7.始祖1.
「えっと、始祖ってあれだろ。大昔に滅んだ国『魔導大国』を建国した人間だよな?」
「正解よジャレッド」
『魔導大国』とは、ウェザード王国が建国されるよりも以前からこの大陸に存在した、今は亡き国である。国が建国された年は定かではなく、謎に包まれた国だ。ウェザード王国の歴史を紐解くと建国時から百年ほど交友があったのか名前が出てくるが、その程度でしかない。
「いや、間違っていないが不足している。始祖とは、数百年前にふらりとこの大陸に現れた人間のことだ。当時の魔術では考えられない発想と応用を次々に実現させ、自らの魔術を『魔導』と称した」
「そうだった。そして、その人物を師と仰ぎ慕う人間たちが集まり小さな集落となったんだよな」
プファイルの補足を受け、ジャレッドも記憶の中から情報を引き出していく。
歴史には興味がないが、魔術師なら誰もが一度は興味を抱くのが『魔導大国』である。
「当時、魔物の脅威と統括されていない魔術師たちに人間たちが怯え、息を殺していた時代だったこともあり、他者のために力を振るう始祖は英雄的存在だったとされている」
「そして、仲間を増やし、共に戦い、建国した。それが始祖。あってるか?」
「ええ。ジャレッドとプファイル殿が言ってくれたのが一般的に知られている始祖よね」
満足げに頷く晴嵐だが、ジャレッドはどこか彼の言葉が引っかかった。
「その言い方だと、俺らが知らない始祖もいるみたいだな」
実際、始祖について多く知っている人間は少ない。竜のように始祖が建国した時代に生きていたのならまだしも、この場にいる少年少女たちには繋がりも接点もないのだから。
「もちろん、いるわよ」
あっさりと断言した竜の言葉に、ジャレッドだけではなくこの場にいる誰もが目を見開く。
「私たち竜にとって、そう昔のことでもないのよ。さっきプファイル殿が言ってくれてたけど、始祖は本当にどこからともなくふらりとこの大陸に現れたの。じゃあ、どこからきたのかしら?」
「そんなこと俺たちが知るかよ」
ジャレッドのもっともな返答に、周囲も同意しているのか続く声はない。
しかし、しばらくするとオリヴィエが静かに口を開いた。
「もしかすると、始祖を神聖化するために出自を隠したのかしら?」
「うーん、不正解ね」
「では、出自になにかしらの問題があったというのはどう?」
「違うわ。残念」
「……この大陸とは違うどこかから現れたのではないでしょうか?」
オリヴィエに続き、つぶやくように声を発したのはエミーリアだった。
少女は魔術関連に明るくないため、特に口を挟むことなく見守っていたのだが、思いついてしまった考えをつい口にしてしまったようだ。
「あ……申し訳ございません。つい」
「気にすることなんてないわ。えっとエミーリアさまだったわね。正解よ」
視線が集まってしまった少女は反射的に謝罪してしまうが、晴嵐は構わないと微笑んだ。
「えっと、あの、つまり?」
「あなたが言ってくれた通りよ。始祖はこことは別の場所からきたの。この場合、別の大陸ではなく、別の世界なのだけどね」
「待て、待ってくれ晴嵐。別の世界ってどういう意味だ?」
「言葉通りよ、ジャレッド。始祖はね、この世界とはまったく別の、魔術など存在しない世界から現れたのよ」
「――なんだって?」
ジャレッドは己の耳を疑った。彼だけではなく、始祖に関する情報を持っていたプファイルも、いや、この場にいる一同が晴嵐の言葉を理解できず、唖然としている。
「つまりね、始祖は魔術が存在しない別世界からきた異世界人なのよ」




