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この度、公爵家の令嬢の婚約者となりました。しかし、噂では性格が悪く、十歳も年上です。  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
七章

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40.Epilogue1.



 ジャレッド・マーフィーが違和感に気づいたのは、屋敷が視界に入ってすぐだった。


「なにか、変だ――屋敷の中で、なにかあったのか?」


 呟くと同時に、自然と駆けていた。

 師アルメイダが張った結界は、あくまで外部からの攻撃を守るものだ。例え、規格外の魔術師と竜の姫君が暮らしているため戦力があっても、遠方からの攻撃を事前に防げるわけではない。魔術師ではないオリヴィエたちのために、攻撃防御に特化した結界が施されている。

 安心していた。結界による防御と、自分よりも強い人間と竜が屋敷にいることで、油断はしていなかったが、どこかで安心していた。


「――まずいな、アルメイダが屋敷にいない。璃桜にもなにかがあったんだ」


 師匠は不在なのは構わない。だが、竜の姫君の魔力が明らかにおかしかった。まるで、なにかに閉じ込められたかのように、魔力を小さくして苦しんでいる――そう感じた。

 一刻も早く屋敷の中へ――と、足を進めるジャレッドだったが、門が見えると同時になにもかもが後手に回っていることを自覚した。


「ジャレッド・マーフィー殿とお見受けする」

「誰だよ、お前ら」


 決して大きくない屋敷に対し、王立魔術師団の白い制服を着こんだ魔術師たちが二十名ほど集まっていた。目に見える範囲でこれだけの人数なのだ、屋敷の中にはもっといるかもしれない。

 逸る気持ちを押えて、冷静になれと自身に言い聞かせる。


「ここをどこだと思っていやがる。アルウェイ公爵家の別宅だぞ」

「無論、存じています。我々は――あなたに用事があって参上しました。とてもありきたりな言葉で申し訳ございませんが――オリヴィエ・アルウェイ様をはじめ、屋敷の方々の身柄を預かりました。危害を加えられたくなければ、我々に従ってください」

「……もしも、オリヴィエさまに指ひとつ触れてみろ。この世に生まれたことを後悔させてやる」



 ※



 オリヴィエ・アルウェイは、友人と言えるリリー・リュディガーと一緒にお茶を飲み、話を咲かせていた。話題の大半が婚約者のジャレッドのことだった。

 同じ男性を愛しく思う二人は、飽きもせずに自分たちの知らない少年のことを夢中に語り合う。もし、ここに本人がいれば羞恥で倒れるかもしれない。

 だが、そんな楽しい時間に終わりが訪れた。


「――おや、今、なにか物音がしなかったかな?」


 最初に気づいたのはリリーだった。

 彼女は武人である父から剣技の手ほどきを受けており、魔物の討伐にも参加するほどだ。ゆえに、オリヴィエには気づけない物音と、気配に気づいた。


「誰かがくる」


 腰に手を向け剣を抜こうとして――今日剣を所持していないことを思い出して、眉を寄せる。


「オリヴィエ、なにか武器は?」

「わたくしの部屋にあるはずがないでしょう! いえ、まって、そもそもどうして武器がいるのか説明してちょうだい」

「この屋敷にいないはずの誰かがきた」

「――え?」


 婚約者の秘書官でもあるリリーの言葉を理解することができず、疑問を口にするよりも早く、不作法に部屋の扉が蹴破られた。

 三人の女性が勢いよく部屋に現れる。そろって白い制服を身につけていた。


「オリヴィエ・アルウェイ様、リリー・リュディガー様、身柄を拘束させていただきます。どうか、抵抗しないように」

「いきなりだね、ここをどこだとわかった上での凶行かな?」

「もちろんです、リュディガー様。私たちは、王立魔術師団の一員です、あなたたちをジャレッド・マーフィー様の人質にさせていただきます」

「わたくしたちが、そんなことを言われて従うと思っているのかしら?」


 突然過ぎる状況下に置かれたオリヴィエだが、冷静さを失うことなく、事態を把握しようと努める。

 なぜ王立魔術師団が宮廷魔術師になろうというジャレッドに対して人質を取る行為をしなければならないのか理解に及ばないが、自分が婚約者の足を引っ張るわけにはいかないと気丈に相手を睨みつけた。


「従ってくださるとは思っていませんが、すでにハンネローネ・アルウェイ様と、メイドを一名、そして竜の少女を無効化しました」

「そう、わたくしたちが抵抗すれば、お母さまたちに危害を加えると?」

「そういうことです。ご理解をいただけましたなら、大人しく従ってください」


 オリヴィエだけではなく、リリーもそろって悔しげに唇を噛みしめた。

 まさか、こうも段取りよく屋敷を乗っ取られているとは予想していなかったのだ。

 家族が人質に囚われている以上、抵抗などできるはずがない。しかし、自分たちが捕まればジャレッドの人質になってしまう。そのことが口惜しい。


「いいわ、従うわ。だからお母さまたちには手をださないで」

「もちろんです。ご決断に感謝します」


 女性団員に腕を掴まれ、オリヴィエたちは部屋から食堂へ移動させられた。すでに母とトレーネが椅子に座らせられていたが、璃桜の姿がない。


「璃桜はどうしたの?」

「竜の姫君は抵抗しようと暴れましたので、竜用の結界に封じさせてもらいました。危害は与えていません。ただ、別の場所で眠ってもらっているだけです」

「そう……あの子にも手出しは無用よ、いいわね」

「はい。抵抗さえしなければ、こちらからはこれ以上なにもしません」


 オリヴィエとリリーは一度だけ目配せをすると、静かに席に着いた。

 団員たちの言葉など信じるに値しない。そもそも、いきなり現れ問答無用で屋敷を奪った人間を、なぜ信じられるのか。

 だが、希望がある。ジャレッドではない。彼は人質がいる以上、優しいゆえに戦えないだろう。しかし、彼の師であるアルメイダがこの場にいないことは、ある意味幸運だった。


 彼女がどこにいっているのか知らないが、いずれこの事態を知ったら駆けつけてくれるかもしれない。アルメイダだけではない、実家に戻っているイェニー・ダウム、用事があって出ているプファイルとローザ・ローエンもいる。

 頼らなければならないことは心苦しいが、今は他に選択肢はなかった。




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