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この度、公爵家の令嬢の婚約者となりました。しかし、噂では性格が悪く、十歳も年上です。  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
三章

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27.バルナバス・カイフの理由2.



「元宮廷魔術師候補って、本当に?」


 犯人のまさかの素性に、驚きを隠せず問うもデニスが首肯する。

 宮廷魔術師候補と宮廷魔術師を襲った犯人が元宮廷魔術師に、驚き半分、納得が半分だ。

 ジャレッドはずっと宮廷魔術師候補を殺害できる実力ができる人間なら相応の力を持っていると予想していた。いくら刀剣の類で一突きとはいえ、一定以上の実力を持っているからこそ選ばれた宮廷魔術師候補を殺害するなど決して容易いことではない。

 むしろ、魔術師に対して刀剣のみで戦うのなら、身体能力などはより上でなければならないとさえ思っていた。


「七年前、バルナバス・カイフは現宮廷魔術師であるトレス・ブラウエルさまたちと宮廷魔術師の席を争った人物であると同時に、ご友人でもありました」


 犯人が元とはいえ宮廷魔術師候補であるなら、宮廷魔術師候補たちを殺害できたこと、宮廷魔術師を襲うことができたことも納得ができた。

 しかも宮廷魔術師になれなかったとはいえ、七年も時間が経っているのならバルナバスの実力は上がっていると考えてもいいだろう。


「当時、『風狂い』のバルナバスと言えば、宮廷魔術師にもっとも近い宮廷魔術師候補だと期待されていた魔術師でした」

「……そういえば、ラウレンツ様がケヴィン様からお話を聞き、興奮していたことを覚えている」


 ベルタは覚えがあるようだが、ジャレッドにはなかった。

 七年前、自分と同じ宮廷魔術師候補だったバルナバスに興味を抱き、デニスの説明に耳を傾ける。


「単純な実力であれば当時の宮廷魔術師候補の中では群を抜いていました。誰もが彼が新しい宮廷魔術師として空席を埋めることを信じて疑わず、この私のそう思っていた一人でした」


 しかし、バルナバスは宮廷魔術師になれなかった。


「バルナバスはどうして宮廷魔術師になれなかったんですか?」

「当時、私もそのことがとても不思議でした。七年前、宮廷魔術師候補たちは複数の課題の中からひとつを選び、達成することを求められました。誰もが聞けば納得できる実力を示してほしかったのです。しかし、どういうわけかバルナバスは誰も成し遂げたことのないミノタウロス討伐の課題を選択したのです」

「……ミノタウロス討伐って、どうしてそんな難題を?」


 結果は聞くまでもない。

 ミノタウロスといえば、竜種と匹敵するほど強力な種族である。いや、怪物というべきかもしれない。

 大陸の各場所に存在する『地下迷宮』の主であるミノタウロス。一説によれば神の呪を受けた元人間や、突然変異種であるなどと考えられているが、はっきりとした詳細は未だにわかっていない。

 解明したくても意思疎通ができず、倒すこともできない。なによりも、ミノタウロスは好んで人間を食うのだ。正直言って、出会いたくない。

 学者の中にはそんなミノタウロスの謎を解明しようと躍起になっている者もいて、多くの冒険者や魔術師を雇い地下迷宮に挑んでは誰ひとりとして帰ってこないという事件が年に一度は起きている。

 地下迷宮は魔物の住処であるため、見つければ各国へ報告義務がある。

 地下迷宮が見つかれば近隣住民は避難することとなると同時に、魔術師協会と冒険者ギルド、そして国によって管理される。

 地下迷宮を探るため騎士団や冒険者が派遣され、迷宮に住まう魔物を極力外にださないように討伐を繰り返す。魔物たちもあまり迷宮の外に出ようとはしないが、思いだしたように人里を襲うこともあるので注意が必要だった。

 地下迷宮の主ミノタウロスには莫大な懸賞金がかけられており、討伐に成功すれば一生遊ぶことができる大金が支払われることにもなっている。そのため、多くの冒険者が一攫千金を夢見て挑戦しては死んでいくのだ。

