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3.ジャレッド・マーフィーと過去との再会1.




 オリヴィエたちが縁談申し込みに関することで大変な思いをしているころ、ジャレッド・マーフィーはアルウェイ公爵家にいた。


「宮廷魔術師になることが決まったこと、改めておめでとうございます!」


 そう言ってくれるのはコンラート・アルウェイ。オリヴィエの腹違いの弟であり、公爵家で唯一魔術師の才能に恵まれた子である。

 そばかすと幼さが残る亜麻色の髪の少年は、人懐っこい笑みを浮かべて出迎えてくれた。

 弟子にするつもりはないが、魔術の指南をする約束をしていたが、色々な出来事があったため予定よりも間が空いてしまった。

 つい先日は見舞いにもきてくれたコンラートとさっそく実戦形式を兼ねて体を動かすと、ひとりで行える自己鍛錬をしっかりと続けていたようで、彼の扱うことができる魔力が増えていた。

 魔力総量が上がることは稀であり、コンラートの魔力量が増えたわけではない。ただし、十の魔力をいかに使いこなせるかは鍛錬次第だ。コンラートが努力家であるとわかっていたが、魔力の扱いの向上を見れば、想像以上に努力したのだと理解できる。

 魔力を使うことを許した実戦形式の訓練では、待ちに待っていたといわんばかりに嬉しそうに魔術を使ってきた。

 火属性魔術師の才能をもつコンラートだが、初歩である魔力を炎として放つことしか教えていない。ジャレッドが魔術を教えると約束してから、屋敷の魔術師からも助言などを受けることなく淡々と瞑想と魔力を感じることのみを繰り返していたそうだ。

 剣の鍛錬も同時進行で続けているため実戦形式という体を動かせることは素直に嬉しそうだ。

 アルウェイ公爵が自ら稽古の相手をすることもあるそうだ。そのため型にはまった動きではなく、実戦的に鍛えられているので動きはいい。

 徒手空拳と初歩魔術だけで挑んでくるコンラートに剣を使っていいとも言ったが、魔術を主としたいとのことだ。そして、訓練中、魔術の使い方がわかってきたのか、単に魔力を炎として放つのではなく、腕に纏わせることを覚え応用してきたのは驚かされた。

 経験を積めば積むほど成長するタイプなのだろう。


「……ありがとう、ございました……お兄様……」


 息を切らして大の字になって寝転ぶコンラートにジャレッドは微笑んだ。

 十四歳という年齢と魔術を学び始めたばかりを考えると、剣術の鍛錬を行っていた土台があるため戦闘者になるには将来は明るいと思う。しかし、公爵家の息子が戦闘者になることはそうそうない。

一族の私設部隊を率いることをする場合はあるかもしれないが、公爵がコンラートにどのような立場を与えるのかさえわからないのだ。

 ジャレッドにできることは、成長期である今現在に可能な限りのことを学ばしてあげることだけ。

 あまりお勧めしたくはないが、アルメイダの訓練を受けさせるのもいいかもしれない。死にたくなるほど辛いが、体を鍛えることをたいしてしていなかったジャレッドが生き延びられたのだから、コンラートなら問題ないはずだ。

 問題はアルメイダが面倒を見てくれるかどうかだ。気まぐれな人なので、興味を抱かない人間にはとことん淡白なのだ。


「ひとりで鍛錬をよく頑張ったみたいですね。今は単調でつまらないかもしれませんが、間違いなく成長していますよ」


 コンラートに手を差し伸べ立ち上がらせると、成長していることがわかった彼は疲労を浮かべながら嬉しそうにはにかむ。


「ありがとうございます、お兄様。これからもご指南よろしくお願いします!」


 兄と呼んでくれるコンラートに、かつて自分が兄のように慕っていたルザーを思いだす。未だ行方不明の彼が早く見つかればいいと思う。


「じゃあ、魔力の流れを整えましょう。魔力疲労したらあとで辛いので」

「はい!」


 後方でアルウェイ公爵とテレーゼ夫人が見守っているテーブルにコンラートを連れていくと、あらかじめ用意されていた椅子に座らせ彼の体に触れて魔力の流れを視る。

 まっすぐな性格のコンラートが言われた通りに瞑想と魔力の流れを掴むために行われた鍛錬は結果がよくでていた。

 魔力すべてを扱いきれていないのはしかたがないことだが、使える魔力を無駄なく使うことができることはジャレッドが見習わなければならない。

 それでも無理をした魔術行使があるため魔力の流れが悪くなっている。誰もが通る道だ。この魔力の流れがスムーズに常に体を循環するようになれば、詠唱せずとも強力な魔術を使うことができるようになる。


「ジャレッド、聞いてもいいかな?」

「はい。どうしましたか?」


 邪魔をしないように見守っていた公爵がジャレッドに問う。


「君はどうしてコンラートとの訓練で魔術を使わなかったのだ? いや、使わずとも駆け出しのコンラートでは相手にならないのだと言われてしまえばそれまでなのだが……」

「いいえ、そんなことはありません。個人的な問題なのですが、今は魔力が十全ではありませんので、使用は控えているんです」

「といいますと?」


 公爵だけではなく、コンラートの母テレーゼ・アルウェイも疑問に思ったようだ。


「ええっとですね、先日まで抑えていた魔力を解放したことにより、少し持て余しているんです。ですから、訓練とはいえ実戦形式なので万が一ということもあったので魔術を使うことはしませんでした。もし、そのことでお気に触ったのであれば申し訳ございません」

「そうではない。こちらこそつまらないことを言ってしまったな。だが、まさか魔力を抑えていたとは思わなかった。バルナバス・カイフとの戦いも魔力押さえていたのかな?」

「そうはいきませんでした。バルナバスとの戦いで無理やり魔力を解放されてしまったのです。そのおかげで勝利することはできましたが、魔力を封じたままであれば死んでいたでしょう」


 死という単語に公爵たちが息を飲む。

 バルナバス・カイフの一件は伝わっているようだが、彼の強さは戦ったジャレッドがよくしっている。

 理性をなくしながらも強敵だった彼が魔力を欲することなく命を奪おうとしていれば敗者は自分だっただろう。


「だが、君は勝利した。生きてここにいる。もう何度も言われたと思うが、改めて宮廷魔術師になることが決まったことおめでとう。候補に選ばれてから宮廷魔術師に決まるまで歴代最速と聞いたよ。まるで自分のことのように嬉しく思うよ。ダウム男爵もさぞ喜んでいるだろう」

「おめでとうございます、お兄様!」

「マーフィー殿。本当におめでとうございます」

「ありがとうございます。祖父も祖母も、本当に喜んでくれています。まだ正式に宮廷魔術師を名乗ることはできませんが、いずれは母や現宮廷魔術師の先輩方に負けぬよう精進したいと思っています」


 心から喜んでくれている公爵たちに深く頭を下げる。

 しかし、顔をあげると公爵だけではなくコンラートとテレーゼも表情を曇らせていた。


「どうかしましたか?」

「その、なんだ。君は宮廷魔術師候補だけではなく現役宮廷魔術師をも倒したバルナバス・カイフを倒した功績によって宮廷魔術師となる。正当な評価だと思う。ゆえに、今後もコンラートへの指南を任せてしまっていいものかと疑問に思うのだよ」




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