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21.魔術師協会からの依頼 竜種退治……? 4.




 当初、ジーモンと戻ってきたジャレッドたちを警戒していた住民たちだったが、町長自ら説明してくれたおかげもあって竜種に近づくことが許された。

 予想以上に竜種は重症だった。出血も多く、放置していれば危険だとひと目でわかる。住民たちがなんとか血を止めようと努力していなければ息絶えていた可能性だってあったはずだ。

 竜種に「頑張れ」と声をかけ続けた子供たちがジャレッドたちに気付いて、助けてくださいと頭を下げた。

 心から竜種を案じている子供たちを見て、治療するという選択肢をとってよかったと心底思う。もしも、ここで退治することを選んでいれば一生恨まれていただろう。


「……僕が想像していたよりも鱗が固い。だが、傷を縫わなければ危険だ」

「地竜は空を飛べない代わりに、体が他の竜種よりも固いと聞いたことがある。飛竜と比べても違うだろうけど、飛竜はもっと柔らかった」

「ならどうする?」

「こうするさ」


 ジャレッドは魔力を練ると、地精霊に干渉する。精霊たちは魔力を糧にすることで力を貸してくれるのだ。精霊が精霊を呼び、ジャレッドの周囲が淡く光るほど集まってくる。

 魔力が大きければ大きいほど精霊を呼ぶことができるのだ。

 普段は視認できない精霊たちも、魔力を得て力を貸そうとすることで淡く発光する場合があるが、術者の魔力量に左右される。

 つまり、ジャレッドが今開放している魔力が相当大きいことを指す。


「――でたらめな魔力量だ。これでは、もう嫉妬もできない」


 呆れたように言い放ったラウレンツに対し、住民たちは驚きと不安のどよめきをあげている。

 竜種は地竜だけあって地精霊に気付いたのだろう。警戒もややしているが、敵意がないことが伝わったのか暴れる気配はない。信頼している住民たちが見えるところにいることも理由だろうが、精霊からジャレッドたちを安全だと悟ったのかもしれない。

 竜種は人間や魔獣よりも、精霊に近い。ゆえに、竜種を研究する魔術師が、竜種は精霊と対話ができると発表していた。

 竜種が使う強力な魔術は精霊と対話によるものであり、意思疎通ができるため、詠唱もなにも必要とせず、ただ魔力を与えるだけで使うことができるのだと推測されている。

 ジャレッドには真実がわからないが、少しでも信用してくれるならそれでいい。

 腹部から背にかけてざっくり切り裂かれいまだに血を流し続ける竜種が暴れでもしたら、それこそ生命に関わってしまう。


「精霊たちよ、我に力を貸し与えたまえ――」


 短い詠唱に精霊たちが答える。

 精霊たちはジャレッドの望む通りに力を貸してくれた。

 パキパキと音を立てて現れたのは黒曜石の槍。ジャレッドが頻繁に使う魔術のひとつだが、今回はその簡易版だ。

 普段なら二メートルの槍を数多に精製し、自らが振るうか、放つなどして攻撃するのだが、今回は違う。

 片手に収まるサイズで、太さも親指程度しかない。だが、強度は竜種の鱗を貫けるほどある。

 精霊たちに干渉して、普段精製する槍を凝縮してもらったのだ。ゆえに強度は抜群だ。ご丁寧に糸を通す穴まである。

 鋼でもよかったのだが、地竜は草や石を糧にしていると知識で知っていたので、万が一折れたり砕けたりした場合を考えて極力害のないものを選んだ。

 正直言えば、黒曜石の槍か鋼の槍の二択しかないので、自然と黒曜石の槍を選ぶしかなかった。

 もっと気の利いたものを精製すればいいのだが、今はその余裕がない。普段使い慣れているものが一番だと判断したのだ。


「ラウレンツ、土人形を何体呼び出せる?」

「余力を残しておきたいから五体が限界だ」

「さすがだな。五体呼びだして、竜種の体を抑えてくれ。きっと暴れるから」

「麻酔なしで縫うならしかたがない。それに、子供らしいからな。僕だって麻酔なしで体を縫われたら間違いなく暴れる」

「俺たち酷いよなぁ」


 だが、竜種に通用する麻酔など知らないし、あってもすぐに用意ができない。

 住民たちに竜種が痛みで暴れることを伝え離れていてもらう。五メートルを超える巨体を持つ地竜が暴れればどうなるか想像できない。

 子供とはいえ竜種は竜種なのだから。


「どうやって縫うつもりだ?」

「糸の代わりに植物を使う。地竜の住処に生える餌にもなっている頑丈なのがちょうどあるんだ」

「それもそうだが、僕が聞きたいのはジャレッドが直接縫うのかってことを聞いているだが……」

「それしかないだろ。正直、竜種の治療なんてできないけど、見るかぎり臓器に傷がないから、出血さえ止めればいい。焼いてもいいんだが、それだとダメージが大きくなるから――手縫いだ」


