掘る
犬が穴を掘っている。世界の果てのような場所で、前足を激しく上下に刻み続ける。天も地も見分けがつかないような場所で、犬が穴を掘っている。下向きな尾を後ろ足に挟みこみ、ひた向きに掘り続ける。
A「何かを探しているのかしら」B「いや、ただの気まぐれさ」C「ああ、無性に掘りたくなるときってあるよ」A「そうね」B「そうかもな」C「ああ、そうさ」
A「ところで今日はいつ?」 B「さあ、いつだろう」C「昨日より進んだ日さ」A「見えないのよ」B「見えないよな」C「別に見えなくていいさ」A 「でも不安じゃない? 」B「不安?」 C「いや全然」
A「時々、掘りたくなるの」B「え? 何を?」C「何でもいいのさ」A「そう、何でもいいの」B「わからないな」C「掘りかえして懺悔して悦に浸るんだろう」A「さあ、どうかしら」B「ああ悲劇のヒロインか」C「何にも変わりやしないのに」
犬が穴を掘っている。やがて低く唸りながら前足からは血が流れ、あと僅かで引きちぎれてしまうような勢いで、犬が穴を掘っている。後ろ足で必死に体勢を支えながら一心不乱に掘り続ける。
A「まだ掘るのかしら?」B「憐れだな」C「そのうち気付くだろう」A「宝なんかないことに?」B「でもゴミだって宝になるんじゃないか?」C「よく見てみろよ」A、B「うん!? ああ…… 」C「そうさ。穴なんか一ミリもあいていない。あいていないんだよ」