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この度、公爵家の令嬢の婚約者となりました。しかし、噂では性格が悪く、十歳も年上です。  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
八章

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41.黒幕の登場.



 ジャレッドたちはアルウェイ公爵家とロッコ伯爵家の兵と協力して、屋敷の中にいる少女たちの保護と、反逆者達の捕縛に成功した。

 降参した王立魔術師団員たちはおとなしく縄につき、残っていた魔術至上主義の貴族たちもレナードがここにいないとわかると抵抗することはなかった。

わずかだが当主を伴い逃げ出したものもいるが、捕まった人間たちから名前も割れているので捕縛されるのは時間の問題だろう。


「ジャレッドさま、よくご無事で……安心いたしました」


 涙ぐみ安堵の表情を浮かべるのは、ミリナ・ロンマイアーだった。彼女だけではない、ジャレッドがレナードと戦うことを止めようとした少女たち五人が揃って、ジャレッドの無事を喜んでいた。


「君のお父上を捕まえたよ。手荒い真似はしていないから安心して欲しい」

「重ね重ねありがとうございます。きっと父も内心ではもうこのようなことにかかわらなくていいとホッとしていると思います」

「魔術師協会と王宮には、君たちが俺を助けてくれたことをちゃんと伝えておくよ。俺の訴えがどこまで通じるかわからないけど、せめて君たちが安心して暮らせるようにしたいんだ」

「お気持ちは嬉しいですが、わたくしたちは父がレナードさまに加担した時点で覚悟しておりました。爵位を剥奪されることはもちろん、牢に繋がれることもすべて覚悟の上で、父に従ったのです」


 きっと家族を見捨てられなかった優しさからだろうと推測できる。

 ミリナをはじめ、少女たちは捕まるようなことをしていない。確かに父親はレナードに加担してしまったが、彼らもこれといってなにかをしたわけではないのだ。ただ、正統魔術師軍に所属していた、それだけだ。


 もちろん、それだけで罪になる。仮にも国家反逆を行なった組織なのだから。ならば、せめて娘たちだけでも罪に問われないように力を貸したい。ときにミリナたちロンマイアー姉妹は命の恩人でもあるのだから。


「あの、ジャレッドさまはこれからどうなされるのですか?」

「どうやらレナードの父親が元凶らしいから、そいつを叩かないと本当の意味で今回の事件は終わらないんだ」

「まだ戦いになるのですね」

「しかたないさ。正式にはまだだけど、一応宮廷魔術師だし、色々やられた借りも返さないと気が済まないからさ」

「そう、ですか。どうかお気をつけください。わたくしは、ジャレッドさまのご無事を祈っております」

「ありがとう」


 出会ったばかりだというのに、心から案じてくれるミリナに感謝する。自分たちの未来も定かではないにも関わらず、他人を想うことができるのは間違いなく彼女が心優しい人物だからだ。


「ジャレッド。保護した子たちは。今、どこに預けても不安だから父の屋敷で保護してもらいましょう」


 離れた場所から他の少女たちを励ましていたオリヴィエが声をかけてきた。


「ぜひそうしてください!」


 今、信用できるのはアルウェイ公爵家だけだ。魔術師協会と王宮も信用できるのだろうが、公爵家のほうがなにかと都合がいい。なによりも実力者ローザ・ローエンが屋敷を守っているのだから、安心できる。


「あの方がオリヴィエ・アルウェイさまなのですね」

「ああ、優しい人だよ」

「わたくしは一度だけお手紙でやりとりしただけでしたし、悪い噂も聞いていましたが……噂は所詮噂ですね。先ほど、わたくしにもお声をかけてくださいましたが、お優しい方でした」


 ミリナの言葉を受け、ジャレッドは内心喜んだ。

 悪い噂ばかりがつきまとうオリヴィエが、本当は心優しい女性だと知っている。が、世間はそうでもない。今回、オリヴィエの優しさと気遣いに触れた少女たちがきっかけになって彼女の誤解が解けていけばいいと想う。

