10.始祖4.
「あのさ、こう驚きの連続だったけど。結局、その始祖が俺たちとなんの関係があるっていうんだよ?」
正直なところ、始祖の復活は大問題かもしれないが、他所でやってくれというのが一番の感想だった。
せっかく穏やかな日常を送っているのに、そんなものに関わりたくない。
オリヴィエに心配をかけてしまうのももちろん、下手に巻き込まれて怪我でもしたら大切な婚約者を悲しませることになる。彼女だけではない。一緒に暮らす家族たちも同じだ。
「せっかちなことを言わないで。最後まで聞いてほしいわ」
「……じゃあ、話してくれよ」
「ありがと。始祖を拒んだ人間が多かったけど、始祖の復活を願う人間も少なからずいたわ。中には、死んでいるはずの始祖の意識に操られてしまった被害者もね。そうね、あなたたちにもわかりやすい人間の名前は――ルーカス・ギャラガーかしら」
「――ッ。そうかよ。知らないうちに、とっくに関わってたんだな」
まさかルーカス・ギャラガーの名前をまた聞くとは思わなかった。しかも、竜王国王子から。
「彼は始祖が生きていた時代よりもずっと後に生まれたけどね、始祖によって操られてウェザード王国に内通し、魔導大国を滅ぼしたのよ」
「……今更、あの男が長く生きすぎだったことを突っ込む気力もないけどさ」
一般的な人間の寿命を超えている人間は、身近にも二人ほどいるので驚きはしない。魔術の廃れた現代ならいざ知らず、繁栄していた過去なら寿命を伸ばす方法くらいはいくつかあったのだろう。そうでなければ、いくら始祖とはいえ死んだ人間が蘇ることができるなどありえない。
「ウェザード王国、えっと当時は小国だったかしら。力がなかったこの国はね、始祖の力を欲していたの。どう利用しようとしたのかまでは不明だけど、その愚かな考えとルーカス・ギャラガーが利害一致したのよね」
「ルーカス・ギャラガーの目的って?」
「一国の王になることよ。最近、ウェザード王国を相手に謀反を起こしたそうだけど、彼は王になることと同時に始祖を復活させることで、絶対的な力を手に入れようとしたんでしょうね」
「あいつにそんな行動理由があったのか。どちらにせよ、迷惑な奴なことにはかわらないけどさ」
「結局、ウェザード王国も、ルーカス・ギャラガーも始祖が復活するために利用されただけ。始祖を欲した愚王は後に賢王と慕われる人間に殺され、始祖は厳重にこの国で封印されることになるわ」
「始祖がこの国に封印されているのか?」
「きっとこの国に謀反を起こしたのも、始祖復活に邪魔だったということもあるでしょうね。私はルーカス・ギャラガーじゃないから、国王になりたかったのか、始祖を復活させたかったのか、どちらの優先順位が高かったのかまではわからないけど、どちらにせよこの国の王族は邪魔だったに違いないわ」
まさかルーカス・ギャラガーがそのような理由で謀反を起こしたとは知らなかったジャレッドは、戦った相手を思い出す。
狂気を宿していた老人が、なにを思い、なにを行動していたのか。今はもうわかる術もない。
「……歴史の裏側をぽんぽん言いやがって。俺は知りたくなかったよ」
「あら、ごめんなさい。でも、他人事じゃなかったでしょう。他ならぬあなたによって始祖復活は食い止められたのよ」
うんざりした表情のジャレッドに、晴嵐が微笑んだ。
竜の王子は、ルーカス・ギャラガーがジャレッドと戦った後に、まだ生きており、始祖復活を試みたことを言うつもりはない。もちろん、それを邪魔したのが、始祖の直系の子孫であることも。
結論だけ言えば、ルーカス・ギャラガーは倒された。愛する人を巻き込まれたジャレッド・マーフィーによって。
「私たち竜は、始祖の封印を手伝ったの。以降、同盟関係を築いているわ。あの老人が反逆を起こした際、神経質に事を大きくしないように気を使っていたのも、私たち竜の介入を避けるためだったんでしょう。まさかジャレッドが阻むことになるなんて、思っていなかったわ」
「俺だって知るかよ。向こうがちょっかいかけてこなければなにもしなかったよ」
実に馬鹿馬鹿しいとことだと思わずにはいられない。死んだ人間を蘇らせて何になると言うのだ。欲しいものがあれば、自分で手に入れればいい。他の誰かの力で成し遂げたとしてもなにも意味がないのだ。
手に入れたいものが玉座であればなおさらだ。
「と言う感じで、始祖についていろいろとわかってもらえたと思うから、ここで私がウェザード王国にきた理由を伝えましょう」
「もったいぶるな」
「はいはい。じゃあ、簡潔に。始祖を復活させようと企む人間が動き出したからよ」




