5.王都にて2.
一通りの荷物を運び終えると、オリヴィエは少しすっきりした顔をして庭を眺める。
近くにはローザが控えており、家人に敵意がある人間がいないか目を光らせてくれている。彼女のおかげで安心して作業に集中できた。
木陰ではハンネローネがイェニーとトレーネ、そして璃桜と一緒にお茶の支度をしている。エミーリアをもっとも歓迎している母の姿は、目に見えて喜んでいるのだとわかる。
「ねえ、オリヴィエちゃん」
「アルメイダさま、どうかなさいましたか?」
「そちらの子があなたの妹なのね。お疲れのところ悪いけれど、紹介してくれるかしら?」
気づけばすぐ隣にいた桃色の髪を短く切りそろえ、フリルのあしらわれたかわいらしい衣服を身につけ、同色の日傘を差すアルメイダ・ムウラウフがにこりと笑みを浮かべて訪ねてくる。
エミーリアが屋敷に住まうことを伝えても、紹介をしていなかったことを思いだす。母たちはすでに知っていたのだが、アルメイダや璃桜はまだだ。
「申し訳ございません。最初にご紹介するべきでした」
「いいのよ。一通りの片づけが済んだら声をかけようと思っていたのだけど……あなたの妹さんに少し気になるところがあって」
「妹がどうかしましたか?」
「ううん、でもそばで見て気のせいだったわ。よければ、せっかくだからご挨拶してもいいかしら?」
「もちろんです」
彼女の言葉を少し気になりはしたが、気のせいだと言われてしまうと追及はできない。
気を取り直して妹を婚約者の師に紹介する。
「エミーリア、こちらはアルメイダさまよ。ジャレッドの師匠になる方だわ」
「え?」
「ふふっ、よろしくね」
「アルメイダさま、こちらは妹のエミーリア・アルウェイです。本日より一緒に生活をします」
「ど、どうぞ、よろしくお願いします」
姉からアルメイダを紹介されたエミーリアは目を丸くするも、すぐに慌てて挨拶をする。
「もっと気楽にしてね。それにしても、私を見ると誰もが驚くのよねぇ。見た目が若いせいかしら」
明らかにジャレッドの師と聞かされ信じられない様子のエミーリアがおもしろかったのか、くすくすと鈴を転がすようにアルメイダが笑う。
見た目だけなら十代半ば、いや、下手をすればもっと幼く見られてしまうだろう。
幼さを残すかわいらしい外見から、とてもじゃないが宮廷魔術師に選ばれたジャレッドの師を務めることができるとはエミーリアの目には映らないゆえに驚きも大きい。
ここにはいないジャレッドも、師匠の正確な年齢を知っているわけではない。
「年齢は秘密だけどあなたたちよりもずっと長生きなのよ。ジャレッドと約束しているから、なにかあったら頼ってね。守ってあげるわ――物理的にね」
「よ、よろしくお願い致します、アルメイダさま」
かわいらしい容姿でほほ笑むも口では物騒なことを言うアルメイダに、顔を引き攣らせながらも礼をするエミーリア。
満足そうにうなずく桃色の少女を目にし、挨拶が無事に交わされたことを安心するオリヴィエだった。
アルメイダに一礼すると、お茶の支度を手伝おうと母のもとにかけていく妹を見送ると、
「あのね、オリヴィエちゃん」
不意に思い出したようにアルメイダが声をかけられた。
「以前、私が色々言ったせいであなたがもし気にしていたらごめんなさい。私は感謝しているのよ」
「アルメイダさま?」
「だって嬉しいの。戦う目的がなかったあの子にようやく守りたい人ができたの。それはあなたよ。あなたと出会い、あなたの家族と友達。私の知らないうちに大切なものがたくさん増えていたのね」
少し寂しげに見えるのはおそらくオリヴィエの気にせいではない。
「魔術師であろうとなかろうと、守りたいという意思はなによりも強いと信じているわ。だから、あなたのおかげでジャレッドは短い間で強くなれたわ。困難にも立ち向かおうとしている。すごく誇らしいの。全部、あなたのおかげね」
「わたくしは、いつも守ってもらうばかりです」
「今はそれでいいのよ。でも、あなたはきっとそれだけでは終わらないわ。そう思うの。違う?」
「わたくしは、守られてばかりではなく、彼を支えたいと思っています」
先ほどエミーリアに言ったように、妻となるのなら守ってもらうばかりでは駄目だ。夫を支えることができてこそ、はじめて妻だと名乗れるのだとオリヴィエ考えている。ただ甘えるだけの存在には、守られるだけの弱い存在にはなりたくない。
「そう考えてくれることが大事だと思うわ。だからね、あなたは自信を持ってジャレッド婚約者を、いずれは妻を名乗りなさい。この私が、ジャレッドの師である、このアルメイダ・ムウラウフが許すわ」
一度はジャレッドの未来を狭めたことを指摘された彼女に、認められたと思うと涙が溢れそうになる。
彼女はジャレッドの師であると同時に、母であり姉でもある。ある意味、姑と呼べる存在だ。
そのアルメイダが認めただけではなく感謝してくれたのだ。嬉しくないはずがない。
「アルメイダさま……ありがとうございます」
「出会ったときからあなたたちをずっと見ていたの。もうジャレッドをあなたに任せても大丈夫って思えたから、お礼を言うのはこっちよ。私の、大切なジャレッドを幸せにしてあげてね」
涙ぐむオリヴィエをアルメイダは力強く抱きしめる。
彼女の体温を感じなら、ここにはいないジャレッドと会いたくなったオリヴィエだった。
活動報告にて大事なお知らせがあります。