 もう母親を守るために強くあり続ける必要はないのだから。


「わたくしはオリヴィエさまが羨ましいです」

「羨ましい?」

「わたくしも、このような形ではなく、もっと違う形でジャレッドさまとお会いできていれば……ご縁があったのでしょうか」


 返事をすることができなかった。

 レナードが言った言葉が事実なら、ミリナをはじめ少女たちはジャレッドのお見合いの申し出をしていた。が、オリヴィエによって断られているのだ。

 確かに、もっと違う形で出会えていればよかったと思う。無論、オリヴィエのような関係にはならないだろうが、こんな事件を介してではなくもっと優しい日常で出会いたかったと思わずにいられなかった。


「そろそろいいかしら、ジャレッド?」


 いつの間にか近くにいたオリヴィエが声をかけてきたので頷く。ミリナと少女たちが深々とオリヴィエに頭を下げた。


「先ほど、少し話をしたけれど、他の方から聞いたわ。あなたたちのこと」


 ジャレッドを助けたことか、それとも逃がそうとしてくれたこか。もしくは、彼女たちがオリヴィエに代わり妻となるべく望まれていたことだろうか。


「お怒りは承知しています、オリヴィエさま」


 代表してミリナが声を発し、謝罪した。だが、違うわよ、とオリヴィエが苦笑する。


「まったく思うことがないわけではないけれど、今、あなたたちに伝えたいことはひとつだけよ。――ジャレッドの力になってくれてありがとう。助けてくれて、本当に感謝しているわ」

「もったいないお言葉です。わたくしたちは、父たちに望まれオリヴィエさまに成り代わろうとしましたが、ジャレッドさまをお慕いする気持ちは本物でした。そのことだけはご理解ください」

「ええ、もちろんよ」


 オリヴィエもジャレッドも必要以上になにも言わなかった。否、言えなかった。

 ジャレッドは少女たちの気持ちに驚き、オリヴィエはなんとなく察していたようだが、今はそのときではないと考えたのだ。

 ミリナたちはもう一度深々と礼をすると、保護された面々と合流するため足を進める。


「あの子たちのことは覚えているわ。わたくしが見合いの申し出を断ったもの。もし、わたくしがあなたを独占しようとしなければ、あの子たちを受け入れていれば、あの子たちが巻き込まれることはなかったかしら?」

「それは違います。きっと巻き込まれていました。俺たちのように」

「……そう。でも、もっと早い段階で力になってあげられたかもしれなかったわ。そう思うと、少しだけ悔やまれるわ」


 オリヴィエの言いたいことも理解できる。だが、所詮「もし」でしかない。

 起きてしまったことは変えられない。ならば、過去を悔いるのではなく、未来に生きたい。ジャレッドが自己満足だったとしてもミリナたちの力になろうと決めたようにオリヴィエもそうすればいい。

 一度でも胸に抱いた罪悪感は、自分で対処しなければ消えてくれないのだから。


「いきましょう。ジャレッド。ルザーたちが待っているわ。ジドックがこの場に残って、指揮を取ってくれるそうだから、わたくしたちはルーカス・ギャラガーを倒しましょう。そして、このような馬鹿騒ぎを早く終わらせましょう」

「――いいや、それには及ばない。オリヴィエ・アルウェイ殿」

「え?」


 聞き覚えのない声が響き、オリヴィエが驚く。ジャレッドはすぐにオリヴィエの盾になるように声のした方向と彼女の体の対角線上に立った。

 刹那、無人となった正統魔術師軍のアジトから爆発した。


「な、なによ、いきなり、どうしたというの?」


 周囲では突然の爆発に、悲鳴があがり、驚愕しながらも冷静に努めようとする兵士たちがいる。


「ジャレッド殿っ、そこにいる男こそ――ルーカス・ギャラガーですぞ!」


 遠くから怒鳴るように張り上げたジドックの声に、緊張が走った。

 炎の明るさと、煙を背にして立っている初老の男性がジャレッドたちに向けて、深い笑みを浮かべる。


「紹介に預かったルーカス・ギャラガーだ。おそらく、君たちが探していると思い参上した」




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