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この度、公爵家の令嬢の婚約者となりました。しかし、噂では性格が悪く、十歳も年上です。  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
八章

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【間章5】プファイルの恋の行方とこれから3.



 深夜、プファイルは夜風にあたりながら、王都の町並みを見下ろしていた。

 つい先ほどまで、エルネスタ・カイフの部屋にいたが、彼女が疲れを見せていたので、後ろ髪を引かれる思いで別れたばかりだ。


「少しずつエルネスタが元気を取り戻していることに安心した」


 自分の意思でなかったとしても、操られジャレッドとオリヴィエを誘拐した片棒を担がされたことはエルネスタに大きなショックを与えていた。

 一時期は、責任を取る形で秘書官をやめるとも言っていたが、プファイルはもちろんのこと、オリヴィエとジャレッドが直接顔を合わせて、気にしていないことを告げてくれたおかげで思い直してくれたことは記憶に新しい。


 罪の意識が消えたわけではなく、操られながらもしでかしてしまったことも消えてはくれない。それでも前を向いて進んでいこうと決意してくれたエルネスタを尊敬し、プファイルは極力力になろうと決めていた。


「……今夜も現れたか」


 建物の屋根に立っているプファイルの眼下には、カイフ家の屋敷を伺う黒ずくめの人間がいた。

 隠形はあまりにもお粗末で、感情も気配も殺せていない人物に、ため息をつく。


「あの程度なら私が出ずとも――いや、知られてはならない」


 そう自らに言うと、軽やかにプファイルは屋根の上から飛び降りた。

 次の瞬間、音を立てることなく、怪しげな人物の背後に立つと、矢をつがえ弓を構える。


「動くな」

「――っ」

「指一本でも動かせば、私は躊躇なく貴様を射抜いてやろう」


 黒ずくめの人間が女性であることはわかっていた。ここ何日か、エルネスタの家を伺っていた人物と同じだろうと判断する。


「お前の行動理由はわかっている。愚かな逆恨みなどやめて、捕まる前にどこかに身を隠したほうがいいだろう。今ならば、私もお前など見なかったことにしてやる」

「……愚かな、逆恨み、ですって?」


 振り返った女は歪んだ形相でプファイルを睨みつけ、声を荒らげた。


「あの女は反逆に加わりながら無罪放免になっているのに、私は国から追われ、恋人は処刑されるのよ!? それを逆恨みですってっ! 当然の報復よ!」


 今にも掴みかからんとした女に、プファイルは冷静に矢を放った。

 矢は女の太ももを貫通し、地面へと突き刺さる。


「ぎっ――」


 突然の痛みに絶叫をあげようとした女の口を、プファイルは手のひらで抑え、そのまま地面へと押し倒した。


「叫ぶな。エルネスタに気づかれてしまう。貴様の怒りなどどうでもいいが、ひとつだけ言っておこう。貴様とその間抜けな恋人は、自らの意思でこの国に反逆した。だが、エルネスタは違う。非道にも魔術で意識を奪われ、利用されたのだ。彼女は今でも、そのことに胸を痛めている。貴様のように、自分の行動に責任をとらず、他者を逆恨みするようなことなどしない」


 女の腹部に拳を叩き込み、意識を奪う。

 カイフ家を伺い、灯りがついていないことを安心する。エルネスタに気づかれなくてよかったと心底思う。


「貴様を魔術師協会に突き出せば、処刑されるだろう。馬鹿な女だ。見逃してやるといったときに、逃げればよかったのだ。反逆に加担したのも、今ここで私に捕まったのも、すべて貴様自身の選んだことだ」


 意識のない女に、淡々と告げる。

 この女は先日の反逆者たちの残党だった。直接的に動いたのではなく、間接的に支援した人間は多い。

 その大半が捕まり、何らかの処罰がされているが、中には逃げている人間もいる。それがこの女だ。

 大きな罪に問われなければ償おうとするのだろうが、処刑か長い懲役刑の場合は死に物狂いで逃げる者が多い。


 だがもっとも厄介なのは、この女のように逆恨みをする者だ。

 エルネスタは呪術によって操られていたが、そのことを知らない人間は多い。とくに、反逆者たちに丁寧に説明してやる理由も義理もない。その結果、今回のように反逆に加わっていたにも関わらず、無罪放免になっているエルネスタを許せない――などと言う愚か者が彼女を害そうとやってくるのだ。


「この女で五人目か」


 実をいうと、こうした襲撃未遂は初めてではない。今まで、エルネスタに気づかれないように処理してきた。


「魔術師協会も、王宮も残党狩りはしているようだが……埒が明かない」


 プファイルに言わせれば、残党というに値する人間は残っていない。すべてジャレッドたちによって捕縛されている。

 現在残っているのは、甘言に惑わされて加担した者や、ありもしない勝算を信じて勝ち組になろうとした愚か者ばかりだ。放っておいても、国に害を与えることはできないだろう。

 とはいえこのようなことを何度も起こされては困る。


「魔術師協会と相談だな。……ふっ、やはり私は甘くなった」


 殺すことなく敵を捕縛している自分のことを甘いと思わずにはいられない。しかし、そんな自分をエルネスタは優しいと言ってくれる。それがどうしてか心地いいのだ。


「……おやすみ、エルネスタ。よい夢を」


 気絶した女を担ぎ、プファイルは闇の中に消えた。




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