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許してくれとは言わない

 



クロス side




俺はアルフォレッドと別れた後、戦闘ギルドのマスター室に向かう。

シェイルに呼ばれているからだ。


呼ばれた内容は……アヤミの事だ。

シェイルはアヤミが帝国の人間ではないかと疑っているみたいだ。

……いや、正直俺も少し疑っていた。



俺が初めて好きになった女。

最初は疑って居なかったがしばらく後でシェイルに言われた言葉で疑ってしまった。


“彼女の経歴がわからない”



シェイルは俺には言わずアヤミの経歴を調べていたらしい。

どこで生まれたのか、今までどんな暮らしをしてきたのか。

だが、経歴は一切わからなかったらしい、あの店を誰が買ったのかも。

その報告書が出来てから俺はシェイルに一度呼び出された。


“アヤミ・ファレスは帝国の人間かもしれない。 クロス、アヤミ・ファレスの行動を見張れ”



俺は帝国の人間を恨んでいたから戸惑いながらもその任務を受けた。


俺は元々帝国の貴族だった。

しかし、幼い頃の俺には魔力がなく毎日毎日他の貴族の子供に魔法の的にされたり、食事を与えられなかったりしてボロボロになっていったのだ。


そして、5歳になった時に俺は帝国とこの国の境にあるマルトの森に捨てられた。

マルトの森はAランクやSランクの魔物が住んでいるので5歳であった俺がそこに捨てられたら普通は死ぬ。


俺が今死んでないのは元全帝であるジルさんのおかげだ。



ジル・クーラー。



元全帝であり現ギルドマスターの1人。

マルトの森に捨てられソウルフル(ボロボロの鎌を持った赤い骸骨)に襲われていた俺を助けてくれたのがジルさんだった。


俺の身体には帝国の人間である証があるのがわかったはずなのに、ジルさんは俺を家族として育ててくれた。


しかし、ジルさんは帝国の罠によって左腕を失ってしまったのだ。

そして全帝を辞めたジルさんは同じことがないようにとギルドマスターになった。



俺は魔力が開花されてなかっただけで魔力はあったのかジルさんの修行によって強くなっていった。

左腕を失いながらもジルさんの腕は衰えていない。


そして、俺は空いていた全帝になった。





「クロス、様子はどうだった?」



過去を思い返していればいつの間にか目の前にシェイルが居た。

今日呼び出されたのはアヤミの事。

怪しい所はなかったかとか怪しい奴は居なかったかとかそんな感じの事を報告する。


もちろん、アヤミに怪しい所なんてなかったが。





「何もない。 今日も反応すらなかったからな」


「アヤミ・ファレスは帝国の人間なんだ。 上手く演技してるんだろう、引き続き見張っていてくれ」




演技……?

あの何も写らなくなった瞳が?


……いや、そんな事はない。

アヤミがあの男を殺した時は本当にパニックになっていた。


あの瞳は本物だった。

俺が帝になってからたくさん見てきた瞳と同じ。

あれが演技だと言うなら何が本当なんだ?


……アヤミを多少でも疑っていた俺が言える言葉ではないのはわかっている。

好きになった奴を疑うなんて俺はどうかしていた。

俺が疑ってなければアヤミをあんな人形のようにさせなかったかもしれないのに。





「俺はこの任務を降りる」



無駄かもしれないが、今からでもアヤミに罪滅ぼしがしたい。

もう、アヤミを好きだと言える立場ではないがアヤミに元気になってもらいたい。

幸せになってもらいたいんだ。


俺の言葉にシェイルが眉をひそめ不機嫌そうにしてるのがわかる。





「ギルドに登録している以上、ギルドマスターの命令は絶対だ。 アヤミ・ファレスは帝国の人間、この国の住民の為に始末しなければならない」


「アヤミが帝国の人間だと言う証拠があるのか?」


「帝国の人間ならば身体に証があるはずだ。 ギルドマスター命令で身体を見ればわかる」




アヤミは戦闘ギルドには登録していない。

ギルドマスター命令だからってそれをアヤミが聞かなければいけないなんて事はないだろ。




「アヤミは戦闘ギルドに登録してないのだから命令を聞く必要はない」


「戦闘ギルドも商業ギルドもあまり変わらない、このギルドは兄弟でやってるんだからな。 商業ギルドだけに登録していたとしてもギルドマスターである僕の命令は絶対だ」




戦闘ギルドと商業ギルドは建物自体はくっついているが別々に別れて運営してる。

それをそんな訳のわからない理由でギルドマスター命令が出来るわけがない。

それだったらジルさんがギルドを分けた意味がない。




「それにクロスは戦闘ギルドに登録してるのだから僕の命令を聞く立場にいるはず」




確かにそうだ。

アヤミはともかく俺は戦闘ギルドの帝であるのだからギルドマスターの命令は聞かなくてはならない。


しかし……。




「なら、俺は帝を辞める」




ジルさん、すみません。

勝手かもしれないけど俺はアヤミを守らなくてはならない。

その為に帝の身分は邪魔なんだ。


俺の言葉が信じられないのかシェイルは目を丸くしてる。

当たり前だな、自ら努力して手に入れた地位を捨てると言うのだから。


だが、俺はもう決めたんだ。

疑ってしまったのは取り消せない事実だがアヤミを守ると。


無属性のボックスから全帝である証のロープとバッチを取り出せばマスターの机に置く。



アヤミを守る為、もうこのローブとバッチに未練はない。



まだ呆然としてるシェイルを見れば俺は声をかけずそのままマスター室から出て行った。





アヤミ。


今度こそ俺はアヤミを信じる。


疑ってしまった事を

許してくれとは言わない。


だけど、元気になってくれ。



今度は俺が絶対、お前を守るから。



 

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