなかった。
「あの子は戦いの天才だよ。可能な限り戦闘から遠ざけていたんだけどね」
「まさかとは思うけど、俺にクリスタと戦えなんていうじゃないだろうな?」
そんなことを考えているのなら、できない。
大切な友達と戦うことなんてジャレッドにはできそうもなかった。
「それこそまさかだよ。僕がカサンドラと戦えないのに、君にクリスタと戦えなんて口が裂けても言えないさ。だけど、協力はしてほしい。なぜ、あの子が向こうに味方してしまったのわからない。だからと言って、このまま諦めるわけにはいかないんだ」
「聞きたいことがある」
「なんでも答えよう」
「あんたは、カサンドラ・ハーゲンドルフが始祖の器になるのを止めたいのか? それとも当初の予定通り始祖を殺したいのか? どっちだ?」
これだけは聞いておかなければならなかった。
どちらも、などという都合のいい答えを聞くつもりはない。
ラスムスにとってどちらが最重要なのか答えてもらう必要があった。
「……考えるまでもない、カサンドラが始祖の器になることを阻止したい。あの子のためなら始祖など後回しでいい」
断言したラスムスに、ジャレッドは右手を差し出した。
「わかった。正式にあんたに協力する。どうにかしてハーゲンドルフ公爵とクリスタを止めよう」
「ありがとう、ジャレッドくん」
ラスムスはジャレッドの手を力強く握り、感謝の言葉を述べるのだった。




