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この度、公爵家の令嬢の婚約者となりました。しかし、噂では性格が悪く、十歳も年上です。  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
六章

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9.公爵家へ1. アネットたちの末路.




 ジャレッドとオリヴィエは、トビアスとコンラートの来訪の翌日、アルウェイ公爵家にいた。すでに時間は昼を過ぎているが、急に押しかけても迷惑だと考え、手紙だけ送りこの時間にしたのだ。


「待っていたよ、オリヴィエ、ジャレッド。よくきてくれた」


 出迎えてくれたのは公爵自身だった。


「コンラートのことは正直驚いてしまった。私も頭を悩ませてしまっているよ」


 苦笑いしてみせるハーラルトに、ジャレッドたちも曖昧な笑みを浮かべることしかできない。なにせコンラートの想い人が想い人なのだ。応援してあげたいが、彼にも立場があるし、なによりもヴァールトイフェルの長ワハシュの娘と結婚することは難しいはずだ。


「さあ、外は暑い。屋敷の中へいこう。冷たいお茶も用意してある」


 そう促されてジャレッドたちは屋敷の中に。

 初めて通された応接室の中は涼しかった。季節によって人を招く場所を変えているようだ。日当たりこそよくないが代わりに涼しい。夏にはちょうどいい。

 すぐに飲み物が運ばれてくると、公爵が口を開いた。


「コンラートのことも話をしたいのだが、その前に――先日の一件は本当に大変だったと思う。改めて大人の事情に巻き込んでしまったことを謝罪するよ」

「いいえ、結果としてアネットを裁くことができたので感謝しています」

「そう言ってくれると助ける。ところで、アネット・パッジがその後どうなったのか聞いたかな?」

「いえ、存じません」


 投獄されたことは知っているが、その後のことは知らない。もう興味もない。死ぬまで苦しみ、朽ち果ててくれればそれでよかった。


「君に伝えるべきか迷ったのだが、いずれ耳にするかもしれないので教えておこうと思う。アネットが獄中で自殺を図った」

「――っ。そう、ですか」

「壁に頭を打ちつけ、手首を噛み、とにかく死にたかったらしい。致命傷にこそなっていないがもう何度か繰り返しているようだ」


 言うまでもなく獄中生活が耐えられなかったのだろう。あの女のことだから己の罪を悔いて、ということはないはずだ。

 母を自殺させた元凶が自殺しようとするなど滑稽だった。そのまま壊れてしまえ、と願わずにはいられない。

 ただ、少しだけ――クレールとレックスのことを思うと、胸が痛くなった。


「大丈夫?」

「ええ、問題ありませんよ。心配してくださってありがとうございます、オリヴィエさま」

「すまない、言うべきではなかったかな?」

「訊くことができてよかったです。あの女が確実に罪を償っているのだと知ることができました」


 あくまでも気にしていないと伝えると、二人に安心の表情が浮かぶ。

 だが、ハーラルトは気まずそうな顔になってしまう。


「言いにくいこともあるのだよ。今回の自殺未遂のせいで、アネットの母親から嘆願が届いたらしい。罰は受ける、監禁もするから牢からだしてくれ、と」

「お父さま、まさか……」

「訴えは叶わないから安心しなさい。元宮廷魔術師リズ・マーフィー殿の死に関わり、公爵家、男爵家を陥れようと加担していたのだ、嘆願するのは自由だが無意味だ」


 オリヴィエは父の言葉を受けて目に見えてほっとする。


「万が一ではあるが、ジャレッドに接触してくる可能性もないわけではないから気をつけてほしい。リズ殿の息子である君が、許すと言ってしまえば話は複雑になってしまうし、考慮されてしまう場合もある」

「そんなことはしません。もっと早い段階であの女が罪を償おうとしていれば違ったかもしれませんが、今はもう遅すぎます」


 義母カリーナ・ダウムのように母リズに対し長い間罪悪感を抱き、償おうとしていたのなら話は別だ。しかしアネットは最後の最後まで自分は悪くないと言い続けていた。牢に入れられて自殺を図ったからと許せなどと言われても許せるはずがない。

 アネットが死んで、初めて許すべきかどうか一考するくらいだ。


 そもそもアネットが許しを請うのならまだしも、彼女の家族から嘆願されてもジャレッドの心が動くことはないだろう。たとえ、クレールとレックスに頼まれても無理だ。

 母の死を早めた原因であり、父と義母、弟を含めオリヴィエまで殺そうとしたのだ。どうすれば許せるというのだろうか。


「お願いがあります」

「言ってみなさい」

「アネットの母親に伝えてください。俺の目の前に現れて、もしも娘の許しを請うようなことをしたら――自制できるかわからない、と」

「――っ、わかった。必ず伝えると約束しよう」

「感謝します」


 礼を言うジャレッドに、公爵は続ける。

 リスナー侯爵とパッジ子爵の刑の執行が一週間後に決まったという。侯爵は敗北を認めておとなしくしているらしいのだが、子爵はどうにか助かりたいと狂ったように騒いでいるとのことだ。

 命を奪おうとしておきながら、自分の命は守りたいのだから呆れる。まだ潔いリスナー侯爵のほうがマシだ。

 取り潰しとなった両家からも接触がある可能性があるから気をつけるよう言われるも、アネット同様にジャレッドはなにもするつもりはない。


「呆れるわね。向こうが勝者なら、わたくしは死んでいたし、公爵家もただではすまなかったのに」


 同感だ。敗者になったから後悔し、助けを請い、家族もそれに習うが、立場が逆であったら陥れた人間を気にもとめないはずだ。

 これだから貴族は嫌いだ。すべての貴族が悪人ではないと知っているが、やはり貴族と名のつく人間は、傲慢であると思わずにはいられない。

 貴族社会から逃れられなくなったジャレッドは、絶対に自分は同じようにならないと誓うのだった。



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