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この度、公爵家の令嬢の婚約者となりました。しかし、噂では性格が悪く、十歳も年上です。  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
八章

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【間章4】オリヴィエとヴェロニカ1.



 オリヴィエ・アルウェイは、ウェザード王国第一王女ヴェロニカ・W・フェアリーガーの来訪を受けていた。


「お久しぶりです、ヴェロニカ様」

「ふふ。本当に。最後にあったのは一年ほど前かしら。私たち、幼馴染みなのに、なかなか会えなくて寂しいわ」


 年齢もひとつ違いの幼馴染みは、幼い頃から親しかった。母親の命を狙われて人間不信になってしまったオリヴィエが、家族以外で心を許すことのできる数少ない人物が、ヴェロニカである。

 そんな彼女も、連絡方法が限られており、また相手が王女ということもあってどうしても会えば人目についてしまう。それらの理由から、ここ一年ほど数える程度の手紙のやり取りくらいしか交流がなかった。

 家族の問題が婚約者によって解決すると、ヴェロニカとの連絡も増えていたのだが、こうして直接会うのは久しぶりだった。


「表情が柔らかくなったわね。直接顔を見ることができて安心したわ」

「お母さまの一件が無事に解決しましたので、精神的に楽になったからだと思います」

「ハンネローネさまのことは、あなたの手紙はもちろん、父からも聞いているわ。今まで、一度もオリヴィエのことを疑ったことはなかったけど、本当に側室がおばさまのお命を狙っていたなんて……恐ろしいことだわ」

「ジャレッド――わたくしの婚約者のおかげで、母の命も、わたくしのことも、いいえ、違いますね、家族が守られました」


 何度思い返しても、ジャレッドには感謝しきれない。父親が勝手に決めた縁談で出会った彼が、まさか長年苦しんでいた母の件を解決してくれるなど、初対面のときには思いもしなかった。

 まだ、あのときから半年も経っていないが、色々なことが起きたせいで、とても懐かしく感じる。


「オリヴィエにとって素敵な婚約者のようね。あれだけ男性を毛嫌いして結婚を拒んでいたとは思えないわ。幸せそうな顔をしちゃって」

「か、からかわないでください。ですが、はい。わたくしにはもったいない相手です」


 頰が熱くなる。幼馴染みと婚約者の話をする日がくるなんて今まで考えもしなかった。そんな余裕はなかったし、将来を考えることを放棄していたこともある。

 今だって将来に対する不安はあるのだが、ジャレッドに出会う前の日々を考えると、些細なものだ。


「そういえば、前のお会いしたときに、ヴェロニカさまに気に入った男性がいるとお聞きした記憶がありますが、その後、どうなりましたか?」

「一年かけて、ようやくわたしのことを王女だと気づいてもらえたわ」

「さぞかし驚いたでしょうね」

「ふふふ、ええ、とても。でもね、態度を変えずに、王女だと知る前と変わらずにいてくれることがなによりも嬉しかったわ」

「あら。それは素敵な方ですね」


 少しだけジャレッドを思い浮かべてしまい、苦笑する。よくも悪くも、婚約者なら知人の正体が王女だったとしても態度を変えずにありのままを受け入れてくれるはずだ。

 オリヴィエにはヴェロニカの気持ちが痛いほど理解できる。王族ではないが、公爵家の令嬢という立場は、人付き合いをするのには正直邪魔になることが多い。立場を知らなかったものが、知った途端に態度を変化させてしまうのは、寂しいものがあるのだ。


 幼少期や学生時代、友人になりたかった相手から媚びられて失望したことや、家の都合で臣下のように振舞われて悲しい思いをしたことも、一度や二度ではない。

 王女という立場ならなおさらだろう。だからこそ、王女と知りながら態度を変えない人間はとても貴重だった。


 人によっては不敬だと言うかもしれない。だが、当の本人にしてみれば、立場を関係なくありのままを見てくれる人間というのは、どうしても必要不可欠である。

 オリヴィエにとってジャレッドがいるように。


「私ね、その人と結婚したいと思っているの。幸いなことにお父様も賛成してくれているのよ」

「あら、それではお祝い事ですね。おめでとうございます」


 自分と同じように行き遅れと揶揄されていた幼馴染みに訪れた春を、心から祝福する。


「でもね、少しだけ問題もあるの」

「問題、ですか?」


 気落ち、というよりも、困ったような表情を浮かべて、なぜかこちらを伺ってくる幼馴染みに首を傾げてしまう。

 あと、急に嫌な予感がした。そう、まるで大事なものを奪われてしまうのではないかという、不安だ。


「その人にはすでに婚約者がいるの。でも、その婚約者が側室を娶ることをあまりよく思っていなくてね」

「……王女が側室ということにも驚きですが、どこかで聞いたことのある話なのは気のせいでしょうか?」

「実は、その人ってね、オリヴィエもよく知っている方なのよ」

「一応、聞いておきますが、どなたでしょうか?」


 心臓が早鐘のように鼓動する。

 嫌な予感を通り越して、核心に変わりつつある。

 なんとなく察しているが、できれば直接幼馴染みの口から相手の名前を聞き「よかった、違かった」と安心したい。


「ジャレッド・マーフィーよ」


 だが、そんな願い虚しく、ヴェロニカはオリヴィエの最愛の婚約者の名を口にしたのだった。



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