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この世界の救世主  作者: くろにゃん
難民救出作戦編
9/21

第7話:戦士の骸と人の心

「よく戻ってきたな。分隊はお前たちだけか?」

場所は香港、人類上陸用簡易基地。負傷、または戦死した兵士の数は、ここを出発した時よりも明らかに増えていた。

「他がいたら一緒に戻ってきてます。それよりも、どうして後退命令がでたのです?教官」

ヘルキャットから降りた大和、炎羅、沙織、恵理の四人は彼らの教官、真理亜へ報告をしに来ていた。

「主力を送る強襲揚陸艦が雷撃を受けた。どこのだれかはわからんが」

「奴らは戦車だから魚雷攻撃は不可能なんじゃないんですか?」

恵理が質問をする。

「だからどこのだれかはわからん、と言ったんだ。とにかく、主力が半減した今、これ以上の進軍は不可能。難民には悪いが、上層部が撤退の判断を下した」

真理亜が拳を強く握るのが見えた。

「『今作戦において我々の死は重要じゃない』と言っておいて前線に出ない私がばかばかしいな。最近はいつもこうだ。口だけが達者になる」

何も言い出せない大和達の方を向き直す真理亜。

「…すまないな。そういうわけだ、お前たちも撤退の準備をしてくれ」

「わかりました」

そう言って、大和達は真理亜のいる軍用テントを出る。

「…なあ、大和」

「ん、何だ?炎羅」

「みの……いや、何でもない」

「そうか…」

「すみません。あのヘルキャットの乗員の方々ですよね?」

急に話しかけてきた衛生兵が大和達のヘルキャットを指差している。

「ええ、そうだけれど」

「あの…言いにくいのですが…車内の遺体を……」

「あ…」

何も言えなくなる沙織。

「おまえらは先言って準備してくれ。運ぶなら二人いれば十分やろ」

「……ほら、行くわよ」

沙織が大和と沙織の手を持って歩いていく。

「…ありがとう、炎羅」

恵理が二人を連れながら言った。


「行っちゃったわね」

「日本人は島がお似合いよ。でしゃばるから痛い目見るの」

人類上陸用簡易基地から出港する輸送船団を眺めつつ話をする社とキングティーガー。

「しっかし、よく引っかかってくれたわね。あの欺瞞情報に」

「私にかかればそのくらい楽勝よ。ポルシェとは違うの」

「難民なんて、よく考えればもういるはずもないのに。馬鹿な連中よね」

「それがあなたがこっち側に来た理由?過去に何かあったって聞いてるけど」

「違うわ!そんなちっぽけな理由じゃない!私は、私はっ…!」

怒りや憎しみ、悲しみなど様々な感情が彼女の中に渦巻き、崩れ落ちそうになり、キングティーガーに寄りかかる社。

「…少し落ち着きなさい。昔のことを思い出したの?」

黙って、首を縦に振る社。

「……このところ出撃ばかりだったし、休んでもいいんじゃないかしら?」

「……まだ」

「え?」

「まだ休めない。彼からの連絡が来てないわ」

「…そうだったわね……。彼、今少佐みたいよ」

「そう。私には関係ないわ。」

「そうかしら、大佐殿?」


輸送船で香港から日本へと帰る間、第六戦車分隊の生存者4人は、一言も発することはなかった。

帰国後、ミハエル学園へと戻った学園生徒達の雰囲気は暗く、重かった。作戦前のわきあいあいとした学園の姿は消え、授業の合間の小休憩の時間や、放課後もどんよりとした、暗い雲でも覆っているような、そんなものだった。どれだけ晴れ晴れとした青空が広がっていても、生徒たちの心は曇り空が広がっていた。

生徒の変化は心だけではない。生徒の数は目に見えて減っており、戻ってきた生徒の中には手、足、腕、ひどいものだと下半身がないものなど五体満足で帰還してきたものだけではなかった。様変わりした自分の体や、友人の体に恐怖を抱き、PTSDを発症する生徒も少なくない。

実際、作戦直後に学園で授業に出席できていた生徒は、入学時の三分の一程度だった。しかし、日にち薬ともいうように、日を重ねるごとに出席する生徒の数は増え、学園の雰囲気も戻りつつあった。それに影響されてか、まだ悲しみに暮れ落ち込んでいる生徒も、徐々にではあるが明るくなっていた。

…それでも例外もあったことは事実だ。

「はい、柳田です」

『あ、母さん?大和だけど…』

「あら、どうしたの?元気?」

『…まあ』

「実はどう?元気にやってる?」

『……ごめん』

「え?」

『全部、俺のせいなんだ…』

「…大和が全部悪いわけじゃない――」

『全部俺のせいなんだよ!実が死んだのも!分隊の仲間が死んだのもっ!』

母親の言葉を遮るように怒鳴る大和。

「…なんでも一人でやろうとするのは大和の悪い癖よ。抱え込まないで誰かに打ち明けるのは悪いことじゃないし、案外それで解決することもあるのよ」

『……ごめん、怒鳴って』

「いいのよ」

『…じゃあ、また』

「またね、大和」

電話が切れる。受話器を戻し、その場に泣き崩れる大和の母親。

彼女の夫、大和の父親が後ろから静かに抱きしめていた。


その日の最後の授業。もうすぐ終了の時刻が迫っていた。

「―――。では、今回の授業はここまでとする。」

チャイムが鳴り、授業を切り上げる真理亜。日直が号令を言い、礼をし終わる生徒達。

「そうだ、大和。放課後職員室へ来い。言っておくことがある」

「…わかりました」

入学当初の彼とはまるで違う、張りの無い返事だったが、真理亜は何も言わず教室を去っていった。

作戦は終わり、日本に帰還できた人たちの今です。こんな感じの回が(多分)次まで続きます。

大和の父親と母親が初登場しますが、実はまだ名前が決まってなかったりしますwいくつか候補はあるのですが、なかなか決めれなくて…


最後に、このシリーズを通して言えることですが、戦車等兵器(WW2~2015年にかけてのもの)が登場します。が、こちらの世界の史実と違う点があるかもしれません。その場合は、この物語の世界はこういうことなんだと思ってください。お願いします!

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