表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この度、公爵家の令嬢の婚約者となりました。しかし、噂では性格が悪く、十歳も年上です。  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
八章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

325/499

2.残された者たち2. 救出2.




「さあ屋敷の外へ。アルウェイ公爵家まで責任を持ってお送りします。――ところでジャレッドとオリヴィエさまは?」

「オリヴィエさまとジャレッドさまは襲撃者たちに攫われてしまいました」


 ルザーの声に応じたのはトレーネだった。


「ま、まさか? それほど敵が強力だったのですか?」

「違います。オリヴィエさまが人質に取られてしまい、ジャレッドさまが戦えなかったのです」

「――っ、ジャレッドらしい。二人のことも心配ですが、まずは皆様を。どうぞついてきてください」


 襲撃者側にエルネスタがいたことを伏せたのは、トレーネなりの配慮なのかもしれない。

 手を差し伸べハンネローネを立たせたルザーが戦闘に立ち、一同は屋敷の外へ向かおうとする。だが、廊下に一歩踏み出したと同時に、リリーが待ったをかける。


「フィッシャー殿、外に出るのはいささか危険ではないだろうか?」

「危険かもしれません。ですが、俺が命に代えても守ってみせます。といっても初対面であるあなたに信用していただけないかもしれませんが」


 屋敷の外からは、今も誰かが戦っている音が聞こえている。

 ジャレッドたちを攫われてしまったが、王立魔術師団すべてが撤退したわけではないということだ。

 疑問なのはなぜ今も戦っているか、だ。ジャレッドが抵抗したのか、それとも別の第三者がルザーのように助けにきてくれたのか、リリーたちに知るすべはない。


「信用していないわけじゃない。ただ、いくらあなたが単身でこの屋敷に現れ窮地を救ってくれたとはいえ、無事に脱出できるかどうか……」

「ルザーさまはどうやってお屋敷に?」


 トレーネの口にした呟きに、リリーも同じように疑問を抱いた。

 どうやって自分たちの危機を知り、魔術師たちの包囲網を突破して現れたのか不明だった。


「特別なことはしていません。こちらの危機がわかったのは、先ほどジャレッドの強い魔力を感じたからです。間違いなくなにかが起きた、と。屋敷に入ってこられたのは、俺の魔術が雷だからです」

「まさかフィッシャー殿は雷となって屋敷の中へ?」

「はい。不完全なものではありますが、その辺の魔術師に遅れを取るつもりはありません」


 彼の言葉を疑うことはしない。実際に、彼の力を目の当たりにしているからだ。

 目にも止まらない速さで現れ、紫電をまき散らして敵をあっという間に倒した力量は驚きの一言だった。


 リリーがまだ幼少期に一度会ったことがある宮廷魔術師と比べても実力において差があるとは思えない。

 ジャレッドの兄貴分であることも踏まえて、信頼に値すると思われる。

 なによりも、屋敷に残ることはデメリットが多かった。


「アルウェイ公爵家に助けを求めるべきですし、いつまでもこの場にいるわけにもいきません。安全だと言える場所へ」

「わかった。疑うような真似をしてしまい申し訳ない。どうか、わたしたちのことを、頼む」

「お任せください」


 恭しく礼をするルザーの視線が、ハンネローネに向けられていることは気づいていた。

 長年、娘を守ろうと気丈に振る舞っていたハンネローネだが、その守るべき娘が婚約者とそろって攫われたせいで顔色が悪い。

 ルザーが公爵家に急いだ理由も、リリーが危険を冒して公爵家に向かうことをためらったのもそろってハンネローネを思ってのことだった。


「音が、静かになりました」

「本当だね……戦いが終わったのかな?」


 不意にやんだ戦闘音に、四人が困惑する。今度はなにが起きたのか、と不安にもなる。


「身を低くしてください。窓には近づかないで」


 ルザーはそう忠告すると、自らはおもむろに窓に近づき外の様子を窺う。

 緊張が流れる。


「もう、大丈夫のようです。さあ、外へいきましょう」


 ふう、と大きく息を吐きだしたルザーが三人を安心させるよう微笑を浮かべた。


「フィッシャー殿? どういうことだ?」

「戦いは終わりました。援軍のおかげです。少なくても、この屋敷はもう大丈夫です」


 彼が屋敷の外を指さすと、リリーたちが恐る恐る窓を覗く。


「プファイルと、あの方は……ラウレンツ・ヘリングさま?」


 驚きと疑問の声をあげたのはトレーネだった。ハンネローネはともに暮らす少年の姿に安堵し、リリーもまたプファイルの実力を知るゆえに胸をなで下ろす。

 戦闘衣を纏わず弓を持っていないが、さすがはヴァールトイフェルの暗殺者と言うべきか、片手にナイフを握りしめ倒れる魔術師たちの真ん中に悠々と立っている。


 もうひとりの少年にリリーは見覚えがなかったが、ラウレンツ・ヘリングという名前からジャレッドの王立学園の友人であることを思い出した。

 亜麻色の髪の少年は、王立学園の制服を土と血で汚し、肩で息をしながら呼吸を整えようとしていた。目立つ怪我のないプファイルに対し、ラウレンツは制服のあちこちから素肌をのぞかせ血を流している。


 ざっと見ても五十人いる魔術師たちを立った二人で倒してしまう実力は疑うことなく本物である。

 窓から様子を窺う四人に気づいたプファイルが、ラウレンツに声をかける姿が見えた。


「まずは彼らと合流しましょう。そして、アルウェイ公爵家へ」


 ルザーの提案に反対する者は誰ひとりとしておらず、リリーとトレーネはハンネローネの手を引き、屋敷の外へ出た。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