10.残された者たち9. 敵の行方5.
「ロンマイヤー侯爵家の所有している土地が王都の外れに存在しているが、その場所に王立魔術師団員の目撃が確認された」
「さすがヴァールトイフェルだ。では公爵、さっそく――」
「待て、ルザー・フィッシャー。私の話はまだ終わってない」
「どういう意味かな?」
さっそく行動を始めようとしたルザーにローザが待ったをかける。
動きを止めたルザーは怪訝な表情を浮かべ、続く言葉を待った。
「残念だが、ロンマイヤー侯爵家の土地とは反対の位置にあるシレント伯爵家の所有地にもまた目撃された団員たちがいる」
「つまりそのどちらかにジャレッドとオリヴィエさまがいる可能性が高いけど、正解がわかっていないってことだね?」
「その通りだ。どちらかが陽動か、もしくは両方が陽動である可能性もあるが、それを調べるにはまだ時間が必要だ」
「ならば二手に分かれて直接調べるほかあるまい」
二人の会話に割って入ったのは、プファイルだ。
「戦力を割けることは避けたいが、今はそうも言っていられないはずだ。なによりもどちらにもジャレッドたちがいない可能性を考えるなら、私たちが直接動き、代わりに密偵に他の場所も探らせるべきだ」
弓使いの暗殺者の言葉は効率を重視したものだった。
拠点が二ヵ所見つかってしまった以上、戦力を分割したとしても自分たちが直接動くべきだと判断された。そして反対の声はない。
最優先で保護するべきは戦う術を持たないオリヴィエであるが、正確な居場所は今も判断できない。ならば騎士団を派遣することも難しくなる。
結局のところ、現状では動きやすいプファイルたちが動くべきなのだ。
「プファイルくんの言うとおりにしよう」
公爵の一言でこれからすべきことが決定された。
「だがまさか、ロンマイヤー侯爵とシレント伯爵まで関わっていたとは……。たしかの両家は魔術師の一族ではあるが、ここまで愚かな真似をするとは思っていなかった」
「お言葉ですが公爵。僕のヘリング家は両家と交友がありますが、どちらの当主も国のために働いておられる方々です。もしかしたらなんらかの事情があるかもしれません」
「かもしれない。だが、今は判断できない。個人的な願望ではあるが、なにかしらの事情があるのならそのほうがいいと思うよ。しかし今は私も君も余計なことを考えるべきではない。すまない、私の小言のせいで」
「いいえ。お気持ちはわかります」
アルウェイ公爵が思わず感情を吐露してしまったのは無理もない。
貴族が、それも侯爵と伯爵家がそろって反逆行為に加担しているのだ。幸いというべきか、アルウェイ公爵家と両家は派閥は違う。しかし敵対関係があるわけでもない。季節の便りは交わすし、会えば談笑することも珍しくない程度には親しいのだ。
それだけにショックが大きいと言える。
「話しを先に進めるとしよう。ルザー・フィッシャーとラウレンツ・ヘリングはロンマイヤー侯爵家私有地へ向かえ。私は部下を伴いシレント伯爵家私有地へいこう」
「私はこの屋敷の防衛を引き続き務めよう」
「よろしく頼む、ローエンくん」
頭を下げる公爵に、赤毛の暗殺者は頷くと執務室をあとにした。
「君たちも気をつけてほしい。オリヴィエたちを救うのに君たちになにかあったら元も子もないのだからね」
「承知している。では、事が済み次第、再びここアルウェイ公爵家で落ち合おう」
プファイルはそう言い残し、窓に足をかけ跳躍した。
「ご安心ください。オリヴィエさまを必ず救い出します」
「僕も尽力します」
「ありがとう。ルザーくん、ラウレンツくん」
公爵に見送られ、二人も出発する。
残された公爵は、いつでも出立できるよう準備するよう命じた兵の様子を確認するため屋敷の外へと向かう。
頼りになる少年たちに任せたものの、親としてなにもできないことが実にもどかしく、不安が残る。
自らの心内をかき消すためにも、少年たちを信じ、自分のすべきことをするため動いていく。
そうしなければ愛娘の安否ばかりが気になってしまうのだ。
どうか無事に帰ってきてくれ――そう願わずにはいられなかった。
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