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この度、公爵家の令嬢の婚約者となりました。しかし、噂では性格が悪く、十歳も年上です。  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
八章

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6.残された者たち5. 敵の行方1.




 深々と頭を下げた公爵。娘を攫われた父親の心中を察することは難しい。だが、彼がまだ絶望していないことだけはわかる。


「感謝などすべてが片づいてからすればいい。ハーラルト・アルウェイ公爵、今後どう動く?」

「プファイルくんの言うとおりだ。感謝するのはオリヴィエとジャレッドを取り戻し、反逆者どもを叩きつぶしてからにするとしよう」


 空気が読めない発言にも、叱咤にもとることのできるプファイルの言葉を公爵は前向きに受け取り、頷いた。


「先ほども言ったが、現状は後手に回り過ぎている。正直、王宮と魔術師協会と連絡が取りたくてもいつになるのかわからない」

「でしょうね。俺が正統魔術師軍ならそこだけは必ず潰しておきたいと考えます。もっとも、潰せるかどうかが問題ですが」


 ルザーの言葉に誰もが同意するように頷いた。


「ラウレンツ。学園にはレナード・ギャラガー本人がきていたんだよね? 目的は何だと思う?」

「それは……」


 ちらり、とラウレンツは周囲を伺った。

 友人であるラーズが王子であること、教師キルシ・サンタラが宮廷魔術師第二席であることを自分の判断で話してしまってもいいのかと迷ったのだ。

 宮廷魔術師候補に名が挙がる可能性があっても、現在は権限のない子供であるラウレンツに、どこまで情報開示が可能なのか判断ができかねた。その様子を察したのか、アルウェイ公爵が助けを出す。


「王立学園には我が国の王子が通われているのだよ。そして、宮廷魔術師第二席もおられる。レナードの目的は、恐れ多くも王子へ危害を加えることだろう」


 危害――と言葉を濁したが、実際は殺そうとしたのだ。ラウレンツがいなければキルシが登場する前にラーズが害されていた可能性だってあった。

 王族を狙うなど、取り返しのつかないことをした以上、反逆者たちはどこまでも本気なのだと理解できる。


「幸いと言うべきか失敗に終わったが、奴らが王族を狙った以上二度目、三度目があるやもしれない。ならば、次なる行動を起こされる前に潰しておきたいと考えている」

「公爵の意見には賛成します。ですが、問題として正統魔術師軍の連中がどこにいるのか。オリヴィエさまとジャレッドの身も確保しなければならない以上、完全に雲隠れされてしまう前にこちらも行動に出なければならないでしょう」

「僕もルザーに賛成です。ジャレッドにはなにかしらの目的があるようですが、オリヴィエさまはあくまでもジャレッドに対する人質として連れ去られています。奴らが利用価値があると思っている間に助けなければなりません」


 なによりも恐ろしいのは用済みと思われたオリヴィエに危害が加えられる可能でした。その場合、ジャレッドが怒り狂うことも想定しなければならないが、被害に遭うのは向こうである。

 最重要視されるのは、オリヴィエを傷ひとつなく奪還することだ。彼女さえ助けることができれば、ジャレッドの枷もなくなるのだから。


「もちろんわかっている。リュディガー公爵から兵を貸しだしてもらえるように頼んである。王都なので兵の数にも限界があるが、それでもないよりはいいだろう。両家から諜報も放っているので、少し時間がかかったとしても奴らの居場所は見つけてみせる」

「だが、所詮は貴族のお抱えでしかない。ヴァールトイフェルの諜報員には勝てまい」


 暗殺者の少年の指摘に、公爵の表情が暗くなる。言われるまでもなく、その通りだ。

 大陸最強の暗殺組織がなぜ最強と呼ばれるのか、それは単に戦いに強いからではない。人員、情報収集、すべてが揃ってこそヴァールトイフェルが最強と言われる由縁であるのだ。


「私の方ですでに諜報は放っている。こちらの情報と、お前たち側で手に入れた情報を照らしあわせ、愚か者たちの居場所を突き止めればいい」

「感謝する、プファイルくん」


 まさかすでにヴァールトイフェルを動かしてくれていたなどと考えもしていなかった公爵は、彼の手助けに礼をした。


「あとは情報を待つだけですが、この時間が辛いですね。ところで、公爵、お聞きしたのですが」

「なにかな?」


 ルザーはずっと抱えていた疑問を口にした。


「なぜレナード・ギャラガーが今回の一件を起こしたのか把握していますか?」


 公爵は首を横に振るう。

 彼もまたレナード・ギャラガーの反逆理由までしらないのだ。


「残念だが、彼が正統魔術師軍であったこそさえ想定外だったのだよ。目的も同じようにわかっていない。私たちは後手に回り過ぎている。屋敷を襲われたときでさえ、なにもできなかった。もしローザ殿がいなければ、どうなっていたのかわかったものではない」


 公爵家にも兵がいるが、本格的に戦闘魔術師として訓練し、実績を積んだ王立魔術師団員には敵わないだろう。ひとりで敵対する団員たちを無効化してしまったローザが異常なのだ。普通なら、敗北し、今ごろ公爵家は反逆者の手に落ちていただろう。

 そのことを考えると、戦力が十分にあるダウム男爵家やリュディガー公爵家以外に狙われた一族の安否に不安が残る。


「仮にも王立魔術師団団長、つまり国に所属する魔術師のトップクラスが、いくら魔術師主義に溺れていたとしても一国を相手取ることをよく決断したものですね。正直、その豪胆さに感心しますよ」

「学園で奴は言っていた。魔術師のためだけの国をつくると。不満を抱える生徒たちには、甘美に聞こえたはずだ。あの男は魔術師として強いのかもしれないが、それ以上に人を操るのが上手いと僕は思う」

「ふん。いちいち反逆者の心情を察してやる必要はない。全員倒せばそれでいい」


 ルザーとラウレンツは、魔術師を率いて反逆を起こしたレナードの理由が気になったが、プファイルは知ったものかと切って捨てる。

 確かに、いちいち敵対する人間の心情など知ってやる必要はないのだが、知ることで今後の行動も把握できる可能性があるのも事実だった。


「おそらく、私たちでは正統魔術師軍の、いや、レナード・ギャラガーの行動理由を知ることはできないだろう」


 公爵の言葉に頷くほかない。

 どちらにせよここで答えがでる問題ではないのだから。

 しかし、明確な理由がわからない状態で、反逆者たちと戦うことに一抹の不安を覚える一同だった。




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