38.望まぬ決着.
ジャレッドの目は、飛び出してきた少女を捉えていた。
しかし、放った手刀を止めることができなかった。
手刀が少女の腹部を捉え石化し砕く。それを一瞬で行い、少女の胴体を両断してしまった。
どさり、と鈍い音を立てて少女の上半身が地面に落ち、続けてもう一度鈍い音を立てて下半身が倒れる。
石化と同時に両断したため、血は流れていない。
「いやぁああああぁあああぁああぁあぁああああっっっ」
即死できなかった少女が、自身になにが起きたのか理解して絶叫を放った。
「アヴリル? 嘘だ、アヴリル、なぜ、なぜだぁああああああああっ」
ジャレッドは思い出した。自分が両断した黒髪の少女は、オリヴィエの屋敷が占領されたときにあの場にいた少女だった。名前にも聞き覚えがある、レナードの娘だ。
「ああ、そんな、どうして……アヴリル」
「ぱ、ぱ、よか、った」
「よくない。よくないんだ。お前が、どうすればいい、どうすれば助かる?」
「いい、よ。パパを、助けることが、できて、よかった」
「頼む、目を閉じないでくれ。こっちを、私を見るんだ。頼む、アヴリル」
娘の上半身を抱きかかえ、懸命に声をかけ続けるレナードをジャレッドはただ見ているしかできなかった。
高揚感も冷めた。今、あるのは後味の悪さだ。
ジャレッドの記憶が正しければ、アヴリル・ギャラガーはオリヴィエを攫った実行犯だ。なぜこの場におり、戦いに割り込んだのかまではわからないが、殺すつもりがない少女を手にかけたことはきまりが悪い。
無論、オリヴィエを攫っている以上、許せない相手ではあるが、このような事故みたいな形になるのは本意ではなかった。
「ジャレッド、頼む、私の負けでいい。だから、助けてくれ」
首を横に振る。石化の解き方を知っているわけではない。なによりも両断された体の繋げ方など、古の魔術でも不可能だろう。
「そんな……」
「……ぱ、ぱ」
「嘘だ、頼む、目を開けてくれ。目を開けるんだ、アヴリル。あゔ、りる、そんな、アヴリルぅううううううううううううっ」
レナードの慟哭を耳にし、彼の娘が生き絶えたことを知る。
いくら殺したいほど憎い相手であったとしても、このような結果は望んでいなかった。
苦しんでから死ねばいいとも思ったが、このような苦しみを与えたことでジャレッドの胸も痛む。だが、自業自得でもある。
彼らが行動を起こさなければ、アヴリルも死ななかった。せめて、ジャレッドを無視するか、オリヴィエを攫わないという選択をしていれば、このような結末はなかったかもしれない。
おもむろにレナードが立ち上がる。彼は娘の上半身を抱きかかえると、ジャレッドに背を向けて歩き出した。
「レナード」
「……もう、私の負けでいい。なんのために戦っているのかわからなくなった」
「お前……」
「私は、理想のためなら娘でも捨て駒にできると信じていた。だが、実際は違ったようだ。情けない。所詮は、私も人の親だった。それを、娘を失って気づくとは……」
静かにレナードは歩んでいく。
「今でも魔術師のための国を作りたかったことに偽りはない。権力者の所有物とされ、特別扱いされる一方で優れていなければその価値はないと扱われる。今の世の中は間違っている。君や娘のように希少価値の高い魔術師は、だいたいが権力者に取り込まれて終わりだ。君がアルウェイ公爵家に取り込まれたように、ね」
「俺は取り込まれたつもりはない」
「君がそう思うのならきっとそうなんだろう。だが、今の世の中に仕組みに不満を持つ魔術師は多い。それこそ君の同級生さえも、国に逆らってでも待遇を変えたいと思っているんだよ。無論、私がそう誘導したのも事実だがね」
「生徒たちはどうした?」
「使えそうな生徒はオリヴィエ・アルウェイを軟禁している屋敷や、囮としていくつかの屋敷に待機させている。残りは、私の父が率いていった」
「お前の、父親?」
レナードは足を止めて、振り返る。
「私の父が、すべての首謀者だ。所詮、私も父に従うだけの駒にすぎない。気をつけろ、ジャレッド。あのお方は、なにを考えているのかわからない。私には魔術師のための理想国家を作るとおっしゃっていたが、それも本心なのかどうかわからないのだよ」
「なら、どうして従ったんだ?」
ジャレッドの問いかけに、レナードは泣きそうな顔をした。
「幼い頃から、父の言う通りに生きてきた。一族の理想を、魔術師の生き方を、そう強いられてね。私には、他の生き方などなかった。他の生き方など知らなかったのさ」
「……これからどうするんだ?」
「さあ、なにも思いつかない。私は娘を失い、大切さに気づいた。君は私のようにならないことを祈るよ」
そう言い残し、娘を抱いてレナードは去っていく。
ジャレッドは彼の背中を見つめるだけで、なにもできなかった。
こうしてジャレッドとレナードの戦いは、思わぬ形で決着がついたのだった。




