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この度、公爵家の令嬢の婚約者となりました。しかし、噂では性格が悪く、十歳も年上です。  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
七章

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42.Epilogue3.



 王立魔術師団団長の名に誰もが絶句した。

 屋敷を襲った王立魔術師団の面々から予想ができなかったわけではない。信じたくなかったのだ。仮にも国に仕える重鎮が、反逆行為をするなどと。


「くだらない――たかが魔術師たちが徒党を組んだからとしても国を取れるわけがない」


 王立魔術師団団長よりも格上である宮廷魔術師がいるのだ。

 本来の規定人数である十二人が揃っていなくとも、魔術師として国に認められた稀有な存在がいる以上、反逆者たちに勝ち目はない。


「それってぇ、まさかぁ宮廷魔術師のことを言ってるのぉ?」

「そうだ。いくら魔術師団団長とはいえ宮廷魔術師に勝てるはずがない」


 戦ってみなければ勝敗はわからないだろう。実際の戦闘などそんなものだ。

 しかし、どれだけレナード・ギャラガーが強くても、宮廷魔術師を全員相手にすることは不可能だ。

 仮に王立魔術師団団長のレナードと同等の実力者が何人もいれば話はまた別だが、先日王立魔術師団を見た限りではいない。もちろん、隠された戦力もあるだろう。

 リュディガー公爵領でジャレッドが戦った襲撃者のように、明らかに強者である人間もいるはずだ。しかし、国には宮廷魔術師だけではない。


「宮廷魔術師だけじゃない、騎士団もいる。魔術師協会だって黙っていない。お前たちがこの国を手に入れることは――不可能だ」


 心配なのは、魔術師協会に反逆者に加担している人間がどれだけいるか、だ。

 騎士団の心配していない。すでに戦った魔術師たちの口から情報を得ていたジャレッドは、反逆者たちが正統魔術師軍だとわかっていた。ならば、騎士団は仲間にはならないし、なることはない。

 魔術師が魔術師のために国を奪おうとしているのなら、騎士は民に含まれることはない。あくまでも魔術師であることが大前提なのだから。


「へぇ。その言葉が本心なのかぁ、それとも強がりなのかまではわからないけどぉ。あなたは負けよぉ、ジャレッドぉ」


 浮かべていた笑みをより醜悪に歪ませ、女は笑う。楽しそうに、愉快だと言わんばかりに、唇を裂けんばかりに吊り上げる。

 彼女が指を鳴らすと、操り人形のごとくエルネスタがナイフとオリヴィエの首筋に再び当てた。


「やめてくれ!」


 もう無理だと悟った。

 ジャレッドが会話を続けたのは、異変に気付いた誰かが屋敷にきてくれることを願っていたからだ。大切なオリヴィエたちを人質に取られ後手に回っている以上、戦うことさえできないことはすでにわかっていた。

 おそらく、頼りにしている人たちのもとにも王立魔術師団の面々が向かっていると思われた。


「殺しはしないわよぉ。だって、人質って殺したら意味がないでしょうぉ」

「――ジャレッド。わたくしに構わないで」


 今にも泣きだしてしまいそうなジャレッドにオリヴィエは気丈に声をかける。

 不思議と恐怖を感じていない。今はただ、大切な婚約者のためにできることをしたい――ただそれだけ。


「黙ってくれないしらぁ」

「わたくしたちのことを大切に想ってくれているのは嬉しいけれど、あなたは自分のすべきことをして。ジャレッド、あなたは――宮廷魔術師なのよ」

「……黙れってばぁ」

「あなたの妻になる以上、覚悟はできているわ」

「黙れって言ってるだろっ」


 無視され続けた女が怒りに任せオリヴィエの頬を打つ。

 オリヴィエはそんな女を射抜くように睨む。


「あら、口調が変わったわね。どうしたのかしら――余裕がないわね」

「お前っ、殺すぞ!」

「殺したければ殺せばいいわ。やれるものならやってみなさい、わたくしを殺せばジャレッドがどう行動するのかわからないわけじゃないでしょう。だからあなたは私を殺せない。屋敷にいるすべての人間を殺すことができない。違う?」

「――っ」


 オリヴィエの問いに女は沈黙で応えた。それが返答だった。

 人質をひとりでも傷つければ我を失ったジャレッドになにをされるのかわからない。それだけはするなと父に言明されている。だが、なにもしなければジャレッドは動くことはできない。

 人質の身の安全を保障さえすれば、宮廷魔術師の中でもっとも警戒されているジャレッドの動きを封殺できるのだ。


「……いいわぁ。ええ、いいわよぉ。あなたたちを殺さないし、傷つけはしないわぁ。でも、結果はかわらないものぉ。ねぇ、ジャレッド?」


 女はいやらしく顔を歪ませジャレッドに近づく、顎を掴む。


「あなたの大事な人間は傷つけないわぁ。でも、それはぁ、あなたが抵抗しないことが前提よぉ。わかるでしょぅ?」

「ああ、わかってる」

「ジャレッド!」


 オリヴィエが責めるように声を荒らげたが、ジャレッドは一瞥して眼前の女に視線を戻す。


「いい子ねぇ。なら、宣言てほしいなぁ。降伏宣言よぉ」

「わかった。だから、絶対にオリヴィエさまたちには手を出さないでくれ」

「約束が守られるかどうかはぁ、あなた次第よぉ、ジャレッドぉ」


 わざとらしい舌ったらずの口調に苛立つも、抵抗することなどできない。オリヴィエだけが人質になっていれば、命に代えても救い出しただろう。

 しかし、人質は彼女だけではない。命を賭けても、全員は救えない。

 痛いほど唇を噛んだジャレッド、長い沈黙の末に口を開いた。


「俺の負けだ」



 オリヴィエと交わした二度と負けないという約束は、果たされることがなかった。




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