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この度、公爵家の令嬢の婚約者となりました。しかし、噂では性格が悪く、十歳も年上です。  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
六章

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7.トビアス来訪とコンラートの初恋2. 告白.




 ――コンラート・アルウェイは語る。

 屋敷で魔術の訓練をしていた自分と、見守ってくれていた母に向かい殺意ある敵が現れた。醜く火傷した女は、コンラートを殺そうと襲いかかる。

立ち向かう勇気も、逃げだすことさえもできず、ただ怯え、尻餅をつくか弱く情けない自分に生を諦める暇さえ与えてくれず、焼けた女が刀を振り下ろす。


 しかし、コンラートを傷つけることはなかった。

 なぜなら――燃えるような赤い髪、同色の戦闘衣を身に纏った女性が守ってくれたからだった。

 赤毛の女性は炎の刃を一閃し――襲撃者を驚くほど容易く両断した。上半身と下半身が宙に舞い、燃えた。それだけでは飽き足らず、肉片ひとつ残さず灰となったのだ。

 これが魔術か、これが炎属性の魔術なのか。コンラートには想像もできない領域に女性は立っていたのだ。


 まるで炎が女性となったと思えるような彼女に魅了された。振り返った彼女が安堵の笑みを浮かべると、今まで一度たりとも感じたことのない胸の高鳴りを覚えてしまう。頬が、いや、体中が熱くなり、心臓が破裂してしまうほど鼓動がうるさい。

 感謝の言葉を伝え、名を尋ねると彼女は、


「ローザ・ローエン」


 そう名乗ってくれた。そして、姉の婚約者であり、兄と慕うジャレッドの仲間だと言う。


「――ですから、僕はローザさまにもう一度お会いしたいんです! お願いします、ジャレッドお兄さま!」

「……うわぁ」


 ジャレッドは、コンラートの話を聞き終えて、なんとも言えない表情をした。

 よく見ればジャレッドだけではない。オリヴィエも、イェニーも、そしてトレーネまでもが驚きと、それ以上に「どうしよう」とばかりに困った顔をしている。

 ハンネローネは「あらあら、初恋なんて懐かしいわ」とコンラートを微笑ましく見守り、ローザのことを知らないトビアスは、なぜか冷や汗をかいている。


 ――どうすればいいんだっ!


 助けを求めるように視線を巡らすと、オリヴィエと目があう。


「オリヴィエさま……どうしましょう?」

「わたくしに聞かないでっ! そもそもローザに恋人はいるのかどうかも知らないの?」

「さあ?」

「あなたの叔母でしょう!」

「そ、それは無茶苦茶ですよぉ」


 確かにローザはジャレッドの叔母にあたる。年は二歳くらいしか離れていないが、母の妹なので立派な叔母だ。あまり叔母だ、叔母というと怒りだすので、最近は口にしないが、事実である。

 とはいえ、彼女との出会いはローザがコルネリア・アルウェイに雇われたヴァールトイフェルの一員という敵としてだ。イェニーを攫い、一方的に攻撃を受けた関係でもある。

 縁というものは不思議で、その後共闘することにもなり、現在に至っては同じ屋敷で生活を共にしているのだから驚きだ。

 出会ったとき、こんな関係になるとは思ってもいなかった。


「そうだ、イェニーは知ってる?」


 なにかとローザと仲がいい従姉妹に尋ねてみるも、すまなそうに首を横に振られてしまう。


「すみません、お兄さま。わたくしとローザは会話こそ多いですが、恋愛に関して話したことはないのです」

「謝らなくていいから。でも、どうしようか……」


 すがるような目でこちらを見ているコンラートに、ジャレッドは本当に困っていた。

 二人をくっつけようとは思わない。公爵家とヴァールトイフェルの長の娘では問題があるかもしれないので勝手なことはできないのだ。

 だからといって、兄と慕ってくれる彼の願いを無下にもできない。


「あの、プファイルさんに聞いてみたらどうですか?」

「ああっ、そうだな! ――おいっ、プファイル!」


 イェニーの助言に従い、プファイルの名を呼ぶ。すると、一拍もおかずに応接室の扉が開かれる。

 いつも思うが、ヴァールトイフェルの面々は行動が早すぎる。


「話はどうせ聞こえていたんだろ?」

「無論。ローザに恋心を抱くとは――コンラート・アルウェイ、あなたは難儀な人だ」


 なぜか同情するような声音のプファイルに、コンラートは恐る恐る問う。


「あの、あなたは?」

「失礼した。私はプファイル。ローザの同僚だ」

「ローザさまの……」

「私の知る限り、ローザに恋人も決められた相手もいない。これで満足か?」

「はい! ありがとうございます!」


 想い人に特定の恋人がいないことを知り、安堵を浮かべるコンラートだったが、ジャレッドたちはより困ることになる。


「おいっ、プファイル! こっちにこい!」

「なんだ?」

「いいからっ!」


 彼の細い腕を掴み、応接室の窓際に移動する。


「お前、どういうつもりだよ。ローザとコンラートさまをくっつけるつもりか?」

「ただ質問されたから答えただけだ。だが、確かに考えてみれば公爵家の息子が我らヴァールトイフェルの暗殺者を妻に迎えるには少々まずいな」

「いや、少々じゃないから」


 ジャレッドの母もヴァールトイフェルの長ワハシュの娘である以上、ローザと立場は同じだが、結婚したヨハン・ダウムは男爵家の人間だ。公爵家とは違う。

 もちろん、ジャレッドだってコンラートの恋心を壊したいわけではない。爵位を継ぐことはないと本人と彼の母テレーゼからも聞いているので、もしかしたらローザさえ色よい返事をすれば結婚は可能なのかもしれない。


 しかし、ローザの気持ちもある。コンラートの両親の考えだってあるのだ。とてもじゃないが、この場でジャレッドたちが勝手になにかを判断していいはずがない。

 強いて言うならアルウェイ公爵家長男であるトビアスがなにかしらの考えを口にしてくれればいいのだが、ちらりと彼を見ると――脂汗を流して蒼白となっている。

 彼にも対応しかねる事態なのだろう。


「ジャレッド、困っているのはわかるが――もう時間がないぞ」

「どういうことだよ?」

「ローザが帰ってきた」

「――げ」


 意識がこの場に集中し過ぎてしまいローザの帰宅に気づかなかったジャレッドが慌てるよりも早く、


「ここにいたのか。今帰ったのだが――来客中か?」


 フリルをあしらった制服に身を包んだ、燃えるような赤毛の女性ローザ・ローエンが、職場から帰宅したのだった。


「ローザさま!」

「うん? ああ、お前は確か、コンラート・アルウェイだったな」


 想い人の登場にコンラートは歓喜の声をあげた。

 ローザもまさかコンラートが自分に想いを寄せており、ジャレッドたちに相談していたなどつゆ知らず、挨拶をする。

 ジャレッドを含め誰もがはらはらと見守る中、


「ローザさま、先日は僕のことを助けてくださりどうもありがとうございました」

「なんだ、そんなことか。あのとき礼を言われている。気にすることはない。恐ろしい経験をしたのだ、すべて忘れてしまったほうがいい」

「いいえ、できません! 僕は、ローザさまのことがずっと忘れられなかったです」

「うん?」


 まずい、とジャレッドが思ったときには遅かった。

 コンラートはローザを手を取ると、彼女の前に膝をつく。そして――、


「ローザ・ローエンさま、僕と結婚を前提におつきあいしてください」


 告白したのだった。



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