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この度、公爵家の令嬢の婚約者となりました。しかし、噂では性格が悪く、十歳も年上です。  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
六章

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19.魔術師たちの暗躍.




 小さな窓しかない埃の匂いが鼻につく一室に、複数名の人間が集まっていた。

 それぞれがローブを頭からかぶり、杖などを手に持つ姿から魔術師だとわかる。

 決して広くない部屋の中で、机を囲み輪となっている魔術師たち。静寂が保たれていたが、ひとりが口を開いたことにより、議題がはじまった。


「例の女ですが、まさかジャレッド・マーフィーの秘書官に応募しているとは思わなかったな」

「申し訳ありません。監視はしていたのですが、彼女も相当の使い手ゆえ、必要以上に近づけば気づかれてしまう恐れがありました」


 白いローブを身に纏う魔術師の言葉に、紫色のローブを魔術師が謝罪する。双方声から男性だと判断できた。


「構わない。だが、想定外ではあった。まさか兄の仇に近づくとは、復讐か?」

「探らせてみましょう」

「頼む。あのバルナバス・カイフを兄に持つ彼女ならば、私たちの同志に相応しいと思っていた。ゆえに、追い込んだ。残念なことに、一族のほうは忌々しい宮廷魔術師によって守られてしまったが、彼女だけは依然立場が悪いまま。もう少し追い込みたかった」

「しかし、あまり追い詰めますと同志として迎える前に壊れていた可能性があります。今までにも何人か追い詰め過ぎた結果、去った者もいました」

「その程度の魔術師に用はない。魔術師とは、ただ強いだけではなく、心も、あり方もすべて強者でなければならないのだ。私たちのように」


 男の声に魔術師たちが同調する。


「とはいえ、エルネスタ・カイフがジャレッド・マーフィーに与してしまうのはおもしろくありませんな。同士として迎えるならいざ知らず、あの少年につかれてしまうといささか面倒なことになるのでは?」

「違いない。あ奴はアルウェイ公爵家と懇意であり、王家からの覚えもいい。魔術師協会も奴に期待している。最近では、リュディガー公爵も奴に娘を嫁がせようとしていると聞く」

「信じられん! 仮にも魔術師が、魔力なしどもに媚びへつらっているというのかっ!」


 ざわめきが始まり、口々にジャレッドに関する情報が飛びかっていく。

 中には嘘としか思えないものもあったが、彼らにとってはジャレッドが同志ではなく、今後も同志になることはありえないと結論されていた。


「我々が目をつけていたヘリング家の長男も彼の友人となった。最近では、トレス・ブラウエルとアデリナ・ビショフとも懇意だと聞く。おのれ――我々がバルナバスに情報を与え、行動を起こすよう手助けしたにも関わらず、失敗したのはジャレッド・マーフィーのせいだ!」

「トレス、アデリナ両名は王族派です。間違いなくジャレッドも宮廷魔術師となればすぐに王家に取り込まれるでしょう」

「そのようなこと、公爵家の娘を嫁にもらうのだ、決まっていたことではないか。公爵家は王家の血筋だ。必然とあの男が王家に下るのはわかっていたことだ」

「そうとも。思えば、奴の母親リズ・マーフィーもそうだった。我らのことなど塵でも見るようだったが、それ以上に息子は許せん」

「どうする、殺すか?」


 その短い言葉に、誰もが声を止めた。

 静寂が戻る。

 誰かが唾を飲み込む音が聞こえるほど、痛々しい静けさだ。


「恐れるのはわかる。あのバルナバス・カイフを殺しただけでは飽き足らず、石化という古代魔術を使ったのだ。戦えばこちらの犠牲も考えなければならない。しかし、案ずるな。勝てない相手ではない」

「おおっ、さすが盟主どの!」


 盟主と呼ばれた白いローブの男が、静寂を破り、続けた。


「あの少年が宮廷魔術師となり影響力を持つ前に殺してしまおう。彼はあまりにも魔術を冒涜している」

「まったくですな。あれほどの魔術の才能を持ちながら、やっていることはまるで公爵家の傭兵だ」

「魔術を道具として扱う手段にも、魔術師しての誇りが感じられませんな」

「いかにも。彼がどれだけ優れていようとも、魔術師が魔術師らしく生きられないのならば、いくら古代魔術を使えようと生きている資格はない」


 盟主の言葉に、魔術師たちが次々と賛同していった。


「我々魔術師は選ばれた存在だ。魔力を有し、魔術という御業を使うことができる、進化した人間だ。だが、今の社会では我らは希少性の高い道具のように扱われる。貴族たちの見栄に利用される。王家に戦争の道具として使い潰される――もう許す、許せないの話ではないっ」


 杖で床を力強く打つ。

 耳が痛くなる音が木霊するも、誰からも抗議の声はあがらない。

 盟主の言葉に誰もが頷き、賛同しているのだ。


「魔力を持たない貴族など不必要だ。魔術師ではない王家が我が物顔で国を支配しているのももう終わりにしよう」

「おおっ――ではついに?」

「この国は我々魔術師が率いるべきだ」


 盟主の宣言に、ひとり、またひとりと賛同の声と拍手が鳴る。

 中には涙さえ流している者までいた。


「時間はかかるが、確実にことを進めていこう。まずはエルネスタ・カイフをはじめ、同志を集めること、そしてジャレッド・マーフィーを殺すことで我らの存在を知らしめよう――すべては我々魔術師の栄光のために」

「――すべては我々魔術師の栄光のためにっ!」



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