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この度、公爵家の令嬢の婚約者となりました。しかし、噂では性格が悪く、十歳も年上です。  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
五章

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21.母の死の真実2.




「私の娘は暗殺者ではないが、十分すぎるほど育てたと自負している。毒を少し飲んだくらいでは死ぬことなどできない。だからこそ、毒殺だと耳にしたとき、私は疑問を抱いた。そして、なにか理由があるはずだとずっと探っていた」

「待て、待ってくれ、ワハシュ。本当に自殺なのか? いくら毒に耐性があっても致死量を摂取すれば人間は死ぬだろ」

「最後まで聞くんだ、ジャレッド。間違いなく、リズは自ら死を選んだ。であるなら、そうしなければならなかった理由とは一体なんだ?」


 ワハシュの言葉は、ジャレッドへの問いかけであると同時に、カリーナへの問いかけでもあった。

 ジャレッドは義母に視線を向ける。彼にとっても、なぜ自ら母が命を断たなければならなかったのか知りたいのだ。


「知っているなら教えてくれ、カリーナ!」


 ヨハンの願いに、カリーナは膝をつき嗚咽をこぼす。


「お母さま!」


 ロイクが母を守るように抱きしめるも、ワハシュを含め彼女になにかをしようとは誰も考えていない。

 ただ事実を知りたい、それだけなのだ。


「まさか、本当にお母さまが……どうして……」


 彼女の様子を見れば、よほどの間抜けではない限り察することができる。一同は、ただ、彼女の口から真実が語られるのを待っていた。

 そして、ついにカリーナが息子に抱きしめられながら震える唇で言葉を紡いだ。


「ごめんなさい、本当にごめんなさい。ジャレッドさん、旦那さま、どうか許してください」


 カリーナの謝罪は、母の死に関わっていると認めたと同然だ。

 ジャレッドは信じたくなかった。

母の死に、優しく愛してくれた義母が関与しているなど、到底受け入れることなどできなかった。


「あなたは、俺を実の息子同然に愛してくれたじゃないですか?」


 声が震えた。なにかの間違いであってほしい。そう願いながらも、心では彼女が嘘をついていないとわかってしまう。

 自分たちを騙そうとするには、あまりにも悪趣味な嘘である。なによりも、リズの父親の前で、そんなことをすれば殺される危険だってあるのだ。

 カリーナには、母の死に関与したなどという嘘をつく理由など微塵もない。


「愛しているわ。だって、リズさまの息子ですもの」

「なら、どうして、母の死に関わっているんですか! 理由を、教えてください!」

「私は、リズさまとは姉妹のように仲よくさせてもらっていました。でも――」


 なにかを言いかけたカリーナだったが、突如口を噤んでしまう。自分を抱きしめてくれる息子を一瞥すると、罪悪感と不安に揺れていた瞳に意思が宿る。

 その意思は、なにを代償にしても愛する者を守ろうとする母親のものだった。


「ごめんなさい、たとえ、殺されたとしても言えません」

「ふざけるな、カリーナ! 言え、言うんだ、なぜ、リズは自殺したんだ! なぜだ!」

「申しわけありません。旦那さま。ですが、言えないのです」

「――このっ」


 今にもカリーナに掴みかからんとばかりに、ヨハンに怒りが浮かぶ。だが、そんな彼をなだめたのはワハシュだ。


「そう彼女を責めてはならない。ヨハンよ、冷静になれ」

「仮にもあなたあの娘のことだろう!」

「だから落ちつけといっている。彼女には、言えない理由があるのだよ。息子の命を危険に晒したくない、そうだろう?」

「――っ、どうして、そのことを」


 目を見開きカリーナが驚く。しかし、驚いたのは彼女だけではなかった。

いまだ、義母が母の死に関わっていることが信じられないジャレッドも。ジャレッドを抱きしめるオリヴィエも。激高していたヨハンさえ、冷や水を浴びせられたように、怒りが沈下するほどの驚きを受けた。


「えっ、僕、ですか?」


 なによりも驚いたのはロイクだった。

 母親が、慕う兄の母リズ・マーフィーの死に関わっていたというだけでもまだ幼い少年には酷である。そんな彼に追い打ちをかけるように、命の危険があると言われたのだから。


「私は時間をかけてすべてを調べた。あなたの境遇には同情している。同時に、そんな中、ジャレッドを愛してくれたことには感謝さえしているよ」


 この場でカリーナを理解しているのはワハシュだけだった。


「どういうことだ?」

「ジャレッド、思いだせ。お前が、施設に連れ去られたあの日、最後に会った人間は誰だ?」

「……なぜ、そんなことを聞くんだ?」

「覚えていないのか?」

「いや、覚えている。よく俺についていてくれた家人がいた。気さくで、いい人だったよ。その人がどうしたんだ? 確か、身体を壊したから騎士をやめたと聞いていたけど」


 思いだすのは父の部下であり、家人でもあった男性だ。いつもジャレッドのことを「坊ちゃん」と呼び、いろいろな話を聞かせてくれた思い出がある。

 王都に戻ってきたジャレッドは、屋敷に彼の姿が見えないのでどうしたのかと尋ねると、身体の不調から騎士をやめ、王都のどこかで働いているときいた。


「ヨハン、その彼のことは覚えているか?」

「覚えています。僕の、信頼する部下だった。確かに身体の不調から騎士をやめたいと言ってきたことも。家人はやめないでほしいと頼んだのですが、ジャレッドの一件にも責任を感じているとのことで引き留めることはできませんでした」


 ヨハンの部下でもあった彼は、ジャレッドが失踪したときに大いに取り乱したらしい。無理もない。本来なら護衛としてそばにいるはずが、いくら側室のアネットに強く命じられたからとはいえ、本来の仕事をせず彼女の用事を優先してしまった。その結果、ジャレッドをひとりで送りだしてしまったのだから。

 だが、アネットの気質を知っているヨハンは彼を責めなかった。


「残念だが、彼も関わっている。そして、ジャレッドの一件の首謀者は――アネット・ダウムだ」



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