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この度、公爵家の令嬢の婚約者となりました。しかし、噂では性格が悪く、十歳も年上です。  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
九章

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5.竜来訪5.



「皆様はじめまして。私は晴嵐。龍王国第一王女です。いつも妹が大変お世話になってます」


 そう朗らかな笑顔とともに挨拶をしたのは絶世の美女と言っても過言ではない美しさを持っていた。

 細身の体を青い民族衣装に包んだ彼女は、地に着くほど髪が長く、誰もが目を奪われるほど整った容姿をしている。


 鈴を転がすような声はいつまでも耳に残り、女性の外見を重要視しないジャレッドやプファイルでさえ見とれているほどだ。


「なにが第一王女じゃ! そなたは妾の兄上で、第一王子ではないかっ!」


 誰もが息を飲んで目の前の美女に目を奪われる中、怒鳴り声をあげた璃桜。


「……姉上と呼びなさいと言っているでしょう。皆様の前で、そんな大きな声をだして。はしたないわね」


 きっと璃桜が成長すればよく似るのだろう。今でこそ、可愛らしい少女であるが、やはり幼さが目立つ。だが、いずれ背丈が伸び、雰囲気が大人になれば、隣に立つ晴嵐のようになるはずだ。


「あの……あなたが、晴嵐さまでよろしいのですか?」

「はい、オリヴィエ・アルウェイ様。皆様には妹がとてもお世話になっていると聞いております。龍王国を代表してお礼申し上げますわ」

「これはご丁寧に。ですが、お礼は不要です。璃桜はわたくしたちの家族ですので」


 いち早く再起動を果たしたオリヴィエがなんとか挨拶を交わすが、動揺しているのか、視線が晴嵐の頭からつま先までを行き来して落ち着かない。

 そんな視線に慣れっこなのだろう、晴嵐は気にもせずにこにことしている。


「嬉しいことをおっしゃってくれますわね。聞けば、この子は出会い頭にジャレッドに襲い掛かったというのに、よくしてくださり姉として嬉しい限りです」

「……いえ、あの、ところで……失礼ですが、璃桜からはお兄さまと聞いていたのですが、そのお姉さまではなく?」

「まあ! 嬉しいことを言ってくださいますわ! はい、わたしは姉です!」

「じゃーかーらー! みんなの前でそういうのはやめてくれとお願いしたではないかぁ! なんじゃ姉って! 竜は成長過程で性別を変えたりせんのじゃぞ!」


 晴嵐に対する怒りをぶつける璃桜だが、どこ吹く風とばかりに姉は平然としている。そんな姉妹だか兄妹だかわからない関係の二人に、どうしていいのかわからない一同だ。

 普段とは違う璃桜の姿は微笑ましいものの、本気で怒っているのがわかるためになんとも言えない雰囲気が漂う。


「ところで、ジャレッドは久しぶりなのに挨拶もなにもないのね? ちょっと寂しいわ」


 そんな中、言葉を発することなく呆然としていたジャレッドに晴嵐が微笑み声をかけたのだが、


「え? 誰?」


 ジャレッドは目の前の人物にまったく心当たりがないようで、割と本気で首を傾げたのだ。


「あら酷い。命をかけて戦った仲じゃなの」

「……いや、あの、本当にどちらさま?」

「嫌だわ、この子ったら本当に私のことわからないって顔してるじゃない。え、嘘でしょう?」

「ほれ見たことか! 死闘を繰り広げた相手にさえ認識してもらえぬとはっ! ざまあみろなのじゃっ」


 晴嵐の姿を見ても記憶にある竜の青年の姿と一致しないジャレッドの容姿に、璃桜が勝ち誇ったように踏ん反り返る。


「もう、たった二年ほど前のことなのにもう忘れちゃったの? ほら、武者修行と称して各地を転々としていた私と出会って戦ったでしょう。あの頃のジャレッドは今ほど魔力も研ぎ澄まされていなかったし、魔力量も少なかったけど、この晴嵐――自分を負かした初めての人間を忘れたりしないわ」

「えー、いや、だって、晴嵐って男だったじゃん。羨ましくなるほどイケメンだったんだぞ?」

「あら嬉しい」

「俺にはあんたと晴嵐が同一人物にはまるで思えないんだけど」

「あらあらまあまあ、そんな嬉しいこと言っちゃって。久しぶりの再会だけでも心が踊るのに、こんなに喜ばせてどうするのかしら」


 両手を頬に当てて、くねくねし始めた晴嵐の姿に、璃桜から何かが切れる音がはっきりと聞こえた。


「ジャレッドぉおおおおおおおおおお! 貴様の目は節穴かぁ! この女装している男はな、たしかに女に見えるかも知れんが、妾の兄上で、そなたと命をかけて戦った龍王国第一王子晴嵐じゃぁああああ!」




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