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この度、公爵家の令嬢の婚約者となりました。しかし、噂では性格が悪く、十歳も年上です。  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
七章

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2.リュディガー公爵領での日々2. プファイルの怒り.




「プファイル殿がエルネスタ殿を抱えて現れたときには慌てたが、大事にならずよかった」


 執務室に戻ったフーゴ、ジャレッド、そしてプファイルはそれぞれソファーに腰を降ろしていた。

 エルネスタの無事に胸を撫でおろしていたジャレッドが、公爵へ問う。


「公爵はプファイルのことをご存知だったのですか?」

「言いそびれていてすまなかったな。実は、プファイル殿は我々が正統魔術師軍と鉢合わせた日の夕方にリュディガー公爵領に現れたのだ。ジャレッド殿を捜していたようだったのでこちらかは声をかけさせてもらった」


 聞けば、他ならぬジャレッドが目を覚まさない状況であったため、伝えることができなかったという。

 プファイルの方もジャレッドが目を覚ますまでリュディガー公爵領にいることを決めていたそうで、ならば屋敷に滞在したらどうかと公爵自ら提案したそうだ。

 豪胆すぎるフーゴに乾いた笑いしかでてこない。


「オリヴィエがお前のことを案じていたので様子を見にきたのだ。屋敷の守りはローザとアルメイダ殿が任せてもいいと言ってくれたので、頼ることにした」

「……悪い」

「まったくだ。あまり婚約者に心配をかけるな」


 窘められてしまい、目を伏せる。

 まさかオリヴィエがプファイルを寄こすほど自分のことを心配してくれていたとはつゆ知らず、申し訳なさを覚える。

 あの気丈な婚約者が、笑顔で見送ってくれた彼女が、どれだけの不安を胸に抱いていたのは察することすらできない。


「オリヴィエには私から連絡を入れておいた。だが、リュディガー公爵家からのほうが早かったようだ。問題はお前の安否を正確に把握したかったのだが――」

「屋敷を伺っている彼に偶然気づいてね。ヴァールトイフェルの一員だと知ったときは驚いたが、ジャレッド殿たちと一緒に暮らしていると聞き、さらに驚かされたよ」

「驚くだけで済んだことが幸いでした」


 屋敷を覗いていた人間に声をかけたのも凄いが、ヴァールトイフェルの人間と知ってもなお驚くだけで済ませてしまったフーゴに呆れが混ざった笑みを浮かべるほかない。

 人を見抜くことに長けているのか、それとも後先考えないのか。

 暗殺者と知り屋敷へ滞在させようとする人間はそうそういないだろう。もっとも、他ならぬジャレッドとオリヴィエもまた、命を狙い、殺し合いをした相手を屋敷に住まわせているのだからフーゴと同じ人種なのかもしれない。


「まあ、人手がほしかったということもあり、俺の屋敷に滞在してもらうこと対価に食人鬼の打ちもらしがないか見て回ってもらっていた。ジャレッド殿に強力な助っ人がいると言っただろう? あの話はプファイル殿ことだったのだ」

「予想さえできませんでした。今も、驚きが隠せません」


 プファイルの登場ではなく、フーゴの豪胆さに、だ。

 しかし、彼らのおかげで外で倒れていたエルネスタが見つけられたのだが、なにが起こるかわかならないものだと思う。


「さて、思わぬ事態となったが、エルネスタ殿にはリリーがついているから心配ないだろう。なにかあれば――無論、ないほうがいいが、呼びにこいと言ってある。俺たちにできることはないので、休むとしよう」

「……そう、かもしれませんが」

「休め、ジャレッド殿。まだお前は病み上がりだ。なによりも、自分のせいで無理をさせたと知れば、あとでエルネスタ殿が自分を責める。わかったな?」

「はい」


 そう言われてしまうと、頷く他なかった。

 まだ少しだけやり残したことがあると言うフーゴを残し、ジャレッドとプファイルは彼に挨拶して部屋をあとにした。

 廊下を歩きながら、隣りに並ぶプファイルに声をかける。


「まさかお前がきてくれるとは思っていなかったよ。お前にも心配かけたな」

「ジャレッド」


 足を止め、水色の前髪から覗く鋭い眼光を向けるプファイルにジャレッドも足を止めた。

 彼の瞳に、燃えるような感情が宿っていることに気づき、思わず身を固くする。


「貴様、正統魔術師軍に遅れを取ったそうだな?」

「ああ、やられたよ」

「何度も言っているが、改めて言おう――貴様を倒すのは、この私だ。二度と敗北することは許さん」

「……肝に銘じておくよ」


 声こそ荒らげることはしないが、怒りの感情が伝わってきた。同時に、心配してもくれているのだとわかり、表にはださないが嬉しくなる。


「そうしろ。正統魔術師軍に気を配っておけ。奴らは、ワハシュが直接追っている敵でもある。貴様を倒した実力者がいることから、ただの愚か者の集団ではないはずだ」

「ワハシュが?」


 まさかヴァールトイフェルの長が自ら正統魔術師軍を追っているとは思ってもいなかった。


「理由は?」

「詳細は知らない。問うこともしないが、ヴァールトイフェルの敵であることは間違いない。ならば、私たちがするべきことは、正統魔術師軍に属する人間を全て見つけだし平等に死を与えることだ」


 久しぶりに見せた、ヴァールトイフェルの後継者のひとりであるプファイルの冷徹な顔に背筋が冷たくなる。

 彼は間違いなく、正統魔術師軍を見つければ言葉通りに射殺していくだろう。


「……おい、公爵家で殺気立つな」

「ふん。貴様が無様に敗北するから悪いのだ。どうやら強者と戦う運命にあるのかもしれないが、必ずと言っていいほど苦戦するのが貴様の悪癖だ」

「わかってるよ」

「ならば二度と敗北するな。死んでいないだけで、死んでいてもおかしくないのだからな。貴様は――オリヴィエ・アルウェイを悲しませたいのか?」

「――っ、言ってくれるじゃねえか」

「私くらいしかお前に忠告する人間はいないだろう。婚約者が大事なら、相手を殺してでも生き延びろ。お前にはそうする義務がある」


 プファイルの言葉を受けたジャレッドは、王都にいるオリヴィエを想う。


――オリヴィエさまは、今どんな想いで王都にいるのかな?


 心配ばかりかけていることに胸が痛くなる。

 忠告されたからだけではなく、婚約者に今以上の心配をかけないためにも――、


「俺はもう二度と負けない」


 そう誓うのだ。


「ふっ――だが、私が倒すのでその誓いは叶わないがな」

「……お前、水を差すんじゃねえよ!」


 今、生きながらえていることに感謝して、二度と敵に遅れを取ることがないようにジャレッドはひとつの決意をするのだった。




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