 現在、ウェザード王国には地下迷宮がひとつあり、最初に確認されたのは五十年ほど前だ。しかし、未だにミノタウロスを倒せた者はいない。

 いくら宮廷魔術師にわかりやすい実力が必要だからといって、課題として用意した魔術師協会も大概だが、わざわざ数ある課題から選んだバルナバスもバルナバスだ。


「バルナバスは地下迷宮最深部にたどり着くことこそできましたが、ミノタウロスと戦い――敗北しました。しかし、あの怪物と単身で戦い負けたとはいえ生き延びていることは快挙だといってもいいでしょう。ですが、宮廷魔術師になるために必要な判断能力が欠けていると誰もが判断し、彼は宮廷魔術師になることが叶わなかったのです」


 無理もない判断だ。どれだけの自信があればミノタウロスに勝てると自己判断できるのか理解に苦しむ。

 ミノタウロスは人間ではまず勝てない怪物ではあるが、竜種同様に下準備をして犠牲を払えば倒すことはできる。しかし、普通はよほどのことがなければ倒そうとは思わない。

 先日、幼い竜種を狩ろうと冒険者たちがひとつの街を巻き込んだことがあった。幼い竜種は確かに人間でも勝てるだろう。それでも、ジャレッドの目に映ったのは冒険者と竜種の戦いで破壊された街並みだった。

 これがミノタウロスであれば被害こそ地下迷宮が受けるので好き勝手に戦えるのかもしれないが、竜種と違いミノタウロスは存在そのものがはじめから強いのだ。

 研究者によれば幼い個体も存在し、繁殖もするらしい。ひとつの迷宮に家族で暮らしている場合も確認されたことがあり、その場合は親が子を守ろうとしていた姿も見られていると聞く。

 だが、それは親が子を守ろうとする本能であり、決して子が弱者だからではない。

 ウェザード王国の迷宮に何体のミノタウロスが暮らしているのか、その個体が幼いのかどうかも判明していない。

 それにも関わらず、ミノタウロス討伐に挑んだバルナバスを愚かだとジャレッドは判断した。


「実は、つい二週間ほど前に地下迷宮にてミノタウロスの遺体が一体発見されています」

「――おいおい、嘘だろ。まさか?」

「もしや、バルバナス・カイフがミノタウロスを倒したと言うのですか?」

「魔術師協会、冒険者ギルドはそう判断しています。彼の得意とする狂ったような風属性魔術の使い方は実に特徴的でして……いいえ、まるでバルナバスがミノタウロスを倒したのだとわかるようにわざと特徴的な倒し方をしたというべきなのかもしれません」


 つい今までジャレッドはバルナバスを自信過剰な男と推測していたのだが、どうやら違うらしい。

 当時はどうあれ、七年間を経てミノタウロスを倒すことが可能となったのなら、その実力は計り知れない。


「だけどちょっと待ってください。デニスさんが言うとおり、ミノタウロスをバルナバスが倒したのなら、今も空席がある宮廷魔術師を願えば叶うんじゃ?」


 七年前、課題に失敗した事実は変えられない。しかし、それ以上に大きな快挙を成し遂げてしまった。ならば、王宮も魔術師協会もバルナバスを宮廷魔術師として迎えることはできないのかと疑問が浮かぶ。

 宮廷魔術師に求められているのは強さなのだ。

 ミノタウロスを倒したバルナバスほど宮廷魔術師に相応しい者はいないはずだ。


「もちろん可能です。もし、彼がミノタウロスを倒したと自己申告し、宮廷魔術師を望んだとしましたら、協会も王宮も決して拒みはしなかったでしょう」


 しかし、そうはならなかった。

 元宮廷魔術師候補バルナバス・カイフは、過去を清算するようにミノタウロスを倒すも、宮廷魔術師の地位を願うのではなく、宮廷魔術師候補を襲い、友であるはずの宮廷魔術師トレス・ブラウエルまでも襲った。

 今では立派な殺人犯として容疑をかけられている。

 なぜ、彼が凶行に走ったのかジャレッドはただただ疑問に思うのだった。




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