 問題は竜種の鱗を貫けても、ジャレッド自身の力がどこまで通用するかが重要だった。

 竜種には申し訳ないが、やってみるしかない。

 糸代わりにする植物を発芽させながらジャレッドは竜種の眼前に移動する。


「言葉が通じるみたいだから説明するけど、今からお前の傷を縫う。針代わりに黒曜石の槍を、糸代わりにお前もよく知っている植物を使う」


 本当に理解できるのか不安だが、いきなりやるよりはマシだと思って説明を続けていく。


「血を止めるために傷を縫うけど、かなり痛むぞ。だけど、我慢しろ。お前がオスかメスかわからないし、子供に無理を言っているのは自覚しているけど、耐えろ。俺の友達がお前が暴れられないように抑えるけど、限界だってある。万が一、お前が好きなみんなが怪我したら嫌だろ?」


 頷くことはなかったが、小さく唸り声が返ってくる。


「返事をしたと判断したからな。できるだけ、時間をかけずにやるつもりだ。だから我慢してくれ」


 再び唸り声が聞こえる。

 ジーモンが言った通り、本当に人語が理解できるのだとジャレッドは驚いた。状況が状況でなければもっと会話をしてみたかったが、元気になればできるはずだと信じる。


「頑張れよ」


 そう言って頭を撫でると、ゴツゴツとした手触りが心地よかった。

 再び傷口に向かうジャレッドは、まず確認作業から行う。地竜なので傷口に土が入っても平気かもしれないが、確証がないので綺麗にしなければと思ったのだが、住人たちがタオルで覆ってくれていたおかげか汚れはない。


「ラウレンツ、頼む」

「任せろ! ――いでよ、僕のかわいい土人形たちよ!」


 ラウレンツの体内で魔力が練られた魔力が地面に流れ込み、一体、また一体と土人形が現れていく。三メートルほどの土人形が五体、竜種を取り囲むように並ぶと、住民たちから驚きの声があがる。

 数百年前には土人形のさらに上位である自立した意識を持つ「ゴーレム」を召喚する魔術もあったらしいが、現代ではその方法は行方知れずだ。地属性魔術師の多くは「ゴーレム」を復活させることを夢見ているため、似た魔術である土人形を操ることに力を入れるのだ。

 土人形は術者との間に魔力の糸を繋ぐことで、操ることができるのだが、その間術者が棒立ちとなる弱点もあるため戦場では多用されない。しかし、ラウレンツのように五体同時で操ることができる魔術師なら、一体二体を召喚しても動くことはできる。だが、それはラウレンツに地属性魔術師としての才能があるからだ。


「準備はできたぞ、いつでもいける!」

「ああ、頼む。本気で暴れると思うから、押さえつけてくれよ! ジーモンさん!」

「は、はい!」


 背後で見守っているジーモンに声かける。まさかこのタイミングで声がかかるとは思っていなかったジーモンから慌てた声が返ってくる。


「心配なのはわかるけど、もう少しだけ離れてくれ。それと、痛みで暴れると思うから、危険だと判断したらもっと距離を取ってほしいんだ!」

「わかりました!」


 ジーモンだけではなく、目に見える住民たちが頷いたことを確認して、黒曜石の槍を構える。


「はじめるぞ!」


 竜種にも聞こえるように大きな声を出すと、目の前の巨体が強張ったのがわかった。

 ラウレンツが操る土人形が竜種の首、体、足、尾を押さえつけていく。

 見事の拘束された竜種の腹に、躊躇いを一切見せることなく槍を突き立てた。

 刹那、地鳴りのような叫びが竜種から放たれる。痛みから逃げ出そうと苦しみもがくが土人形が押さえつけていることで被害はない。


「ジャレッド! かなり力が強い! いつまでも持つかわからないぞ、できるだけ急いでくれ!」


 弱っている状態でかなりの力を発揮した竜種にラウレンツが悲鳴を上げた。

 もしも万全な竜種と戦うことになっていたらと思うと、冷や汗が流れてくる。

 そんな思考を振り払い、少しでも早く傷口を縫い終えるためジャレッドは血に塗れた腕に力を込めて続けるのだった。




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