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この度、公爵家の令嬢の婚約者となりました。しかし、噂では性格が悪く、十歳も年上です。  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
七章

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15.王都 新たな日常2. 兄との語らい1.




「はははははっ。まったく、お前のところは楽しそうでいいなぁ」

「楽しくない。つーか、慌ただしいって言いかえたほうが正しい」

「違いない」


 王都に流れる小河川を前に、ジャレッドはルザー・フィッシャーと釣り糸を垂らしていた。

 手紙でやりとりはしているが、最近お互いに時間が合わずこうして顔を見せるのは久しぶりだ。


「それで教えてほしいんだけどさ。どうオリヴィエさまに、リリーとエルネスタに温められたことを伝えればいいかな?」

「お前、一週間も時間があったのに何も言ってないのか?」


 呆れるルザーの視線を受けてジャレッドは天を仰ぐ。


「だって、どう言えばいんだよ。自慢じゃないけど、俺はオリヴィエさまに怒られるのは嫌なんだ!」

「情けないことを堂々と言うなよ……。別にやましくないんだから、命助けてもらいましたって言えよ。いつまでも黙っていたほうがまずいだろ」

「プファイルも口止めはしたけどいつまで黙っていてくれるか……わかった、今日屋敷に戻ったら言うよ」

「――死ぬなよ」

「ちょ――縁起でもないことを言うのはやめてくれよ!」


 ジャレッドにとってこんな会話ができる相手は少ない。

 かつて非合法施設で出会い助けてもらった。彼から戦う勇気を学んだ。友人ではなく兄弟として支え合った。その結果、今もこうして無事にいるのだ。

 ルザー・フィッシャーは大切な兄であり、恩人だ。対し、彼にとってジャレッドも大切な弟であり、恩人なのだ。


「そっちはどうなんだよ?」

「親父とは少しずつだけどうまくいっていると思う」


 ルザーはアルウェイ公爵に取り次いでもらい父のフィリップス子爵と再会を果たしていた。無論、母のロジーナも一緒に。

 父親は久方ぶりに会うことのできたルザーたちに、膝を着き謝罪したという。

大人が涙を流し、許しを請う姿に一度は殴ってやろうと考えていた息子から怒りがなくなったそうだ。


「よかったじゃないか」

「俺はともかく母さんは喜んでいた。全部、お前のおかげだ。俺を止めてくれて、救ってくれて――なによりも母さんを助けるという約束を果たしてくれてありがとう」

「改まって礼なんて言わないでくれよ。俺たち兄弟だろ」


 フィッシャー母子を苦しめた正室はいない。ロジーナの命を執拗に狙い、息子を非合法施設に売ったことが明るみに出ると正室は逮捕された。これにはアルウェイ公爵家と魔術師協会も関わっている。貴族だからと言い逃れができないよう、ジャレッドが頼み力を借りたのだ。

 その甲斐もあって二人はフィリップス子爵と関係を再構築している最中だ。

 いまだ姓こそ変わっていないが、近々フィリップス子爵の跡取りとして正式に認められると聞いている。もっともルザーにそのつもりがあるのかどうか疑問だが。


「ミアもよくしてもらっている。ただ――」

「なんだよ?」

「貴族の暮らしを知らないミアは世話をされるのが嫌らしくて……違うな、その、俺の世話をしたいらしくてメイドをしているんだ」

「甲斐甲斐しいことで、お幸せに」

「からかうな! 幸い、母さんは言うまでもなく親父もミアのことは反対してない。だけど、親戚連中が面倒でな」

「あー、そういうことか」


 ジャレッドはルザーだけではなく、彼の母ロジーナとも手紙のやりとりをしている。息子の近況はもちろん、ミアのことまで教えてくれる。

 彼女の手紙には、ルザーが消えてから親戚筋がフィリップス子爵家の跡取りになることで話が進んでいたそうだ。子爵は、フィッシャー母子を追いやった正室と子を成すつもりがなかったようで、正式な跡継ぎはいない。そこにルザーが帰ってきたのだから、跡取り候補だった者たちはおもしろくない。


 だからといって血縁は薄いのでどうこうできるはずもなく、力ずくでなにかをしようとすれば他ならぬルザーによって打倒されるだろう。すでに何度か暗殺――とまではいかないが脅しかけ逆に悪事を暴かれて牢に繋がれた者、縁を切られた者がることを知っている。

 ただし、そんな強硬手段を取るのはごくわずかであり、大半がルザーに娘を娶らせることで次期当主と血縁関係を築こうとしているのだ。それには彼を一途に思うミアが邪魔だった。


「正直な話、ルザーは今後どうするつもりなだ?」

「はっきり言えばフィリップス子爵家を継ぐ気はない。母さんのためにはそういたほうがいいのかもしれないと考えることはある、だけど――貴族のしがらみのせいで苦しんだ母をまた苦しめたくないし、同じ目にミアを遭わせたくない」

「そっか」


 気持ちは理解できる。宮廷魔術師になることが決まっていなかったとしても、ジャレッドもまた色々あったダウム男爵家を継ぐことはしないだろう。


「両親から好きにしろと言われている。同時に、簡単に答えを出すなとも」

「まだ若いからね。時間はあるんじゃないのかな?」

「俺よりも年下に若いとか言われたくない。まあ、その通りなんだけどな。いっそ、母上が親父と新しい子供でも作ればいいのさ。そうすれば俺は気兼ねなく自由にできる」


 夫婦仲までは知らないが、フィリップス子爵は今も変わらずロジーナを愛していると聞くので彼の願いもそのうち叶うかもしれない。


「貴族として特別なにかをしなくてもいいらしい。どうせ歴史なんてない子爵家だから貴族らしいしがらみもないから楽でいい。学校へ通うことも提案されたけど、それも性に合わないだろ」

「じゃあ働くのか?」

「俺はそのつもりでいる。ジャレッドと一緒に学生生活を送るのも悪くはないんだろうけど、最近のお前は忙しいみたいだからな。難しいだろう。そもそも王立学園に入学できるほど学もない」


 ルザーは釣り竿を持ったまま真剣な眼差しをジャレッドに向ける。


「お前は家人を集めるつもりはないのか?」

「なんだよ、急に家人の話なんて」

「真面目に聞いているんだよ。家人というか、貴族が抱える兵だ。今はまだ違うんだろうが、いずれ宮廷魔術師として伯爵位をもらうのなら可能だろ」

「おいおいまさか――俺にルザーを家人として雇えなんて言うじゃないだろうな?」 


 困惑を浮かべたジャレッドに、ルザーはにやりと笑った。




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